23.力の解放①
文字数 3,903文字
レイが二枚目の呪符を書き上げるのと、マスターが睦月に大まかな状況を説明し終えるのは、ほぼ同時だった。
「――よし」
書き上げた呪符を闇の塊に貼り付けて、レイは顔を上げた。状況を確認するように辺りを見回し、睦月の姿を認めて頷く。
「ハギワラ。状況は聞いた?」
「聞いたよ。それで僕は何をしたら良いの?」
「とりあえずリョースケから塊 を引き離したい。僕の考えが正しければ、この呪符で『胤』を無効化できるはずなんだけど、いかんせん、まだ全部解析できてるわけじゃない。だからハギワラには、万が一、僕の術が上手く効かなかった時にゴーレムを無効化してほしい」
「……」
ごくりとつばを飲み、睦月はレイの背後に鎮座する闇色の塊を見つめた。心なしか、脈打っているようにも見えるそれに、心臓が嫌な音を立てる。アレは――関わってはいけないモノだと、本能が叫ぶ。
「何なら一時的にでもいい。とにかくアレとリョースケを引き離す時間を稼ぎたい」
そう言って、レイは睦月を正面から見据えた。
――僕に……できるのかな
睦月の中を、不安と疑心がよぎる。まだ、バルドとの交信は上手くいかないままだ。そんな自分に、果たしてこの大役は務まるのだろうか。もし失敗したら、目の前の少年はどうなってしまうのか。その帰結が――その責任の重さが――恐ろしい。
けれど――
「……わかった」
睦月は頷いて、レイとまっすぐに目を合わせた。その答えに、レイが満足げな表情を浮かべる。
「でも少し、調整する時間が欲しい」
「わかった。どれくらい要る?」
簡潔なレイの言葉は、睦月が彼の要求に応えられることを前提としていて、それを疑わない。その事実が、睦月の背中を押した。
「数分……それで何とかしてみる」
本当は短時間では心許ない。けれど、目の前のソレを見る限り、猶予はあまりないことは明らかだ。ならば、やるしかない。睦月は手近な椅子に腰を下ろすと、ゆっくりと呼吸を整え、目を閉じた。
――バルド
水面から深く深く水中を潜るように、意識の糸をその深淵へと下ろしていく。底の見えない井戸を沈んでいくような、ひどく狭い道を通って、まっすぐに。
――バルド。力を貸して
呼びかけながら降り立ったその場所は、意識の最奥だというのに――いや、だからこそだろうか――しごく清浄で、何もないその空間にぽつりと立つ睦月はゆっくりと辺りの気配を探る。
「バルド」
名を呼ぶ声が虚しく響く。応えは、ない。
「バルド、見てたでしょう? あの子を助けたい。僕に力を貸して」
睦月の声に、どこからともなく風が吹いた――意識の底にも風が吹くのかと、ぼんやりと思う。
「バルド、いるんでしょう?」
時間がない。こうしている間にも、事態は刻々と変わっているかもしれない。内心の焦りを押しとどめつつ呼びかける睦月に、風が応じた。
――我が力は、人の身には大きすぎる
耳元を掠めた風の中に囁きを聞き取って、睦月は顔を上げた。
「そんなことは分かってる。だけど、僕なら――」
言いかけて、睦月は小さく首を振った。そうじゃない。自分とバルドは、同じ魂を共有してはいても、根本から異なる存在だ。
「バルドなら助けられるんだ。だから」
けれど、風は答えを返さない。焦りが募る。
「最初に力を貸せって言ったのは、あなたじゃないか。セルノの乱を招いた後悔を、二度と繰り返さないために、あなたは僕を巻き込んだんじゃなかったの」
――セルノの復活は……止めねばならぬ
「なら、『胤』だって止めなきゃいけないんじゃないの。セルノさえ復活しなければ、他は見過ごすの」
思わず語調がきつくなる。その時だった。
『ハギワラ! 急げ!』
