第4章 第11話

文字数 1,573文字

「それにしても… 有名人御子息のオンパレードだな」
 
 S C東京U18監督の玉城昭次が苦笑いする。

「F Wの新田は女優の息子、M Fの鴨下はロックバンドのボーカル、D Fの横溝の親は衆議院議員ですって」
 同コーチの志村和樹がスマホを眺めながら呟く。

「三人ともトレセン入ってたけど、どーかねえ…」
「まあ、一応見とかないと。前半だけでも」
「そーだな。二年生でいいのがいるかも知れねえしな」

 四月一四日、土曜日。慶王大学麻布グランド。玉城、志村が周囲を見渡すと、チラチラと知った顔が目に入る。

「あいつらもお目当てはこの三人かな」
「でしょうね。相手校の公立、どこでしたっけ?」
「さあ。知らん。どーでもいい」
「ですよね。でも… 玉城さん… あれ!」

 試合前の練習を観ながら志村が声をつまらせる。
「ほお。ふむ。これは中々… 玉城、相手校どこか調べてきてくれ」
「ですね… これは、ちょっと…」

 どうやら周囲のスカウト達も気付き始めたようだ。目当ての慶王中ではなく、聞いた事もない大田区の公立校に、光り輝く原石がゴロゴロ転がっていることに。

「玉城さん、蒲田南中ですって」
「蒲田… 聞いた事ねえな」
「ですよn… あれー、玉城さんアイツ…」
「ぶはっ 平谷じゃねーか。アイツ他のクラブ行かねぇで……」
「地元の公立入ったんですね… ったくあの天然小僧」
「ちょっと勿体なかったよな。アイツ、センスは抜群だった。」
「でもねえ、遅刻はダメでしょ。しかも毎回…」
「そーだな。街クラブや部活ならともかく、ウチらJユースじゃ、な…」
「ま。どんくらい成長してるのか観てみますか」
「ああ。それよりシム、あの赤い髪のデカイ奴…」
「… へーー。ほう。ほうほう。足元しっかりしてますね」
「試合、早く始まらねえかな…」

「玉城さん… 蒲田南、十一人ピッタリですよ」
「ベンチ、誰もいねえな…」
「よくやってますよ。彼等」
「ああ、今のところは、な」
「平谷のヤツ… あんなに楽しそうに。」
「ハハハ。ウチにいた頃より伸び伸び楽しそうにやってんなあ」
「ハアー、遅刻癖治ってないですかねえ」
「もっと酷くなってたりして。それより、あの赤いの…」
「あの赤髪。よく見えてますね。コーチングも的確だ…」
「今まで何でスカウティングに引っかからなかったんだ?」

 顔見知りの青年が二人に近づいてくる。
「あれー、知らなかったですか、東京さん」
「おお、ディエゴF Cの田中さん、お久しぶり」
「玉城さん自らいらっしゃるとは、やはり目当ては慶王の?」
「そうだったんだけど…」
「ね。僕らもビックリです。あの松本は、地元では有名だからアレですが…」
「へー。あの赤髪、松本っていうんだ」
「ハイ。それも札付きのワルで有名なんです。「蒲田のトラ」って言ったら地元ではチンピラもビビるくらいに」
「何だそりゃ。昭和かよ」
「いやマジで。先月まで少年院に入ってたとか」
「「え… 消えた。」」

「ですよねー。Jクラブが少年院上がりの子、入れられませんよねえ」
「…でも、あの子。上手い」
「ね。U12でも地元では目立ってたんですよ。あの頃から足元は上手かったし、周りを良く見れていた」
「どうしておたくに入れなかったの?」
「やはり… 素行が問題でして…」
「そっか。お互い、難しいよな、そこんとこ」
「ですよね。サッカーさえ上手けりゃ、あとは見逃す、なんて出来ません。」

 試合は前半が終了した。0−0。

「どうです。慶王の三人は?」
 玉城は苦笑いしながら、
「ま、アレ位ならその辺に幾らでも転がってるよ」
「うわ… ズバリ言いますね」
「ホントはこの前半で帰るつもりだったんだ。な、シム」
「ええ。でもね田中さん。後半、どうやって蒲田が慶王喰うか、見てみたくないですか?」
「多分、みんなもそう思ってるんじゃないかな」

 そう言って田中はグランドの周りにいるスカウト達を見回す。
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