第6章 第2話

文字数 1,679文字

「はーーい。そこまでっ 全員、動くな!」

 彼らの知らぬ間に、倉庫の入り口いっぱいに警官隊がこちらを凝視している!
 そして先頭の刑事の合図と共に、あっという間に八人を確保する。

「前田―。お前自分が何やったか、わかってんのか?」
「知らねーよ。オレは、蒲田の、コイツに頼まれてココを教えてやっただけだよ」
「誘拐。監禁。暴行。お前ら、今回はちょっとシャレになんねーぞ。」

 そ、そんな、と口々に喚き散らし、
「そ、そーだよ。コイツと、トラとちょっと仲良く話しただけだって…」
「そーそー。そんでちょっと話の行き違いって奴で、つい…」

 刑事はハーと溜息を吐きながら、
「おっ。お前丁度スマホで動画撮ってくれてたのか。丁度いい証拠になるわ、サンキュ」
「クッソ… てか… トラ、テメエ。サツに頼るとはな… 最低のクソ野郎め…」
「マジで… 最低の男だなコイツ… ま、足の骨を折っといたからザマあだけどな」

 捜査官によって口ぐつわを外されたあかねが、
「トラっ トラあー、あなた、足!」

 さっきまで派手に転げまくっていたトラが大人しくなっている。あれ…?
「ああ、大丈夫。いってもヒビが入った程度、だと思う」
 と冷静に答えたものだから、

「…トラ、テメー。さっきのありゃなんだよ…」
 トラは冷徹にリューを見ながら、
「警察の皆さんに位置を知らせる為に、な。それよりお前ら。マジヤバいこと、してくれたなおい」
「な、なんだよ…」

 トラロープを解いてもらったトラは、左足を摩りながら、
「オレのお袋。元デビルキャッツの、テポドンあゆみ、ってんだ」
「へ… デビルキャッツって…? あの?」

 その通り! と言いながら刑事が話に割って入る。

「そう。あの伝説の蒲田のレディース、三代目総長。ってことはよお、わかるよな。今のお前らの上の奴らって、みーんな、あゆみの下、ってことな」

 一気に顔面蒼白になる蒲田勢。その刑事は川崎勢にもグサリと合い口を刺す。
「あゆみと、横浜の中華街の切り裂きジャン。マブダチらしいぞ」

 気を失いかねないほど、驚く川崎勢。
「お前らそんなことも知らねえで、トラと連んでたりトラとやり合ってたのか? 馬鹿だなあ。ま、お前ら刑務所で消されるかもな。」

 なんと酷い刑事なのだろう… あかねは呆然としながら、自分を拉致した不良達を平然と脅し上げる刑事を見上げている。
 不良達が連行され、現場検証が始まった頃。

「なんか、すっかり助けられちゃったわ。去年、アンタにあんな事したっつーのに」
 トラがよろめきながら立ち上がり、そしてその刑事に深く頭を下げる。
「アズミさん。あっざーした。お陰で、コイツを無事に救えました! 」

 胡麻塩頭の安曇と呼ばれた、耳が餃子みたいな刑事が、ちょっと照れ臭そうに、
「おいトラ。オマエ、すっかり変わったなあ。何があったんだい。って、アレか、その子のお陰ってか、ええ?」
「そんなとこ。オレ、コイツの親父と約束したから」
 安曇は懐からタバコを取り出し、トラに勧めかけて、
「おっと。中坊だったか」

 トラはニヤリと笑って、
「こないだ、やめた。」
 こないだまで、やってたんかい! あかねはちょっとキレかけながら、
「ねえ、父との約束、って本当は何なのよ?」
 トラはソッポ向きながら、
「オメーに言う訳ねーだろ。で。大丈夫か。ケツ揉まれたぐらいで済んだか?」
 あかねは真っ赤になりながら、
「それより… 病院、行かなくちゃ… 来月、大事な試合だよ。早く手当てしないと… 顔も血だらけだよ…」

 安曇はタバコをふかしながら、
「救急車呼んどいたから。乗ってけ。お嬢ちゃん、付き添ってやってな」
 勿論、とあかねは深く頷く。それから、
「あの、改めまして、助けていただいて本当にありがとうございました。もしちょっとでも遅かったら、トラくんの足、もっと酷いことになっていたと思います…」

 安曇は唖然としながら、
「おいおい… 青春だなあ… お互いの事を心配して… トラ、こんないい子、オメーの母ちゃんくらいしかいねえぞ。大事にすんだぞ」
 トラは照れた様に微笑む。

 遠くに救急車のサイレンが聞こえてくるー
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