第90話 客室にて
文字数 3,742文字
二人はエントランスへと戻ってきた。
しんと静まりかえったこの場所に明かりはない。メルリアは周囲を見回した。目はある程度暗闇に慣れたとはいえ、やはり視界は普段の何倍も頼りない。
しかし、左方へと続く廊下だけは違った。ぽつんと弱々しい光が、点となってそこに存在している。先ほどと全く場所を変えず、乙夜鴉はそこでただただメルリアを待っていたのだ。ぴたりとその場を動かずにいた乙夜鴉だが、やがて物音が響くと、そちらへと顔を向けた。音は赤い絨毯の質感に飲み込まれる事なく、鴉にははっきりと届く。
「……二人ともどうした?」
その音に、メルリアだけ反応が遅れた。暗闇から突然現れた幽霊を発見したように、息が詰まる。やがて、それが自分のよく知る声であると気づくと、固まっていた体の力が抜ける。肺の中に押し込んでいた空気を口からゆっくり吐きだした。
階段を降り、シャムロックの足が絨毯から石造りの床へ動く。確かな足音が暗闇に響いた。そこでやっと、メルリアは彼の足音を耳にした。
エントランスは変わらず薄暗く、シャムロックの表情は読めない。彼の体の輪郭は細く、光り物の服飾がないことから、外套は脱いできたのだろう――ということだけは察することができた。
ほっと胸をなで下ろし、メルリアはその影へ一歩踏み出す。
「あの、クライヴさんに……シャムロックさんが、少し遅くなるかもってお話ししようと中庭に行ったんですけど……」
メルリアは暗闇の中、身振り手振りを交えながらこれまでの事を説明した。シャムロックが中庭に到達するのはもう少し後になると言うことを、中庭で待つクライヴに伝えようとした。が、彼の体が信じられないほど冷たく、それどころではなくなってしまった。取り敢えず風の当たらないエントランスに戻ってきたところだった。
一通り説明を終えると、シャムロックはうなずいた。
「なるほどな」
「……あの、大丈夫でしたか?」
メルリアは窺うようにシャムロックを見上げる。応えるように、彼は笑顔を向けた。
「ああ。ありがとう、背中を押してくれて」
彼の表情は相変わらず暗闇に包まれていてよく見えない。しかし、声色は感情を映し出すように柔らかだ。その声を耳にすると、暗闇に向けて笑顔を作った。
メルリアは周囲を見回すと、クライヴのものらしい人影にゆっくりと近づいていく。やはり、こちらの表情も分からない。手や腕の位置もよく見えない。恐らく顔らしい楕円に視線を向けた。
「それじゃあ、また後でね」
「……ああ」
メルリアは小さく手を振ると、二人に背を向けた。左方の廊下で待つ乙夜鴉に声をかけると、彼は心得たとばかりに飛び去っていく。その光の軌跡を、ゆっくりと追いかけた。
いくつもの扉を、いくつもの窓を通り過ぎる。
廊下に面する半円形のアーチ窓にカーテンはなく、月明かりが廊下を照らしていた。それによって落ちた窓枠の影が、廊下に丸い模様を落としている。
メルリアは時折窓の外に視線を向けながら、乙夜鴉が示すとおりの道を進んでいた。カーテンがないおかげで、道すがら目が飽きることはない。屋敷は似た景色が広がっているが、外は一歩進むごとに変化があった。大きな鉄塀に生け垣の緑。点々と咲く赤い花。山の遠くの緑。
窓の外に見つけた花を数えていると、やがて乙夜鴉は最奥からひとつ手前の扉の前で羽を休めた。この部屋だ、と指し示すように左の翼だけを広げる。漆黒の羽根は光を反射し、青白く光っている。メルリアはその傍らに立ち、扉を指さした。
「この部屋でいいの?」
問うと、乙夜鴉はくわえた月満草を足下に置いた。同意を示すよう、短く鳴く。相変わらずの渋い声は、聞き慣れてしまえばどこか味のある声だ。
メルリアはその場でしゃがんだ。律儀にこちらを待つ乙夜鴉と目が合う。どこか青みがかった羽根とは違い、瞳は深い夜の色をしている。それを見つめながら微笑んだ。
「ここまで連れてきてくれてありがとう」
当然だと言わんばかりに一鳴きすると、乙夜鴉は足下に置いた月満草をくわえ、一直線に来た道を帰っていく。キャンパスに一本線を伸ばしたかのような、綺麗な直線が闇に生まれた。月満草の零れた光が軌道を描き、余韻を残してゆっくりと黒へ溶けていく。心を奪われるその光を見つめたてから、扉に向き直った。わずかに見える焦げ茶の色を見つめながら、メルリアはその場に立ち尽くした。
