23/ 血抜き
文字数 1,522文字
具体的に俺の何を評価してくれたのかは、どこか照れくさくて聞き返さなかったけど、認めてくれたんだなという事実は素直に嬉しかった。
俺は自分の手で、戸を開けることにした。木製の戸は思いのほか軽く、あっけなく開く。
火起こしはとっくに済ませているらしく、そのたき火の前にティアーは正座していた――そんな姿を初めて見た時には、なんで屋外で正座なんだと不思議に思ってたけど、聞くところによると彼女の長年の癖なんだそうだ。
ティアーは左手で兎の後ろ足をつかんでぶら下げながら、その首に爪を立て横に裂いた。目の前に置いた木で組んだバケツの底に血が当たり、大きな音を立てる。血生臭い強烈なにおいに、俺は思わず鼻を押さえる。
作業をしながら、彼女の目はうつろで兎など視界に入っていないようだった。ぼんやりと考え事をしているような表情で、たき火に照らされた顔はまるで生気がないようにも見えた。
そういえば、ヴァニッシュが肉やら魚やらさばいているのは何度か見たけれど、ティアーがそれをしているのは見たことがなかったっけ。その作業自体、俺も見慣れてしまったので今さらどう思うってことはないんだけど。しいていえば、ジャックさんのためにヴァニッシュが稼ぎから米を買っていたとかで森に住んでいても白いご飯にありつけたけど、今日からはそれもないんだろうなぁとふと思った。