第1章 第10話
文字数 2,101文字
「おいトラ。顧問の先生が来るなんて聞いてねえぞ!」
「あ? シカトシカト。あんなウザいメガネババア、放置プレーでいいって!」
トラが吐き捨てる様に言うと、周りで笑いが起きる。
「マジウザいんだよなババア。何かっつうとねちっこく語りだすし」
「そーそー。あの「私はあなた達を信じてますー」的な? うるせーっつうーの」
「ギャハハー そんでみんな自分のこと好きだと勘違いしてるし。イタタ…」
「何で今更、ウチの顧問なのかね。まあ前の滝田もウザかったけどな。」
散々な言われようだ、サッカー部顧問。健太は呆れつつも、
「ま、そんな訳で今日一日だけお前らのサッカー、見させてもらうからな」
トラを除く生徒たちは疑心暗鬼の視線で、
「「「ウイー」」」
… 礼儀もへったくれもない。ま、いっか。今日一日だけだし。
「ところで。今日休みの奴いるのか?」
全員が首を横に振る。
「へ? ってコトは… 七、八、え? 九人だけ?」
全員が首を縦に振る。
「そっか、今時の中学校って、こんなんなのか…」
健太が驚いて問いただすと、
「いやー、他のガッコはそーでもねーよ。ウチだけじゃね?」
「それそれ。ウチはトラがおっかねーから。なんちって」
全員が笑う。え、そうなの?
「いや、本当はウチにちゃんとした指導者いないんっすよ。だからみんな街クラブに入っちゃうんですよ」
主将のG Kの小谷が答える。
それは仕方ない。まあ別に俺がそれを気にする必要もない、今日一日なのだから。と健太は思い、
「よーし。一人ボール一個持ってこい」
皆、ズタボロのボールを持ってくる。
「リフティング。ミスったらその場で座れ。ハイ、始め」
サッカーの上手い下手を見分けるのに手っ取り早いのがこのリフティングだ。コツを掴み何千回とできる様になるには長年の努力と根気、そしてサッカー愛が必要なのだ。
見ていると、早速脱落者が二名。きっと中学からサッカーを始めた子なのだろう。
G K(ゴールキーパー)も10数回で脱落。まあそんなもんだろう。
あとの六人はどれほどやる子なのだろう。健太は彼らの足捌きに少し興味が湧いてきた。六人は皆、明らかに小学生低学年から球を扱ってきた形跡が見られる。
中でもトラは別格であった!
なんだコイツ?
全く体軸がブレずに背筋もシャンと伸びていて、姿勢が美しい。ボールはトラの意思のまま自由自在に宙を舞い、それをさも簡単そうに捌いている。
なんでこんな奴が、こんなとこで…
他の五人もトラほどではないが、十分街クラブレベルで活躍できそうな足捌きだ。少なくとも俺の子供の頃より遥かに上手いわ… 健太は密かに驚嘆していた。
次に健太はグランド中央からゴールに向かいコーンを並べさせて、
「ドリブル、シュートまで。右脚左脚、交互で。キーパーも」
トラを含む経験者六人は流石なモノだった。皆足に吸い付く様なドリブル、狙いすましたシュート。やはりこんな部活レベルでは勿体ない。
初心者も一人は足が異様に速い。呼び寄せて聞いてみると、学校のリレー代表に選ばれるほどのモノらしい。
もう一人の初心者はトラに次ぐガタイの良さだが足元のテクニックが弱い、と言うか皆無。だが体幹はしっかりとしており、パワーに満ち溢れている。スタミナも相当ありそうだ。呼び寄せて聞いてみると、学校のマラソン大会では学年一位だそうだ。
G
Kの小谷も俺ほどの上背がある。動きが俊敏でアジリティに富んでいる。キャッチングは滅茶苦茶だが、G Kとしてのポテンシャルは凄いものがある。
これは……
九人しかいないが。ちゃんとした指導者がコイツらを鍛え上げたら…
何人か苦しそうな子が目に入ったので、一旦休憩を入れることにする。
「オマエ、サッカー久しぶりなのか?」
その中でも一番苦しそうにハアハア言っているトラに健太は尋ねる。
「ああー、半年、年ショーいたしー」
下級生が怯えた顔になる。それを上級生がいじり倒す。このチームの雰囲気は悪くない。健太の大嫌いな、上下関係が緩い雰囲気ではあるが。
時計を見ると既に三時過ぎだ。校庭は四時までしか使用出来ないらしい。
「よし。チーム半分に分けて、ミニゲーム!」
ワッと歓声が沸く。ゲーム(試合)こそがサッカーの全て。健太も学生時代は練習よりも試合が好きだった。
「5−4で分けろ。少ない方に俺が入る」
おおおおーと皆が沸く。ったく、トラの奴。俺のことをコイツらに何と言ってるんだ?
