第2章 第1話

文字数 676文字

 やっぱサッカーはいい。メチャ疲れるけど、いい。

 幼い頃に父親を亡くし、母親は仕事で忙しく兄弟もおらず、寅にとってサッカーボールが唯一のトモダチだった。
 そのトモダチから派生し、唯一無二の友達が数多く出来た。

 その多くが今のサッカー部の仲間だ。断じて駅前のケンカ仲間達では無い。
 父親譲りで小さい頃から体がデカく、それでいて敏捷性に富んでいる。あと他人には説明出来ないのだが、寅にはボールや仲間や敵の動きが止まって見える瞬間がある。
 それは今の所、サッカーの試合よりもケンカで大いに役に立っているのが残念なのだが。

 中三。中学最後の年。あいつらとサッカーやれる、最後の年。

 人数は、まあ何とかなった。そして何より。ちゃんとした指導者を拾ってくることが出来た。そうあのオヤジはまさにトラが拾ってきたようなものだ。
 もしあの時助けてやらなかったら、未だに河原の葦の下に埋もれてんじゃねえかな。だから、無償で俺らのコーチやる位、人として当然だろう。
 そう寅はタカを括っていた。

 どうやら指導者としての経験はなさそうだ。だが心からサッカーを愛していることは感じ取れるし、大企業の重役(では無いのだが。彼は役員と部長の区別が未だつかない)やってた程の人格者みたいなので(それもどうかと…)、このまま面倒見てもらおう。
 全てが寅の思ういい方向に向かっている。

 ベットに寝転びながら、寅は独りニヤケ顔が治らない。

 但し。
 オフクロの様子がこないだからちょっと変だ。何か、ウキウキしてる。何故にあんなしょぼくれたオヤジにウキウキすんのか、寅にはさっぱりわからんかった。
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