26/ ライト

文字数 2,121文字

ライトったら、随分と無茶をしたものね

何言うんだい。ティアー達が帰ってきて、ソースを迎えて、

こんなにめでたいことはないじゃないか。

明日から楽しくなるぞ~。

少しぐらい奮発するのは当たり前だろう?

 そんな会話を背に、俺とティアーは縄ばしごから地上へと立つ。珍しく急ぐ風にして、ヴァニッシュが俺達に歩み寄ってくる。そこで目にしたのは、エリスはもちろんヴァニッシュより、さらにさらに背の高い、言ってみれば図体のでかい初老の男だった。その彼がかついでいるのがまたでかい熊の死体なものだから、
改めて自分がとんでもない世界に来てしまったんだなぁと実感する。
おう、おまえさんが敦かい!

 ぼさぼさの長髪を適当に束ねて、いかにも人の良さそうに笑うライトは、どかどかとこちらに向かって歩いてくる。黒い髪と目は人間にもなじみが深いが、いかんせんそのがたいの良さは人間離れしている。下半身はゆったりと布で覆っているが、上半身は裸だ。その肌は程よく日に焼けて小麦色をしている。


 何よりも目を引くのは、全身にバランスの良い軟らかそうな筋肉、という印象だ。オルンのそれは硬く引き締まった感じだったからなおさらだ。

おいらはタイタンのライトだ。

よろしく頼むなー

 よろしく頼むべきなのはむしろ、色々と教えて貰うことになる俺の方だと思うけどな。
こちらこそ。タイタンっていうのは、もしかして種族名ってやつ?

 ティアーとヴァニッシュだったらワ―・ウルフ、豊とベルだったらヴァンパイア。そして、俺は人間だ。


 ティアーいわく、魔物同士だったら自己紹介などしなくても相手の種族くらいだったらにおいで判別出来るものらしい。この自己紹介は人間用……いや、魔物がわざわざ人間に素性を明かす意味はないし、俺も含めソース用なのかもしれない。




そうさ。簡単に言うと巨人族ってやつだぁな
巨人かぁ。なるほど、確かにでかいや

これでもおいらなんかちっこい方なんだわ。

神竜の健在だった頃にゃあ今のおいらが

五人おっても足りないくらいの背丈があったんでなぁ

 にゃははは、に濁音を付けるような、喉に引っかかるような笑い声だ。

ちなみに、エリスはエルフ界から出てきた純正のエルフだ。

どうせあいつは言ってないだろうからおいらが教えといてやるわ。

けっこう珍しいんだぞぉ?

よく言うわ、タイタンだって同じくらい珍しいでしょうに

 何となく、エリスから自分の種族に触れてもらいたくないような空気を感じた。俺の方からは話を続けるのはやめておこう。




タイタンって、エメラードの山向こうにある集落からあまり出て来ないんだよ。

それなのにライトってば、エメラードやアクアマリンはもちろん、

フェナサイトまで色んな場所へ出かけるんだ

まぁ、見た目はちょっとでかいけど人間っぽく見えるし
それをいいことに人間に雇われて平然と働いたりするんだから。おかしな人ね
 ティアーはどこか誇らしげに、エリスはあからさまに呆れたようにぼやいてみせる。当のライトはそんなふたりの肩をばしばしと叩きながら、

家を作るのはおいらの生きがいだからなぁ。

優れた技を受け取るためだったら、

人間に教えをこうなんざ大したことじゃねぇや!

なんだ、家を建てること自体が好きだったんだな……

 フェナサイトの森の館で過ごしている間に、疑問に思ったことがある。何故、都合良く俺の暮らす地域の近隣に、魔物の館が建っていたのかということだ。


 あの館は年季が入っていて、十年かそこらの間に建てられたようには見えなかった。短く見積もっても半世紀は経過しているはずだ。


 しかも、俺は割と一カ所に留まれない生活をしてきたし、それ以前にソースは十五歳になるまで誰だかわからないんだ。わかってからは警戒すべきことがたくさんあるんだから、悠長に家を建てている暇などないはずだった。

もしかして、出張所のことか? 

あいつはフェナサイトの各地の森に、おいらがひとりで建ててんだ。

でもな、家っちゅうのは誰か住んでないと嫌でも傷んでくるもんだ。

だから誰かしら住んでいてもらわないとせっかく建ててもすぐ駄目になっちまう

ジャックさんみたいな人がたまたまいればいいけど、

そうでなかったらどうするんだ?

