第6章 第17話

文字数 907文字

 そんな彼等を目を細めて見守っている健太に、亜弓がキンキンに冷えたビールジョッキを渡す。

「ハイ、お疲れ様。かんぱーい」
「ありがと。乾杯」

 二人はグラスを軽く合わせる。

「永野サン、ダメじゃん、インタビューで泣いちゃ。あれ、全国中継だぞー」
「いやー、つい感極まって、なー。それにしても、あれからもう四年経つのかー」
「そーだねー、なんかあっという間だったね。」
「俺はいつの間にか古巣のユースの監督。トラは何とか高校卒業してプロサッカー選手。あかねちゃんは東大生。色々あったよなあ。でもさ、何も変わってないのが、亜弓ちゃん」
「あは、そーかも。あーでも、オババになったよ…」
「全然。むしろあの頃より、ずっと綺麗になったよ」
「え… は… えっと…」
「あ… いや… その…」

 後ろでキョンがハアアーーーと深―い溜息をつく。ダメだこりゃ。このままじゃ、この人たち一生このままかもー

 仕方がない。初恋を諦めよう。

 そう決めて、一粒だけ涙を流し終えたキョンが、二人の間に割って入る。

「さ。永野サン。約束、守ろっか?」
「… へ?」
「トラくーーん。永野サン、今から約束! 守るってさあー」

 店内に響くキョンの大声に、みなキョトンとする。

「監督。いい度胸じゃあねえか。ま、男と男の約束だからな。キッチリ守ってもらおっか!」

 トラが割と真剣な目付きで健太に近づくと、店内がシンとなる。

「ちょ、ちょっと待てトラ。何もこの場で…」

 なあ。
 そろそろ、いいかな
 そろそろ、マジで
 親父ってもんが欲しいんだけどー
 アンタは俺をプロにしてくれた
 マジ感謝
 でもこの先のことが、
 あかねと一緒に歩くこの先のことがさ、
 イマイチ良くわかんねーんだよ
 俺らには、絶対必要なんだよな、
 親父ってヤツが
 俺、知ってんぜケンタ
 あかねの親父さんと約束したんだろ?
 あかねを一生見守るって
 そろそろちゃんと
 約束、守れよな

「… トラ。わかった。あの… 亜弓ちゃん」

 背筋をピンと伸ばし、亜弓に向かい直る。亜弓も何事かと、背筋を伸ばす。いつの間にか黒くなって腰まで伸びた髪がサラリと揺れる。

「俺と… 」

 店内がかつてない程静まり返る。

「俺と…… 付き合ってください!」
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