第6章 第10話

文字数 1,135文字

「トラ… お前、またデカくなったんじゃね?」
「オマエこそ… てか、平谷はあいかわずチビじゃん。ウケるわー」
「アンタらがデカ過ぎ。キモ」
「ハア? 生意気言ってんと、バットで足へし折るぞコラ」
「それ、アンタだろトラくん、ウケるー」
「はー、それより一千万! 何に使うかなー バイクでも買うか、ハリーダビットソン!」
「馬鹿かオマエ、何でテメーのもんになんだよ、それに何だよハリーって。魔法使いかオマエはボケ」
「るせんだよシオ、無得点のヤツは黙ってクソして寝てろ」
「て、テメーこそイエロー三枚持ちだろが! 遊戯王でもやんのか、ボケ」

 試合前に、しかも世間の注目を集める大会の決勝戦前に、笑ってはいけないー そう思い込んでいる選手達の我慢の袋の尾が切れる。

 ギャハハハー

 皆腹を抱えて大笑いし、中には立っていられなく者も…

 先程から我慢しているのは選手達だけではない。この試合の為にわざわざ選出された世界に誇る日本の国際審判、宇野隆平はついにぶちぎれる。

「オマエら! いい加減にしないか! これ以上ふざけてると、試合中止にするぞ!」

 一瞬で静まる… 筈もなく、

「っせ〜んだよ。U N Oさん!」

 野太い声が響き、一瞬静まる。皆驚きで凍りつく。トラ、何言っちゃってん……

 その時。冷静に宇野主審は胸からレッドカードを取り出し、トラに向かって

「ウノ!」

 数名の選手の体調回復の為に、試合開始が三分遅れたことは公表されなかった。

「なんか試合開始、ちょっと遅れてね? あーーー、おーい、サワー。こっち、こっち!」
「おおおおおー、コータじゃん、マジ久しぶりー、おおおー、みんないんじゃん、うわー懐かしいーー」
「いやー、ホント久しぶりっすね、てか、よくみんな集まりましたよねー」
「中学卒業以来じゃね? え…この子、誰? まさか、りんりん?」
「そーだよおー、サワくん、おひさー」
「マジかー、メチャ可愛くなってんじゃん、っくーー」
「何それ。昔はブスってこと?」

「いやいやいや… え? で、こっちがもえ? ウッヒョー、何坂だよおまいら!」
「… なんかサワ、軽くなってね?」
「色気付いてますな。あーあ、あの頃の面影が…」
「っセーよ、あれ? キョンは来てねーの?」
「ここには、ねーー」
「どゆこと?」
「あそこ!」

 りんりんが指差したのは、川崎フロンティアベンチ方向だ。沢渡の頭にはてなマークが浮かぶ。何それ意味不―

「キョンはボランティアで、フロンティアのスタッフやってんだよ。何でも戦術解析部隊とか」
「マジか… いやー、みんなスゲーなあ…」

 皆は同意し頷く。
「で、オマエらみんなサッカーやってんの?」

 試合開始のホイッスルも聞こえず、元蒲田南中サッカー部関係者はこの四年間の四方山話に前半一杯使う事になる…
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