実はジャックみたいに、人間が住んでる例の方が珍しいんだよ。

魔物の中にもたま~に、フェナサイトに住んでみたいってのがいるから、

家を貸すのと家を管理するのとで対等に契約が出来るの

あなたのような変わり者がそれなりにいるということよね。

特にライトは顔が広いから、探すにしてもそう難しいことではない

 調子良く話すティアーにエリスが指を向けると、彼女は苦笑いで返す。

それでも、住んでるだけじゃあ素人にはわからん劣化があるんでな。

おいらも十年に一度はフェナサイトを巡って、全ての家をチェックしてるのさ。

これがまた楽しみでなぁ

ライトがいないと、ベルの機嫌が若干悪くなるのだけ、困りものだけどね
 困ると言いつつ、エリスの表情は涼しいものだ。他人の気分に左右されるような性格じゃないんだろうな。
 困るのは、むしろ俺の方かもしれない。ライトが不在というだけで情緒不安定になる、なんていう噂の所長様はどんな人柄なんだろう……と、少し不安になった。

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登場人物紹介

名前:高泉 敦(こういずみ あつし)

主人公。高校二年生。

ごく平凡な高校生のつもりで生きていたが、この世で最強の「無限に湧き続ける魔力」を持つことが判明。

人間に敵対的な魔物達から命を狙われるようになってしまった。


(敦のアイコンは、主人公=読者自身としても読めるように顔の見えない仕様にしました)


〇〇の色:不明

(〇〇←本編のネタバレにつき伏せています。

吹き出しの色と連動させたいので作者が忘れないようにするためにここに書いています)

名前:海月 涙(みつき なみだ)

高校三年生。敦の姉、円(まどか)の親友。


〇〇の色:不明

名前:長矢 豊(ながや ゆたか)

高校二年生。敦のクラスメイト。

昼間は眠たくなる体質とのことで、不真面目ではないが学校生活では怠惰になりがち。


〇〇の色:深緑

名前:市野 学(しの まなぶ)

高校二年生。敦のクラスメイト。噂好きで学校内の情報通。

成績優秀だがお調子者のムードメーカー。

目に障害がある? とのことで、分厚いゴーグルをかけている。


〇〇の色:水晶のように澄んだ、白混じりの紫

名前:綺音 紫(きね ゆかり)

高校三年生。敦は「キネ先輩」と呼ぶ。

豊と親しいらしい、大人びた先輩。


〇〇の色:紫

魔物名:ティアー

敦を守る側の魔物。狼少女で、秘密が多い?


種族:ワー・ウルフ


〇〇の色:不明

魔物名:ユイノ

敦を守る側の魔物


種族:ヴァンパイア

(変身能力があり、たまにアイコンが変わります。

別の登場人物と同じアイコンですが使い回しではなく、

彼が無意識に過去の知り合いをイメージして変身したせいです)


〇〇の色:深緑

魔物名:ヴァニッシュ

敦を守る側の魔物。物静かな青年。血縁ではないが、ティアーとは兄と妹のような関係。


種族:ワー・ウルフ


〇〇の色:銀色

名前:サクルド

敦に仕えると自称し、彼が望んだ時にしか姿を現せないらしい。

魔物達は基本的に敬語を使わないが、彼女だけは丁寧な話し口。


〇〇の色:新緑のように鮮やかなエメラルド・グリーン

名前:エリス

敦を守る側の魔物。知識豊富で戦闘は不得手だが、いざという時は戦う。


種族:エルフ


〇〇の色:青

名前:ライト

敦を守る側の魔物。仲間内では最も戦闘力に長ける。


種族:タイタン


〇〇の色:紫混じりの黒

名前:ベル

敦を守る側の魔物達のリーダー。ちょっと意地悪? だけど、いざという時は最前線で指揮を執り、頼れる存在らしい。


種族:ヴァンパイア


〇〇の色:薄紫

名前:セレナート

エメラードの水源。


種族:ウンディーネ


〇〇の色:常に多様に変化していて、一定ではない

名前:シュゼット

エメラードを監視する魔物。敦達に対して中立……と言いながら、要事には割と関わって助けてくれる。


種族:レッド・フェニックス


〇〇の色:赤

名前:トール

敦とは子供の頃に知り合いだったが、何故かエメラードで再会することに。


種族:ゴーレム


〇〇の色:茶色

名前:アッキー

トールをゴーレムとして作り上げた、アンデッド種族の研究者。


種族:パン


〇〇の色:不明

名前:フェイド

魔物なのかそうではないのかもわからない、謎の青年。

人間ではないことだけは、確か。


種族:不明


〇〇の色:黄金

名前:カリン (小笠原 楓)

