第5章 第6話
文字数 1,649文字
「だから… それは過去形なの。makeの過去形がmadeなの。先ずはトラくん。動詞の過去形をしっかり覚えていこう」
あかねが今にもブチ切れそうな表情でトラに優しく語りかける。
「英語って、面倒くせ。なんでmakedじゃダメなんだよ?」
あかねは溜息をつきながら、
「日本語だって、十分面倒くさいわ。青信号って言うくせに、あれはどう見ても緑色じゃない。」
「…ちょっと、違う気が… あ、でもホントだ。信号ってそーいや緑色じゃん。へーー」
「だから。英語だって、所々変なのも仕方ないじゃない。さ。諦めて過去形覚えていこ!」
「そ、そうするか… 仕方ねえな。確かに…」
あのミーティングの翌日。一美から渡された参考書とワークノートをあかねに渡す。
「これ。教えてくんね?」
あかねはビックリ仰天して、
「ど、どうしたの…」
「それは、」
トラはあかねをじっと見ながら、
「お前の親父との、約束。」
あかねは目に薄っすらと涙を浮かべ、
「お父さんとの、約束って…」
「ああ、絶対プロになるって」
「うん。それで、その為に?」
「かずみんが、海外でサッカーやるなら、英語は絶対必要って。そりゃそーだ」
「そうね。うん。そうよ。絶対に必要よ。日本の社会と秩序が劇的に変化しない限りあなたは海外へ出るべきだわ。わかりました。英語教えてあげるわ」
それから毎日、学校と部活の帰り、蒲田駅近くのファミレスや「スナックあゆみ」での勉強会が始まった。それこそ、ABCの書き方からのスタートであった。
そんなある日。側から見ると幸せそうなカップルに近づく足音。
「あれー、トラじゃん。何してんだよー」
トラはジロリと上目遣いで睨む。
「ホントだ、トラだ。え… 彼女? メッチャ可愛いじゃん、紹介しろよー」
「お前ら。なんか用か?」
トラがテーブルを囲む四人連れを睨みつける。
「まさか… のお勉強中なワケ? あの、トラくんが?」
四人はいやらしく笑い出す。
「なーんか最近。俺らから距離取ってね? ネンショーから帰ってから? つれないよなー」
「そーそー。なんかサッカーに熱中しちゃってるとか? それマジ?」
「んで。こーんなお嬢とお付き合い? 俺たち差し置いて? オレらダチじゃなかったっけ?」
「自分だけアオハル? ずるくね? 酷くね? 俺ら見捨てられた?」
トラは勢いよく立ち上がり、
「サッカーにのめり込んで、何が悪い? ああ?」
頭ひとつデカいトラに凄まれ、四人組は後ずさる。
「い、行こーぜ。こんな奴ほっとこ」
「それな。こんな奴、ダチじゃねーわ」
そんな事を呟きながら四人は店から出て行く。
トラは大きく溜息をつきながら、
「わりい。さ、続き。」
あかねは震えながらカクカク頷いた。
「マジムカつく。」
路上に捨ててあった缶を蹴飛ばしながら吐き捨てる。
「ネンショー行く前まで、あんなにつるんでたのによ。薄情な奴だわ」
路上に唾を吐き捨てる。
「なんかアイツだけ、彼女作って? 一緒に勉強して? 部活に熱中?」
「あー、マジ腹立ってきたわー。なんか許せねー」
「いっこ下のくせに。生意気なんだよアイツ。マジ、許せねー」
「やっちゃう?」
一人がニヤリと笑いながら言うと、
「やっちゃうか」
「マジ、ブチのめす」
四人は合意に至るワケだが…
「でも。どーやって?」
「ああ。まともにやったら、ぜってー敵わねえわ」
「こないだも、河原で川崎の奴ら四人シメたってよ… マジ恐ろしい奴だわ…」
「それな… どーしたもんだか… 誰か知恵だせ、知恵」
とぼとぼ歩いていると、後ろから黒いワゴン車が止まる。ウインドーが開き、ラップの大音量が流れ出す。
「なーにお前らしけたツラして歩いてんだ、コラ!」
「あれー、リューさん。チース」
「聞いてくださいよリューさん。トラのヤツが女作っていちゃついてんっすよ。俺らに見せびらかしやがって」
黒ワゴンは急停止する。
「ああ? トラ、だと?」
リューと呼ばれた男の目がギロリと開かれる。