ウェンディとは今日知り合ったばかりだ。そんな彼女は、自分に一対一で話があるという。一体どういう内容なのだろう。クライヴとシャムロックがあの症状の話をしている間、邪魔にならないようにということだったらいいのだけれど……。
震える手を押さえるように、握り拳を作る。力が音に現れぬよう、控えめに扉をノックした。
「メルリアです。お待たせしてしまい、申し訳ありません」
「お待ちしておりました、メルリア様。どうぞお入りください」
問いかけから返答まで、ほとんど時間はかからなかった。
ウェンディの言葉と共に、扉がゆっくりと押し開かれる。今後の話に少しの緊張を覚えながら、その様子をじっと見つめていた。
ここの部屋は他の部屋と異なり、どこか明るい。燭台やランタンなどの明かりが灯っているようだ。頼りない明るさであるのは変わらないが、ないよりはずっといい。橙色の光源の付近がぼんやりと照らされ、メルリアでも物の形や色がはっきりと見て取れる。まず目に入ったのは飾り棚だ。海を閉じ込めたような藍色の結晶、どこか落ち着いたユカリノ風の茶器、赤いラインが目を引くオウコウの絵皿。車輪のついた箱型の模型はズィルヴァーを象徴するものだ。どれも、ヴィリディアンでは馴染みのない物ばかりが並べられている。一つ一つじっくり見るだけでも日が暮れてしまいそうだった。傍らのチェストには本が数冊。ブックエンドがないせいで、何冊かが壁際に寄りかかるように情けなく倒れていた。出窓には月満草が一輪生けられている。カーテンのない窓が、周囲の森をはっきりと映し出している。
中央には、窓から差し込む光を背負う男がひとり。彼は、冷たい印象を匂わせる灰色の椅子にゆったりと腰掛けていた。
ウェンディは靴音を響かせると、部屋の扉をゆっくりと閉じる。
「お連れいたしました」
男へ耳打ちすると、ウェンディは彼の傍で控えた。
メルリアは恐る恐る一歩前へ出た。逆光で男の表情がよく分からなかったのだ。距離を詰めるたび、影の落ちていた男の顔が鮮明になっていく。黒い短髪に赤い瞳。年齢はシャムロックより七歳から十歳ほど年上。恐らく初老――四十代あたりだろう。
その様子を見つめながら、メルリアはさらに男へ近づいていく。やがて、その輪郭や表情をはっきりと認識した途端、足を止めた。
メルリアは知っていた。困ったように笑う表情も、冗談を言う時の軽い声も、少し大げさな手の振り方も。記憶にある姿と瓜二つの人物を前に、思わず息を吸う。あの時と同じ洋酒の匂いが鼻腔を刺激した。
「おばあちゃんの……親戚の、おじさん?」
恐る恐る尋ねると、肘掛けに置いたままの男の手がわずかに反応する。そのまま腕を上げようとしたが、すぐに力を抜いた。そこへ視線をやると、男は困ったように笑う。メルリアの記憶にある表情と、全く同じ顔をして。
「メルリア、久しぶり。……大きく、なったね」
震えながら紡いだその声が、彼女の記憶と一致した。やがて、胸の内にこみ上げてくる懐かしさと共に、当時の姿がよみがえってくる。
祖母の親戚で、自分が五歳から十歳くらいまで一緒に住んでいた人だ。夜勤だという彼は、夕方一人だった自分の面倒をずっと見てくれていた。
メルリアは驚きと困惑で目を見開く。どうしてあのおじさんがここにいるのだろう。
男は腕を上げようとしたが、重たい金属の感覚が肘に伝わって、諦めたように腕の力を抜いた。今の自分の状況を思い知らされたのだ。男が何か言いたげな視線をウェンディに向けるが、彼女は涼しい顔を貫く。しかし肘掛けの手が迷うように右往左往する様を見るなりウェンディはため息をついた。椅子の傍に膝を下ろすと、男の右肘を固定していたベルトの根元に鍵穴を差し込んだ。左にもそれを繰り返し、腕の拘束が解かれる。肘掛けに体重をかけ、男は体を歪に反らしながら立ち上がった。やっと格好がつくと、男は首の後ろを掻く。
ウェンディから注がれる鋭い視線に居心地の悪さを覚えながら、男は一つ咳払いした。その声を聞き、メルリアははっと我に返る。声も、姿も、何一つ変わらず自分の記憶のままなのに、背格好の印象だけが異なった。八歳の見る世界と、十八歳の見る景色が違うせいだ。
「……ロバータも言わなかったと思うから、ちゃんと自己紹介するね」
久しぶりに他人の口から聞く祖母の名前。そして、祖母を知る人物。メルリアの混乱は収まらないが、しかし真っ直ぐ男の目を見つめ返した。
男はその無垢な瞳の色を受け止めきれず、視線が泳ぐ。間を置いて、その強さを苦笑いで受け止めた。メルリアの右肩に冷たい手を置くと、彼は彼女のよく知る顔で微笑した。
