第6章 第5話
文字数 1,060文字
その一週間後。
トラをスポーツ整形外科で有名な川崎にある関東総合病院に送った帰り道。健太は一人、川崎駅前のビルにある川崎フロンティアのオフィスを訪れ、U18監督の栂正樹と話していた。
「そうですかー。じゃあ、トラは手を出してないんですね?」
「ああ。全くの被害者だ。相手には一切手を出していない」
「で、怪我の具合は?」
「大腿四頭筋の部分断裂。バットでおもいっきし殴られたらしい。全治一ヶ月。特に後遺症は残らないと医者は言っている」
「それは良かった。てか、バットで殴られて、そんだけ? ホントに丈夫なヤツですね。ウチの塩尻が、ええ、U15代表の塩尻が。あの赤髪、絶対骨が鉄で出来てるって言いふらしてますよ」
「マサ、それで。今後のアイツの事なんだが…」
「暴力沙汰はマジ勘弁してください。今後、絶対」
「ああ。わかっている。俺がしっかり、見張って行く」
栂はニヤリと笑いながら、
「へー。どうやって?」
「それは… その… 何とか、頑張って…」
「プハっ ま、どっちにしろ、トラは俺が面倒見ますよ、いや見たいです。ただ、一つ条件があるんだけど」
健太は目を瞑り、深く頷きながら、
「何でも言ってくれ。マサの言う通りにする。」
栂は目を見開き、
「言いましたね。何でも言う事、聞いてくれるんっすね?」
「ああ。だから、その代わり…」
栂は小さくガッツポーズをしてみせ、
「じゃあ、夏休みからトラ、ウチの練習寄越してください。それと…」
健太は心から安堵する。
「夏休みに、ケンタさん、C級コーチのライセンス取っちゃってください」
健太は眉を顰め、
「は? 何それ?」
「そんで、秋からウチのユースのコーチ、引き受けてください。それが、トラをウチで引き取る条件」
呆然とする。何だそれ。俺が、フロンティアのユースのコーチ?
「ゆくゆくは、トップチームも見てもらいたいんだけど。これ、G Mの意向だからねー」
「マサ… ちょ… 話に、ついて行けん…」
「タクさんがさ。久しぶりにこないだケンタさんと会ったじゃん。言ってたよ、ケンタさんの目はあの頃のままだって。玉電サッカー部をJ昇格に導いた、あの頃の目のまんまだったって」
健太はソファーに深く座り直し、
「ちょっと… 考えさせてくれ…」
「なる早で。来年のスタッフ予定、上に提出しなきゃだから」
栂は立ち上がって、
「俺も、見てみたいよ。あの頃の永野健太の、クールで熱い指導をさ」
そう言ってウインクしてみせる。
俺が、プロの卵たちの、コーチ。
夢想だにしたことのない申し出に、ただただ戸惑うばかりの健太なのである。
トラをスポーツ整形外科で有名な川崎にある関東総合病院に送った帰り道。健太は一人、川崎駅前のビルにある川崎フロンティアのオフィスを訪れ、U18監督の栂正樹と話していた。
「そうですかー。じゃあ、トラは手を出してないんですね?」
「ああ。全くの被害者だ。相手には一切手を出していない」
「で、怪我の具合は?」
「大腿四頭筋の部分断裂。バットでおもいっきし殴られたらしい。全治一ヶ月。特に後遺症は残らないと医者は言っている」
「それは良かった。てか、バットで殴られて、そんだけ? ホントに丈夫なヤツですね。ウチの塩尻が、ええ、U15代表の塩尻が。あの赤髪、絶対骨が鉄で出来てるって言いふらしてますよ」
「マサ、それで。今後のアイツの事なんだが…」
「暴力沙汰はマジ勘弁してください。今後、絶対」
「ああ。わかっている。俺がしっかり、見張って行く」
栂はニヤリと笑いながら、
「へー。どうやって?」
「それは… その… 何とか、頑張って…」
「プハっ ま、どっちにしろ、トラは俺が面倒見ますよ、いや見たいです。ただ、一つ条件があるんだけど」
健太は目を瞑り、深く頷きながら、
「何でも言ってくれ。マサの言う通りにする。」
栂は目を見開き、
「言いましたね。何でも言う事、聞いてくれるんっすね?」
「ああ。だから、その代わり…」
栂は小さくガッツポーズをしてみせ、
「じゃあ、夏休みからトラ、ウチの練習寄越してください。それと…」
健太は心から安堵する。
「夏休みに、ケンタさん、C級コーチのライセンス取っちゃってください」
健太は眉を顰め、
「は? 何それ?」
「そんで、秋からウチのユースのコーチ、引き受けてください。それが、トラをウチで引き取る条件」
呆然とする。何だそれ。俺が、フロンティアのユースのコーチ?
「ゆくゆくは、トップチームも見てもらいたいんだけど。これ、G Mの意向だからねー」
「マサ… ちょ… 話に、ついて行けん…」
「タクさんがさ。久しぶりにこないだケンタさんと会ったじゃん。言ってたよ、ケンタさんの目はあの頃のままだって。玉電サッカー部をJ昇格に導いた、あの頃の目のまんまだったって」
健太はソファーに深く座り直し、
「ちょっと… 考えさせてくれ…」
「なる早で。来年のスタッフ予定、上に提出しなきゃだから」
栂は立ち上がって、
「俺も、見てみたいよ。あの頃の永野健太の、クールで熱い指導をさ」
そう言ってウインクしてみせる。
俺が、プロの卵たちの、コーチ。
夢想だにしたことのない申し出に、ただただ戸惑うばかりの健太なのである。