「おう、話きかせろや。お前ら、乗れ」
「「「「ういーっす。お邪魔しまーす」」」」
あかねが今にもブチ切れそうな表情でトラに優しく語りかける。
「英語って、面倒くせ。なんでmakedじゃダメなんだよ?」
あかねは溜息をつきながら、
「日本語だって、十分面倒くさいわ。青信号って言うくせに、あれはどう見ても緑色じゃない。」
「…ちょっと、違う気が… あ、でもホントだ。信号ってそーいや緑色じゃん。へーー」
「だから。英語だって、所々変なのも仕方ないじゃない。さ。諦めて過去形覚えていこ!」
「そ、そうするか… 仕方ねえな。確かに…」
あのミーティングの翌日。一美から渡された参考書とワークノートをあかねに渡す。
「これ。教えてくんね?」
あかねはビックリ仰天して、
「ど、どうしたの…」
「それは、」
トラはあかねをじっと見ながら、
「お前の親父との、約束。」
あかねは目に薄っすらと涙を浮かべ、
「お父さんとの、約束って…」
「ああ、絶対プロになるって」
「うん。それで、その為に?」
「かずみんが、海外でサッカーやるなら、英語は絶対必要って。そりゃそーだ」
「そうね。うん。そうよ。絶対に必要よ。日本の社会と秩序が劇的に変化しない限りあなたは海外へ出るべきだわ。わかりました。英語教えてあげるわ」
それから毎日、学校と部活の帰り、蒲田駅近くのファミレスや「スナックあゆみ」での勉強会が始まった。それこそ、ABCの書き方からのスタートであった。
そんなある日。側から見ると幸せそうなカップルに近づく足音。
「あれー、トラじゃん。何してんだよー」
トラはジロリと上目遣いで睨む。
「ホントだ、トラだ。え… 彼女? メッチャ可愛いじゃん、紹介しろよー」
「お前ら。なんか用か?」
トラがテーブルを囲む四人連れを睨みつける。
「まさか… のお勉強中なワケ? あの、トラくんが?」
四人はいやらしく笑い出す。
「なーんか最近。俺らから距離取ってね? ネンショーから帰ってから? つれないよなー」
「そーそー。なんかサッカーに熱中しちゃってるとか? それマジ?」
「んで。こーんなお嬢とお付き合い? 俺たち差し置いて? オレらダチじゃなかったっけ?」
「自分だけアオハル? ずるくね? 酷くね? 俺ら見捨てられた?」
トラは勢いよく立ち上がり、
「サッカーにのめり込んで、何が悪い? ああ?」
頭ひとつデカいトラに凄まれ、四人組は後ずさる。
「い、行こーぜ。こんな奴ほっとこ」
「それな。こんな奴、ダチじゃねーわ」
そんな事を呟きながら四人は店から出て行く。
トラは大きく溜息をつきながら、
「わりい。さ、続き。」
あかねは震えながらカクカク頷いた。
「マジムカつく。」
路上に捨ててあった缶を蹴飛ばしながら吐き捨てる。
「ネンショー行く前まで、あんなにつるんでたのによ。薄情な奴だわ」
路上に唾を吐き捨てる。
「なんかアイツだけ、彼女作って? 一緒に勉強して? 部活に熱中?」
「あー、マジ腹立ってきたわー。なんか許せねー」
「いっこ下のくせに。生意気なんだよアイツ。マジ、許せねー」
「やっちゃう?」
一人がニヤリと笑いながら言うと、
「やっちゃうか」
「マジ、ブチのめす」
四人は合意に至るワケだが…
「でも。どーやって?」
「ああ。まともにやったら、ぜってー敵わねえわ」
「こないだも、河原で川崎の奴ら四人シメたってよ… マジ恐ろしい奴だわ…」
「それな… どーしたもんだか… 誰か知恵だせ、知恵」
とぼとぼ歩いていると、後ろから黒いワゴン車が止まる。ウインドーが開き、ラップの大音量が流れ出す。
「なーにお前らしけたツラして歩いてんだ、コラ!」
「あれー、リューさん。チース」
「聞いてくださいよリューさん。トラのヤツが女作っていちゃついてんっすよ。俺らに見せびらかしやがって」
黒ワゴンは急停止する。
「ああ? トラ、だと?」
リューと呼ばれた男の目がギロリと開かれる。
「おう、話きかせろや。お前ら、乗れ」
「「「「ういーっす。お邪魔しまーす」」」」