41/ 透とトール
文字数 3,445文字
ぼくの、ゴーレムの体がどうやって作られるのかは詳しく聞かない方がいいと思うんだ。
想像したら気持ち悪くって吐いちゃうかも。
それだけおぞましいものなんだ。
おおざっぱに言うと、ここの地脈から魔力を。
肉体の健康な部分はおとうさんからもらって、
身体の中の石版――
本当は石じゃないんだけどね、何で出来てるかはちょっと言えないな――
そこに、ぼくの魂の式をそっくり刻むんだ。
これが一番難しいんだよ。
普通、
魔術に魂の式を利用するのにも、ごく一部がわかればいいんだけど。
少しのズレもなくそっくりそのまま刻まないといけないんだから
魔力に記憶が、肉体に感情が宿るって知ってる?
つまりぼくには、ローナの記憶と、おとうさんの気持ちと、
それぞれほんの一部だけど受け継いでるんだ。
ローナはこの地脈の一部だからね。
彼女の記憶からぼくがそう思っただけだから、確かじゃないんだけど……
ローナはきっと、自分のためにアッキ―に笛を捨てて欲しくはなかったんだよ。
自分のこと忘れてくれてかまわないから、自由の身でいて欲しかった。
だから、わずかに残った意思をローナは歌うことに全て捧げたんだ。
せめて、アッキ―がローナのために捨てた笛の分を埋められたらって
人間の子供だったぼくは意気地なしで、ローナみたいには考えられなかった。
本当は自分の見える範囲の人全てが、うらやましくって仕方がなかった。
平気なふりして笑っていたけど、心の中ではみんながねたましかった。
ゆうの様に憧れながら、ぼくは彼女や、ティネス様のように強くなかった。
ぼくが生まれてこなければ……ぼくさえいなかったらおにいちゃんは、
今でも両親と三人で、仲良く暮らせたいたはずなのにって思うけど……
ぼくの中のおとうさんの気持ちは、それを否定してる。
ぼくもおにいちゃんも平等に愛しているから。
どちらも生かしてあげたいから、ぼくのために死ねるんだって。
おにいちゃんからしたらきっと、
生まれた時から手のかかるぼくが両親を独占していて、
平等でもなんでもないって思っただろうにね
渡にいちゃん、おととし、結婚したんだ。
親もいないし、高校行けないで働いてたんだけど、
付き合ってた恋人を妊娠させちゃったから。
その子供ももう生まれたって。
俺は渡にいちゃんにとっても透にとっても数少ない友達だったから特別に報告したいって、
手紙をくれたんだ。それで、子供の名前……
男の子だったから、透、にしたって書いてあった
だからだよ。おまえの分も長生きして欲しいって。
それで、透の命を助けるためなら何でも出来た両親みたいに、
いざって時は自分がその子を命をかけても守りぬくって
渡にいちゃんも、両親の想いが自分にも透にも平等だって知ってたんだと思う。
だから透のこと、これっぽっちも恨んでない……だけど。
透にも両親にも、もう未練はない。
ひとりぼっちになっても前を向いて頑張って、
自分の幸せを手に入れたから……
……ぼくも。人間の体じゃなくなったのもエメラードに来たのも、
そんなに不幸だと思ってないんだよ。
だって、アッキ―もローナも、ミクちゃんも。
ぼくを必要としてくれるから。
……パンって平均寿命が三百年くらいだから、アッキ―は生きてもあと五十年くらいだなって言ってる。
彼が死んだ後は、ぼくがこの場所も、ローナも守らなくちゃいけない。
それって、ここでぼくに家族ができたのと同じだよね。
だけど……ぼくの、この体は。嬉しくっても悲しくっても、涙も流せない。
おにいちゃんに、ごめんね、って。
それと、おめでとう、って伝えたくても。
エメラードの地脈を流れる魔力でぼくの体は動いているから、この島から出られない。
……どうすることも、出来ないんだよね……
とりあえず、豊と透の姿が見えない場所まで歩くと、ティアーは俺に向き合い歯を見せて笑う。石の上に腰を下ろす。
それに、数百年や千年と生きられる魔物達からすれば、たった十六年弱しか生きていない俺なんか、それこそ赤ん坊と大差ないんだろうと思った。