アクアマリン同盟に属する、人間の魔術技師。


〇〇の色:赤紫。ワインレッド。

名前:春日居 梓(かすがい あずさ)

アクアマリン同盟に属する戦士。


種族:人間と魔物(ハーフ・キャット)の混血


〇〇の色:麦穂のような黄金(こがね)色

名前:江波 聖(えなみ ひじり)

アクアマリン同盟に属する戦士。人間でありながら魔物と対等に戦える実力を努力で培った。


〇〇の色:流水色

名前:唐馬 好(とうま このみ)

豊の伯父の、内縁の妻の娘。豊とは5歳くらいの年齢差。謎の言動が多い


〇〇の色:漆黒


大人になった好

名前:春日居 要(かすがい かなめ)

梓の養父で、アクアマリンに住む子供達を見守ってくれる。

代々、魔物の研究者の家系。


〇〇の色:不明

名前:ツヴァイク

アクアマリンを監視する魔物だが、梓達にとっては親しい友人。


種族:ブルー・フェニックス=フォボス


〇〇の色:青

名前:不明

両フェニックスに仕えるキメラ。

(AI変換で作中の外見情報を再現しきれなかったので、このアイコンは「イメージです」ということでお読みください)


種族:ムシュフシュ


◯◯の色:不明

名前:高泉 円(こういずみ まどか)

高校三年生。敦の姉、涙の親友。


〇〇の色:不明

名前:ジャック

人間の島の森の奥で魔物達が生活する、「出張所」の管理人。


〇〇の色:不明

名前:オルン

エメラードの船が着く小さな砂浜に住む技術者。ベル達の協力者。


種族:ドワーフ


〇〇の色:不明

名前:ボーン

エメラードに住む、ベル達の協力者。エリス同様、知識を披露したがるタイプの魔術師。


種族:竜


〇〇の色:白

魔物名:シヴァ・ジャクリーヌ

敦と敵対した魔物


種族:ホムンクルス


〇〇の色:不明

名前:ナウル

エメラードに住む魔物。敦達に対して中立。


種族:ハーピー


〇〇の色:桃色混じりの明るい茶色

名前:ディーヴ

敦と敵対した魔物。大量の虫を使役する。


種族:鳥精霊と人間の混血


〇〇の色:不明

名前:サリーシャ

敦と敵対した魔物。


種族:ブラック・アニス


〇〇の色:蒼白

名前:東 浩一(あずま ひろかず)

豊の旧友だが、仲違いしたことを深く悔いている。


〇〇の色:不明

名前:環(たまき)

愛称はタマちゃん。ごく普通の居酒屋店主。

ユズちゃんの兄。


〇〇の色:不明

名前:穣(ゆずる)

愛称はユズちゃん。動物と遊ぶのが好きな、ごく普通の小学生。

タマちゃんの弟。


〇〇の色:不明

名前:キリー

ライトの末の娘。


種族:タイタン


〇〇の色:紫混じりの黒

名前:ハイリア

アクアマリン同盟・盟主。全身に目玉を持つ。


種族:タイタン族の亜種


〇〇の色:不明

名前:セリオール

アクアマリンの水源


種族:ウンディーネ


〇〇の色:常に多様に変化していて、一定ではない

名前:カンナ

ベルの古い友人


〇〇の色:赤錆色


名前:長矢 実(ながや みのる)

豊の伯父。内縁の妻とその娘と暮らす。料理人。


〇〇の色:不明


名前:長矢 恵(ながや めぐみ)

豊の母。


〇〇の色:不明

名前:岬 結人(みさき ゆうと)

生き物の価値基準は全て「血のにおい」で判断する。典型的なヴァンパイア思想で生きている。


種族:ヴァンパイア


〇〇の色:深緑

名前:式竜

源泉竜直属の竜で、最も重要な使命を与えられた。


種族:竜


〇〇の色:深緑

名前:支竜

源泉竜直属の竜。式竜の使命を補佐させるために作られた。


種族:竜


〇〇の色:麦穂のような黄金色

名前:小竜

源泉竜直属で、源泉竜の憧れを叶えるために意図的に弱く作られた竜。


種族:竜


〇〇の色:不明

名前:巨竜

巨神竜直属の竜だが、勅命を受けて源泉竜領地にいた。


種族:竜


〇〇の色:山吹色

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せっかく登録されてるのでこの公式アイコン、使ってみたかった。使える場面があって良かった。

作者。あとがき書くかもしれないのでアイコン登録しておきます。

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