第5章 第1話
文字数 1,494文字
「凄かった。トラもみんなもホント凄かった!」
興奮気味のあかねがトラの手を握ったまま離さない。
「このまま精進すればあなたはきっとプロ選手になれるわ。キアラン・リードのような。間違いないわ。それじゃ行きましょうか」
「… 誰それ?」
「あら知らないの? 世界一のラガーマンだけど。」
「知るか… で、何処に?」
「だって。あなた父と約束したじゃない? 結果を出したら土下座とか何とかって。今日は父は家にいるのよ。最近は週末ずっと家にいるのよ。以前は接待ゴルフとかばかりだったのに。どうしたのかしら」
「ちょ、ちょっと待ていっ」
「心の準備? 諦めなさい。さ。行くわよ」
「ま、待てい…」
ずるずる引き摺られながら、トラはあかねの後を歩くしかなかった。
そう言えばあかねの家に入るのは初めてだ。この辺りでは有名な超高級マンションの最上階。玄関に入るとメッチャ良い匂いがしてトラは倒れそうになる。
ああ、これがセレブって奴か…
家具、調度品の数々を眺めながらトラは今更ながらの社会格差に呆然としてしまう。
あかねの母親と会うのは初めてだ。メッチャ細くてスッゲー美人。ケンタのおっさんが見たらイチコロだろーな、なんて思ってしまう。
「やあいらっしゃい。あかねから話は聞いているよ」
あれ。一ヶ月ぶりだよな。どしたんだろ、顔色悪い。
トラは怪訝な顔で会釈する。
「キミと永野、ちゃんと結果出した様だね。素晴らしいじゃないか。」
須坂がゆっくりと立ち上がる。少しよろけた様に見えた気がする。それに… このひと月で、かなりダイエットした?
「人間のクズ。これは僕の誤りだった。どうか許してください」
深々と頭を下げられる。
「ま、イイっす。それより。おじさん、体調悪いのか?」
須坂がハッとした表情となる。あかねの母親はサッとキッチンに入って行く。
「そんな事… ないよねお父さん?」
あかねが不安げな顔で囁く。
須坂はベランダの外の景色を眺める。しばらくして、何か決意した様な表情で、
「あかね。それにトラくん。そこに座りなさい」
と言ってソファに促される。
(なんだよ。別れろって説教されんじゃね?)
(そ、そんな筈は…)
(髪を黒くしろ、とかなら、黒くする)
(あら。赤い髪、私は気に入っているわよ。)
(お、おう…)
とコソコソ話す二人を冷徹に眺める須坂は、妻がキッチンからお茶を人数分持ってくるのを待っていた様だった。
「二人に、話がある。」
(アレか、やっぱ風呂は毎日入れってか?)
(毎日入ってちょうだい。必ず)
(お、おお…)
(それより…私の塾の成績のことじゃないかしら)
(何だよ。成績落ちたのかよ)
(ええ。七位から九位に落ちてしまったわ。私としたことが…)
(何人中?)
(百二十人中)
(お、おお…)
「しっかりと、聞いて欲しいんだが…」
(や、やべ。やっぱ、オレら別れろってか?)
(そ、そんな筈はないわ。父はあなたを気に入っているわ)
(じゃ、お袋さんは?)
(……)
(お、おい…)
「実は、先日わかったことなんだが…」
(オレがネンショー入ってたコト? 言ってなかったのかよ)
(言える訳ないでしょ! 母が知ったら気絶するわきっと)
(お、おい…)
「未だに信じられない話なのだが…」
(やっぱ間違えねえ、オレの噂を聞いたに違いねえ)
(あなた… 人殺しはしてないわよね?)