頭上遙か高く、遠くの水面から、声が聞こえた。
レイの余裕のない声音に、ビクリと睦月の身体が跳ね――意識が――浮上――
「――まだだ! 話は終わってない! バルド!!」
きっと眼前を睨み付け、睦月は歯を食いしばる。浮上しかけた意識を押し戻し、声を張り上げる。それから、焦る自分を抑えるようにゆっくりと目を閉じ、呼吸を整える。
ややあって、おもむろに瞼を挙げたその下の双眸は、迷いなく澄んだ色を浮かべていた。
「今まさに目の前に命を食われようとしている人がいるんだ。僕なら助けられるのに、ただ見過ごすなんて嫌だ」
あの日、ライブハウスで見た光景が脳裏を過ぎる。何もできず、ただ人が食われる様を見ているしかなかった無力な自分。
「目の前で苦しむ人たちの祈りを叶えられないことに、あなたは苦しんだんでしょう。その思いは――力があるのに、それを使えない苦しさは――今、僕が感じているものと同じじゃないの」
風は答えない。光もまた。けれど、確かに誰かがその言葉を聞いている。そんな確信とともに言葉を紡ぐ。
「力を。今のあなたは
睦月の周囲で、さざ波のように光がざわめく。睦月の瞳が力を帯びる。
「――
その瞬間。
さあっと風が睦月の周囲を巻いた。そして気付けば、睦月の眼前に一人の男が立っていた。
「バルド……」
夢の中では何度も目にしていたけれど、こうして相対するのははじめてだ。
「若者よ」
低い声が睦月を呼ぶ。
「私の力を得れば、もはや只人には戻れぬぞ」
その言葉は重く、睦月の心に響いた。
「人のその身には、私の力は大きすぎる。人として生きるには苦しいこともあろう」
「……前の僕なら、そう言われたら迷ったと思う。でも」
みんなと同じ「普通」の人生を送るために、目的もなくただ流されてきたこれまでの生き方を、睦月は思う。周囲の流れに身を任せ、皆と同じように歩む日常へと埋没することに、安心感よりも焦燥と空虚感ばかりが強まっていった日々。
けれど、この数ヶ月。バルドの力に触れて以降、睦月の日常は空虚さとは無縁のものになった。思うように力を使えない焦燥はあれど、それでも常に、目標に向かって前進することは睦月に充実感を抱かせた。
「あなたと接触するために瞑想するようになって、初めて気付いたことが沢山あった」
意識の深いところへと降りていくために目を閉じると、様々な音が聞こえてくる。風の音、虫の音。鳥や動物の息づく音。人の声。喜び、悲しみ、怒り、憎しみ――諦め。これまでも周囲にあった筈なのに聞き逃していた沢山の音があった。
「あなたに以前聞こえていたものに比べたら、何てことのない、些細な音だけど」
意識して聞くようになれば、瞑想をしていなくともそれは耳に届くようになった。友人の僅かな声音の変化、足運びの音の軽重。
バルドのように人々の祈りが聞こえるわけではない。けれど身近な人々の小さな想いを、身近な世界の生命の音を、睦月は愛すべき――とても大切なものだと思った。この世界は沢山の命でできていて、そのひとつひとつが、それぞれの想いを抱いて生きている。
そんな当たり前のことに、睦月はようやく気付いた。いや、知ってはいても見逃してきたのだ。
それは――外界だけのことではなかった。睦月自身の内側にも、睦月の気付いていない沢山の想いがあった。
――みんなと同じライフコースを進まなければ、取り残されてしまったら、生きていけないんじゃないか。
――目標もなく夢もなく進んでいいのだろうか。みんなのように自分で自分の道を見つけられない僕は、それでもみんなと同じように生きていけるんだろうか。
――家族や親戚や先生や、周りの人たちの忠告に従わなかったら、それで失敗してしまったら、失望されてしまうんじゃないか。