「だって、元フロンティアのJリーガーっしょ?」
「フロンティアの前。Jでは戦ってない」
「でも城東学園でインハイ出たんでしょ?」
「ああ、まあな」
「御茶大サッカー部でユニバ出たんでしょ?」
「おお、まあな」
俺、そんな喋ったか、昨夜? 健太ははてなマークが頭に浮かぶが、それよりもミニゲームだが久しぶりにボールを蹴れることに少し浮き足立っている。心がウキウキしている。
やはり。俺は好きなんだ、サッカー。
五十歳になってもこの胸のトキメキ。
「よーし、コート作れ。キーパーは交代でやるぞ。サイド出たらキックインでな!」
足元のジョギングシューズを見下ろす。心底、スパイクが欲しくなっていた。
「あ? シカトシカト。あんなウザいメガネババア、放置プレーでいいって!」
トラが吐き捨てる様に言うと、周りで笑いが起きる。
「マジウザいんだよなババア。何かっつうとねちっこく語りだすし」
「そーそー。あの「私はあなた達を信じてますー」的な? うるせーっつうーの」
「ギャハハー そんでみんな自分のこと好きだと勘違いしてるし。イタタ…」
「何で今更、ウチの顧問なのかね。まあ前の滝田もウザかったけどな。」
散々な言われようだ、サッカー部顧問。健太は呆れつつも、
「ま、そんな訳で今日一日だけお前らのサッカー、見させてもらうからな」
トラを除く生徒たちは疑心暗鬼の視線で、
「「「ウイー」」」
… 礼儀もへったくれもない。ま、いっか。今日一日だけだし。
「ところで。今日休みの奴いるのか?」
全員が首を横に振る。
「へ? ってコトは… 七、八、え? 九人だけ?」
全員が首を縦に振る。
「そっか、今時の中学校って、こんなんなのか…」
健太が驚いて問いただすと、
「いやー、他のガッコはそーでもねーよ。ウチだけじゃね?」
「それそれ。ウチはトラがおっかねーから。なんちって」
全員が笑う。え、そうなの?
「いや、本当はウチにちゃんとした指導者いないんっすよ。だからみんな街クラブに入っちゃうんですよ」
主将のG Kの小谷が答える。
それは仕方ない。まあ別に俺がそれを気にする必要もない、今日一日なのだから。と健太は思い、
「よーし。一人ボール一個持ってこい」
皆、ズタボロのボールを持ってくる。
「リフティング。ミスったらその場で座れ。ハイ、始め」
サッカーの上手い下手を見分けるのに手っ取り早いのがこのリフティングだ。コツを掴み何千回とできる様になるには長年の努力と根気、そしてサッカー愛が必要なのだ。
見ていると、早速脱落者が二名。きっと中学からサッカーを始めた子なのだろう。
G K(ゴールキーパー)も10数回で脱落。まあそんなもんだろう。
あとの六人はどれほどやる子なのだろう。健太は彼らの足捌きに少し興味が湧いてきた。六人は皆、明らかに小学生低学年から球を扱ってきた形跡が見られる。
中でもトラは別格であった!
なんだコイツ?
全く体軸がブレずに背筋もシャンと伸びていて、姿勢が美しい。ボールはトラの意思のまま自由自在に宙を舞い、それをさも簡単そうに捌いている。
なんでこんな奴が、こんなとこで…
他の五人もトラほどではないが、十分街クラブレベルで活躍できそうな足捌きだ。少なくとも俺の子供の頃より遥かに上手いわ… 健太は密かに驚嘆していた。
次に健太はグランド中央からゴールに向かいコーンを並べさせて、
「ドリブル、シュートまで。右脚左脚、交互で。キーパーも」
トラを含む経験者六人は流石なモノだった。皆足に吸い付く様なドリブル、狙いすましたシュート。やはりこんな部活レベルでは勿体ない。
初心者も一人は足が異様に速い。呼び寄せて聞いてみると、学校のリレー代表に選ばれるほどのモノらしい。
もう一人の初心者はトラに次ぐガタイの良さだが足元のテクニックが弱い、と言うか皆無。だが体幹はしっかりとしており、パワーに満ち溢れている。スタミナも相当ありそうだ。呼び寄せて聞いてみると、学校のマラソン大会では学年一位だそうだ。
G
Kの小谷も俺ほどの上背がある。動きが俊敏でアジリティに富んでいる。キャッチングは滅茶苦茶だが、G Kとしてのポテンシャルは凄いものがある。
これは……
九人しかいないが。ちゃんとした指導者がコイツらを鍛え上げたら…
何人か苦しそうな子が目に入ったので、一旦休憩を入れることにする。
「オマエ、サッカー久しぶりなのか?」
その中でも一番苦しそうにハアハア言っているトラに健太は尋ねる。
「ああー、半年、年ショーいたしー」
下級生が怯えた顔になる。それを上級生がいじり倒す。このチームの雰囲気は悪くない。健太の大嫌いな、上下関係が緩い雰囲気ではあるが。
時計を見ると既に三時過ぎだ。校庭は四時までしか使用出来ないらしい。
「よし。チーム半分に分けて、ミニゲーム!」
ワッと歓声が沸く。ゲーム(試合)こそがサッカーの全て。健太も学生時代は練習よりも試合が好きだった。
「5−4で分けろ。少ない方に俺が入る」
おおおおーと皆が沸く。ったく、トラの奴。俺のことをコイツらに何と言ってるんだ?
「だって、元フロンティアのJリーガーっしょ?」
「フロンティアの前。Jでは戦ってない」
「でも城東学園でインハイ出たんでしょ?」
「ああ、まあな」
「御茶大サッカー部でユニバ出たんでしょ?」
「おお、まあな」
俺、そんな喋ったか、昨夜? 健太ははてなマークが頭に浮かぶが、それよりもミニゲームだが久しぶりにボールを蹴れることに少し浮き足立っている。心がウキウキしている。
やはり。俺は好きなんだ、サッカー。
五十歳になってもこの胸のトキメキ。
「よーし、コート作れ。キーパーは交代でやるぞ。サイド出たらキックインでな!」
足元のジョギングシューズを見下ろす。心底、スパイクが欲しくなっていた。