第3章 第2話

文字数 1,284文字

「それと。もう一つ言っておくけど」

「何だよ。ウゼーな」

「は? 何それ。いい、私誰とでも気軽に食事したりする女じゃないから」
「はあ? オレと飯食おーとしてんじゃん」
「トラくんとだからじゃない。何か不都合でもあるかしら?」

 は… へ…?
 こ、コイツ何言ってんの…

「あの時。私を助けてくれたわよね?」
「お、おう」
「それでこのあいだ偶然会えたよね?」
「あ、ああ…」
「これってどう考えても運命じゃない? あなたと私は結ばれるべく編まれた運命の糸なのよ、分かるかしら?」

 うわ… でたープリンス何ちゃら島の厨二病だわ…

「だから。あなたは私を大切にしなければならないのよ。だって私を救ってくれたのだから。その代わりに私もあなたに尽くすわ。命の限りに尽くすわ。何ならあなたが死ねと言えば死ぬわ。いい?」

 なんか論理が破綻してるよーな気がすんだけど…
 でも…

「んだよ、それって、オレと付き合うってことか?」

「そんなチャラチャラした軽いものじゃないのよ。私とあなたは運命の糸で結ばれた魂と魂の結びつきなの。彼氏? 彼女? 冗談じゃないわ。もっとずっと神聖なものなの。だから軽々しく言わないで!」

「うんわかった。で、結局何なの俺たち?」

「魂の友。タマ友って感じかしら。」

 タマ友って… 猫かよ俺たち…
「よーするに、彼氏彼女の上位互換って感じでいーのな?」
「簡単に言えばそうなるわね。」
「じゃあさ、試合勝ったら、ヤらせてよ!」
「は… 何を?」
「オレ、実はドーテーなんだわー。だからヤらせてよ!」
「ば、ば、馬鹿じゃない? そういうことは式の後にするに決まっているじゃない。ホント常識知らずにも程があるわ。」
「…すんません、式って、何すか?」

「結婚式、に決まっているじゃない!」

「ちょっと、待ていっーーーーー」

 やっぱこの女、重度の厨二病だわ…
 この年で結婚?
 結婚するまでセックスしない?
 あかん。凄すぎて、付いていけねえ…

 ………

 チラリと隣のあかねを見る。

 トラが今まで見たことのない、清楚さに包まれた美少女がトラを見上げている。その瞳に迷いは微塵もなく、直向きな視線がトラの心を撃ち抜いている。
 このブレの無さはお袋に似ている。真っ正直なとこもソックリだ。一つ違うのは、気のある男に真っ直ぐ想いを告げるとこかな。お袋バレバレだっつーの、あのオッさんに惚れてんの。

 生まれも育ちも全く違う、階級も全然違うコイツとお袋、意外に気が合うんだよなあ。コイツならあのお袋と上手くやってけそーだなあ。
 それより何より。

 そこらのアイドルより可憐で、東大王より賢いこの女とオレが。
 マジで?

 ちょっと震えながら、トラはそっと左手を差し出してみる。
 あかねは満足そうに、その震える手を握り締める。
 その小さく温かい手から、信じられない程の愛おしさ、優しさが伝わってくる。
 この手を、ずっといつまでも…
 握っていたい。
 試合に勝ってコイツの笑顔を
 飽きるまで見ていたい
 そのためには、
 コイツの大嫌いな暴力、ケンカ
 封印だな。永遠に。

 そう胸に誓い、あかねを引き摺りながら駅のホームに進んでいくトラだった。
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