――……自分の道すら自分で決められない僕には、いったい何が足りないんだろう。
――僕には……人に示せる何かがあるだろうか。
――僕の価値は……生きる意味は……いったいどこにあるんだろう。
少しずつ意識の淵を降りて行くにつれ、睦月はこれまで自分が見ぬ振りをしてきた想いに気付かされ、否応なく向き合うことになった。
不安、焦り、迷い、羨望、不安、絶望。
ひとつ意識の層を降る度、またひとつ、見ぬ振りをしてきた――見たくなかった自分の本音が問いかけてくる。それは正直に言えば、どんな訓練よりも苦しく、耳を塞ぎたくなった。
けれど。
そういう自分と向き合いながら、さらに降りていったその先に。
――それでも僕は、自分にできることをしたい。
願いがあった。
――きっと、できる。みんながいるから。
希望があった。
――大事な人たちを、僕の世界を守るために。
目標が。
――今の僕なら
確信が。
「もうとっくに、ただの人なら経験しないような人生に足を突っ込んでるよ。でも、僕は僕だ。アレク達だって手伝ってくれる」
そう言って、睦月は口元に微笑を刻んだ。その足で、確固として地を踏みしめて。
「大丈夫。
木々の隙間からぱあっと陽が差すように、睦月の周囲が明るく照らされる。
意識の――魂の奥底に、睦月自身の意志が満ちる。
そして。
「ならば、私の力をそなたに与えよう」
静かに、バルドが言った。ふわりと挙げたその手に、白い光が浮かび上がる。
「全てを渡せば、人の身はもろく壊れてしまう。そなたの望みを叶えるだけの力を」
すうっと差し出された手から光が浮き上がり、睦月の方へと受け渡される。それを両手に包み込むと、睦月は抱き込むようにその身に取り入れた。
ぱあぁっと睦月の身体が白く光る。意識が再び浮上を始める。
「全てではなくとも人の身には大きな力だ。使いこなすまでには時間も掛かろう――」
バルドの声が遠ざかっていく。その声を漏らさず聞き取ろうと耳を澄ませながら、睦月は意識の水面へと浮上していった。
「――よし」
書き上げた呪符を闇の塊に貼り付けて、レイは顔を上げた。状況を確認するように辺りを見回し、睦月の姿を認めて頷く。
「ハギワラ。状況は聞いた?」
「聞いたよ。それで僕は何をしたら良いの?」
「とりあえずリョースケから
「……」
ごくりとつばを飲み、睦月はレイの背後に鎮座する闇色の塊を見つめた。心なしか、脈打っているようにも見えるそれに、心臓が嫌な音を立てる。アレは――関わってはいけないモノだと、本能が叫ぶ。
「何なら一時的にでもいい。とにかくアレとリョースケを引き離す時間を稼ぎたい」
そう言って、レイは睦月を正面から見据えた。
――僕に……できるのかな
睦月の中を、不安と疑心がよぎる。まだ、バルドとの交信は上手くいかないままだ。そんな自分に、果たしてこの大役は務まるのだろうか。もし失敗したら、目の前の少年はどうなってしまうのか。その帰結が――その責任の重さが――恐ろしい。
けれど――
「……わかった」
睦月は頷いて、レイとまっすぐに目を合わせた。その答えに、レイが満足げな表情を浮かべる。
「でも少し、調整する時間が欲しい」
「わかった。どれくらい要る?」
簡潔なレイの言葉は、睦月が彼の要求に応えられることを前提としていて、それを疑わない。その事実が、睦月の背中を押した。
「数分……それで何とかしてみる」
本当は短時間では心許ない。けれど、目の前のソレを見る限り、猶予はあまりないことは明らかだ。ならば、やるしかない。睦月は手近な椅子に腰を下ろすと、ゆっくりと呼吸を整え、目を閉じた。
――バルド