(するか! してたらココにいねえし)
(あなたを信じるわ)
若い二人はかなーりビビりながら、じっと須坂の顔を見つめる。
「僕はどうやら… 膵臓癌、らしい」
二人はポカンとする。母親は両手で顔を覆う。
「余命、半年、らしい」
あかねは小さく呻き声を上げ、トラにもたれかかり気を失った。
興奮気味のあかねがトラの手を握ったまま離さない。
「このまま精進すればあなたはきっとプロ選手になれるわ。キアラン・リードのような。間違いないわ。それじゃ行きましょうか」
「… 誰それ?」
「あら知らないの? 世界一のラガーマンだけど。」
「知るか… で、何処に?」
「だって。あなた父と約束したじゃない? 結果を出したら土下座とか何とかって。今日は父は家にいるのよ。最近は週末ずっと家にいるのよ。以前は接待ゴルフとかばかりだったのに。どうしたのかしら」
「ちょ、ちょっと待ていっ」
「心の準備? 諦めなさい。さ。行くわよ」
「ま、待てい…」
ずるずる引き摺られながら、トラはあかねの後を歩くしかなかった。
そう言えばあかねの家に入るのは初めてだ。この辺りでは有名な超高級マンションの最上階。玄関に入るとメッチャ良い匂いがしてトラは倒れそうになる。
ああ、これがセレブって奴か…
家具、調度品の数々を眺めながらトラは今更ながらの社会格差に呆然としてしまう。
あかねの母親と会うのは初めてだ。メッチャ細くてスッゲー美人。ケンタのおっさんが見たらイチコロだろーな、なんて思ってしまう。
「やあいらっしゃい。あかねから話は聞いているよ」
あれ。一ヶ月ぶりだよな。どしたんだろ、顔色悪い。
トラは怪訝な顔で会釈する。
「キミと永野、ちゃんと結果出した様だね。素晴らしいじゃないか。」
須坂がゆっくりと立ち上がる。少しよろけた様に見えた気がする。それに… このひと月で、かなりダイエットした?
「人間のクズ。これは僕の誤りだった。どうか許してください」
深々と頭を下げられる。
「ま、イイっす。それより。おじさん、体調悪いのか?」
須坂がハッとした表情となる。あかねの母親はサッとキッチンに入って行く。
「そんな事… ないよねお父さん?」
あかねが不安げな顔で囁く。
須坂はベランダの外の景色を眺める。しばらくして、何か決意した様な表情で、
「あかね。それにトラくん。そこに座りなさい」
と言ってソファに促される。
(なんだよ。別れろって説教されんじゃね?)
(そ、そんな筈は…)
(髪を黒くしろ、とかなら、黒くする)
(あら。赤い髪、私は気に入っているわよ。)
(お、おう…)
とコソコソ話す二人を冷徹に眺める須坂は、妻がキッチンからお茶を人数分持ってくるのを待っていた様だった。
「二人に、話がある。」
(アレか、やっぱ風呂は毎日入れってか?)
(毎日入ってちょうだい。必ず)
(お、おお…)
(それより…私の塾の成績のことじゃないかしら)
(何だよ。成績落ちたのかよ)
(ええ。七位から九位に落ちてしまったわ。私としたことが…)
(何人中?)
(百二十人中)
(お、おお…)
「しっかりと、聞いて欲しいんだが…」
(や、やべ。やっぱ、オレら別れろってか?)
(そ、そんな筈はないわ。父はあなたを気に入っているわ)
(じゃ、お袋さんは?)
(……)
(お、おい…)
「実は、先日わかったことなんだが…」
(オレがネンショー入ってたコト? 言ってなかったのかよ)
(言える訳ないでしょ! 母が知ったら気絶するわきっと)
(お、おい…)
「未だに信じられない話なのだが…」
(やっぱ間違えねえ、オレの噂を聞いたに違いねえ)
(あなた… 人殺しはしてないわよね?)
(するか! してたらココにいねえし)
(あなたを信じるわ)
若い二人はかなーりビビりながら、じっと須坂の顔を見つめる。
「僕はどうやら… 膵臓癌、らしい」
二人はポカンとする。母親は両手で顔を覆う。
「余命、半年、らしい」
あかねは小さく呻き声を上げ、トラにもたれかかり気を失った。