第2章 第11話

文字数 1,381文字

「で。保護者会で永野さんがコーチを罷免されるかもしれないのね?」

「は? 避妊? へ?」

「…今度セクハラ発言をしたら、あなたのアカウントを削除します。」

「わーった。わーった。で? ヒメンって何だよ?」

 保護者会が行われている土曜日の昼過ぎ。「蒲田 あゆみ組」のグループに招集がかかる。永野のオッさんが正式にコーチとして承認されるかどうか、どっかでお茶でもしながら見届けよう、と。

 だが。

 集合時間と場所に集まったのは、トラとあかねだけだった。

 後で発覚した事なのだが、これはトラとあかねを二人きりにして何が起きるかを皆で楽しむ作戦だったのだ。二年の三人の女子、特にキョンは激怒したのだが、先輩であるコータとサワがタピオカミルクティーを奢る事でようやく納得し、彼らは今、トラとあかねがお茶しているカフェの向かい側のファミレスで、二人の様子を固唾を飲んで見守っている最中なのである。

 誰一人、健太がコーチを降ろされる心配はせず。それよりもトラの挙動の方に、遥かに関心があるものだった…

「みんな遅いわね。一体どうしたのかしら」
「それな。連絡してもアイツら既読スルーだわ。」
「まあもう少し待つことにしましょう。それよりも、保護者会どうなっているのかしら。」
「何でオマエが心配してんだよ」
「だって… もし保護者側に否決されたら… コーチ無しで試合しなければならないのでしょ? 審判する人だっていないのだし。勝てるの? 言っておくけど私、負け犬は嫌いよ。」
「ハー? 俺ら九人だぞ。いつでも負けれるぞ。チョー負けれるぞ」
「あなたの日本語相当変よ。さておき。サッカーって一体何人でするスポーツなの?」
「… 十一人」
「何よ。二人足りないだけじゃない。そんなの気合いでカバーしなさいよ。気合いで!」
「… オマエ、メチャ頭いいくせに、突然意味不… でも。まあ、気合いも必要だな。確かに」

 トラはふと思いを巡らし、グループラインの音声会話をオンにする。既読スルーしていた他のメンバーが何事かと、続々とその音声会話に参入してくる。
 目の前のあかねはそれに気付かず、益々テンションが上がってくる。

「何だか心許ないわね。あなたがそんなことでは、勝てる試合も落としそうな気がするわ」
「お、おま… サッカー知らねーくせに、よくもそんな…」
「だって。あなたとあなたの仲間は。勝つ為の準備をちゃんとしているの?」
「ハア?」

 ファミレスでトラとあかねのイチャイチャを楽しもうとしていたコータ、サワ、その他のメンバーの表情が固まる。

「試験もスポーツも、事前の準備が勝敗を分ける。これは父の言葉なのだけれど。あなた方はその少ない人数でも勝つ為の準備をキチンとしているのかしら?」
「そ、それは…」
「私にはそうは思えない。何故なら練習が無い日にこんな無駄な時間を過ごして。もし本気で勝ちたいのなら他にすることがあるのじゃない?」
「な、何だよ。それ?」
「例えば。試合の相手はもう決まっているのよね?」
「お、おう。決まってるらしいぞ。四校でのリーグ戦だ」
「そう。それならその三校の偵察に何故行かないの?」
「んぐ… そ、それは…」
「本気で勝ちたいなら相手の情報が絶対必要よね。ましてやこちらは人数少ないのだし。人数を手分けしてスマホで動画撮影してそしてこのグループに流せばー あれ。何この音声オンって… あれ? え?」
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