水面から深く深く水中を潜るように、意識の糸をその深淵へと下ろしていく。底の見えない井戸を沈んでいくような、ひどく狭い道を通って、まっすぐに。
――バルド。力を貸して
呼びかけながら降り立ったその場所は、意識の最奥だというのに――いや、だからこそだろうか――しごく清浄で、何もないその空間にぽつりと立つ睦月はゆっくりと辺りの気配を探る。
「バルド」
名を呼ぶ声が虚しく響く。応えは、ない。
「バルド、見てたでしょう? あの子を助けたい。僕に力を貸して」
睦月の声に、どこからともなく風が吹いた――意識の底にも風が吹くのかと、ぼんやりと思う。
「バルド、いるんでしょう?」
時間がない。こうしている間にも、事態は刻々と変わっているかもしれない。内心の焦りを押しとどめつつ呼びかける睦月に、風が応じた。
――我が力は、人の身には大きすぎる
耳元を掠めた風の中に囁きを聞き取って、睦月は顔を上げた。
「そんなことは分かってる。だけど、僕なら――」
言いかけて、睦月は小さく首を振った。そうじゃない。自分とバルドは、同じ魂を共有してはいても、根本から異なる存在だ。
「バルドなら助けられるんだ。だから」
けれど、風は答えを返さない。焦りが募る。
「最初に力を貸せって言ったのは、あなたじゃないか。セルノの乱を招いた後悔を、二度と繰り返さないために、あなたは僕を巻き込んだんじゃなかったの」
――セルノの復活は……止めねばならぬ
「なら、『胤』だって止めなきゃいけないんじゃないの。セルノさえ復活しなければ、他は見過ごすの」
思わず語調がきつくなる。その時だった。
『ハギワラ! 急げ!』
頭上遙か高く、遠くの水面から、声が聞こえた。
レイの余裕のない声音に、ビクリと睦月の身体が跳ね――意識が――浮上――
「――まだだ! 話は終わってない! バルド!!」
きっと眼前を睨み付け、睦月は歯を食いしばる。浮上しかけた意識を押し戻し、声を張り上げる。それから、焦る自分を抑えるようにゆっくりと目を閉じ、呼吸を整える。
ややあって、おもむろに瞼を挙げたその下の双眸は、迷いなく澄んだ色を浮かべていた。
「今まさに目の前に命を食われようとしている人がいるんだ。僕なら助けられるのに、ただ見過ごすなんて嫌だ」
あの日、ライブハウスで見た光景が脳裏を過ぎる。何もできず、ただ人が食われる様を見ているしかなかった無力な自分。
「目の前で苦しむ人たちの祈りを叶えられないことに、あなたは苦しんだんでしょう。その思いは――力があるのに、それを使えない苦しさは――今、僕が感じているものと同じじゃないの」
風は答えない。光もまた。けれど、確かに誰かがその言葉を聞いている。そんな確信とともに言葉を紡ぐ。
「力を。今のあなたは
もう
、継承者じゃない」睦月の周囲で、さざ波のように光がざわめく。睦月の瞳が力を帯びる。
「――
僕だ
」その瞬間。
さあっと風が睦月の周囲を巻いた。そして気付けば、睦月の眼前に一人の男が立っていた。
「バルド……」
夢の中では何度も目にしていたけれど、こうして相対するのははじめてだ。
「若者よ」
低い声が睦月を呼ぶ。
「私の力を得れば、もはや只人には戻れぬぞ」
その言葉は重く、睦月の心に響いた。
「人のその身には、私の力は大きすぎる。人として生きるには苦しいこともあろう」
「……前の僕なら、そう言われたら迷ったと思う。でも」
みんなと同じ「普通」の人生を送るために、目的もなくただ流されてきたこれまでの生き方を、睦月は思う。周囲の流れに身を任せ、皆と同じように歩む日常へと埋没することに、安心感よりも焦燥と空虚感ばかりが強まっていった日々。
けれど、この数ヶ月。バルドの力に触れて以降、睦月の日常は空虚さとは無縁のものになった。思うように力を使えない焦燥はあれど、それでも常に、目標に向かって前進することは睦月に充実感を抱かせた。
「あなたと接触するために瞑想するようになって、初めて気付いたことが沢山あった」
意識の深いところへと降りていくために目を閉じると、様々な音が聞こえてくる。風の音、虫の音。鳥や動物の息づく音。人の声。喜び、悲しみ、怒り、憎しみ――諦め。これまでも周囲にあった筈なのに聞き逃していた沢山の音があった。
「あなたに以前聞こえていたものに比べたら、何てことのない、些細な音だけど」
意識して聞くようになれば、瞑想をしていなくともそれは耳に届くようになった。友人の僅かな声音の変化、足運びの音の軽重。
バルドのように人々の祈りが聞こえるわけではない。けれど身近な人々の小さな想いを、身近な世界の生命の音を、睦月は愛すべき――とても大切なものだと思った。この世界は沢山の命でできていて、そのひとつひとつが、それぞれの想いを抱いて生きている。
そんな当たり前のことに、睦月はようやく気付いた。いや、知ってはいても見逃してきたのだ。
それは――外界だけのことではなかった。睦月自身の内側にも、睦月の気付いていない沢山の想いがあった。
――みんなと同じライフコースを進まなければ、取り残されてしまったら、生きていけないんじゃないか。
――目標もなく夢もなく進んでいいのだろうか。みんなのように自分で自分の道を見つけられない僕は、それでもみんなと同じように生きていけるんだろうか。
――家族や親戚や先生や、周りの人たちの忠告に従わなかったら、それで失敗してしまったら、失望されてしまうんじゃないか。
――……自分の道すら自分で決められない僕には、いったい何が足りないんだろう。
――僕には……人に示せる何かがあるだろうか。
――僕の価値は……生きる意味は……いったいどこにあるんだろう。
少しずつ意識の淵を降りて行くにつれ、睦月はこれまで自分が見ぬ振りをしてきた想いに気付かされ、否応なく向き合うことになった。
不安、焦り、迷い、羨望、不安、絶望。
ひとつ意識の層を降る度、またひとつ、見ぬ振りをしてきた――見たくなかった自分の本音が問いかけてくる。それは正直に言えば、どんな訓練よりも苦しく、耳を塞ぎたくなった。
けれど。
そういう自分と向き合いながら、さらに降りていったその先に。
――それでも僕は、自分にできることをしたい。
願いがあった。
――きっと、できる。みんながいるから。
希望があった。
――大事な人たちを、僕の世界を守るために。
目標が。
――今の僕なら
確信が。
「もうとっくに、ただの人なら経験しないような人生に足を突っ込んでるよ。でも、僕は僕だ。アレク達だって手伝ってくれる」
そう言って、睦月は口元に微笑を刻んだ。その足で、確固として地を踏みしめて。
「大丈夫。
僕は僕として
――生きていける」木々の隙間からぱあっと陽が差すように、睦月の周囲が明るく照らされる。
意識の――魂の奥底に、睦月自身の意志が満ちる。
そして。
「ならば、私の力をそなたに与えよう」
静かに、バルドが言った。ふわりと挙げたその手に、白い光が浮かび上がる。
「全てを渡せば、人の身はもろく壊れてしまう。そなたの望みを叶えるだけの力を」
すうっと差し出された手から光が浮き上がり、睦月の方へと受け渡される。それを両手に包み込むと、睦月は抱き込むようにその身に取り入れた。
ぱあぁっと睦月の身体が白く光る。意識が再び浮上を始める。
「全てではなくとも人の身には大きな力だ。使いこなすまでには時間も掛かろう――」
バルドの声が遠ざかっていく。その声を漏らさず聞き取ろうと耳を澄ませながら、睦月は意識の水面へと浮上していった。