「オレの名前はテオフィール・ゼーベック。ロバータの父で、君の曾祖父にあたる月夜鬼 だ」
しんと静まりかえったこの場所に明かりはない。メルリアは周囲を見回した。目はある程度暗闇に慣れたとはいえ、やはり視界は普段の何倍も頼りない。
しかし、左方へと続く廊下だけは違った。ぽつんと弱々しい光が、点となってそこに存在している。先ほどと全く場所を変えず、乙夜鴉はそこでただただメルリアを待っていたのだ。ぴたりとその場を動かずにいた乙夜鴉だが、やがて物音が響くと、そちらへと顔を向けた。音は赤い絨毯の質感に飲み込まれる事なく、鴉にははっきりと届く。
「……二人ともどうした?」
その音に、メルリアだけ反応が遅れた。暗闇から突然現れた幽霊を発見したように、息が詰まる。やがて、それが自分のよく知る声であると気づくと、固まっていた体の力が抜ける。肺の中に押し込んでいた空気を口からゆっくり吐きだした。
階段を降り、シャムロックの足が絨毯から石造りの床へ動く。確かな足音が暗闇に響いた。そこでやっと、メルリアは彼の足音を耳にした。
エントランスは変わらず薄暗く、シャムロックの表情は読めない。彼の体の輪郭は細く、光り物の服飾がないことから、外套は脱いできたのだろう――ということだけは察することができた。
ほっと胸をなで下ろし、メルリアはその影へ一歩踏み出す。
「あの、クライヴさんに……シャムロックさんが、少し遅くなるかもってお話ししようと中庭に行ったんですけど……」
メルリアは暗闇の中、身振り手振りを交えながらこれまでの事を説明した。シャムロックが中庭に到達するのはもう少し後になると言うことを、中庭で待つクライヴに伝えようとした。が、彼の体が信じられないほど冷たく、それどころではなくなってしまった。取り敢えず風の当たらないエントランスに戻ってきたところだった。
一通り説明を終えると、シャムロックはうなずいた。
「なるほどな」
「……あの、大丈夫でしたか?」
メルリアは窺うようにシャムロックを見上げる。応えるように、彼は笑顔を向けた。
「ああ。ありがとう、背中を押してくれて」
彼の表情は相変わらず暗闇に包まれていてよく見えない。しかし、声色は感情を映し出すように柔らかだ。その声を耳にすると、暗闇に向けて笑顔を作った。
メルリアは周囲を見回すと、クライヴのものらしい人影にゆっくりと近づいていく。やはり、こちらの表情も分からない。手や腕の位置もよく見えない。恐らく顔らしい楕円に視線を向けた。
「それじゃあ、また後でね」
「……ああ」
メルリアは小さく手を振ると、二人に背を向けた。左方の廊下で待つ乙夜鴉に声をかけると、彼は心得たとばかりに飛び去っていく。その光の軌跡を、ゆっくりと追いかけた。
いくつもの扉を、いくつもの窓を通り過ぎる。
廊下に面する半円形のアーチ窓にカーテンはなく、月明かりが廊下を照らしていた。それによって落ちた窓枠の影が、廊下に丸い模様を落としている。
メルリアは時折窓の外に視線を向けながら、乙夜鴉が示すとおりの道を進んでいた。カーテンがないおかげで、道すがら目が飽きることはない。屋敷は似た景色が広がっているが、外は一歩進むごとに変化があった。大きな鉄塀に生け垣の緑。点々と咲く赤い花。山の遠くの緑。
窓の外に見つけた花を数えていると、やがて乙夜鴉は最奥からひとつ手前の扉の前で羽を休めた。この部屋だ、と指し示すように左の翼だけを広げる。漆黒の羽根は光を反射し、青白く光っている。メルリアはその傍らに立ち、扉を指さした。
「この部屋でいいの?」
問うと、乙夜鴉はくわえた月満草を足下に置いた。同意を示すよう、短く鳴く。相変わらずの渋い声は、聞き慣れてしまえばどこか味のある声だ。
メルリアはその場でしゃがんだ。律儀にこちらを待つ乙夜鴉と目が合う。どこか青みがかった羽根とは違い、瞳は深い夜の色をしている。それを見つめながら微笑んだ。
「ここまで連れてきてくれてありがとう」
当然だと言わんばかりに一鳴きすると、乙夜鴉は足下に置いた月満草をくわえ、一直線に来た道を帰っていく。キャンパスに一本線を伸ばしたかのような、綺麗な直線が闇に生まれた。月満草の零れた光が軌道を描き、余韻を残してゆっくりと黒へ溶けていく。心を奪われるその光を見つめたてから、扉に向き直った。わずかに見える焦げ茶の色を見つめながら、メルリアはその場に立ち尽くした。
ウェンディとは今日知り合ったばかりだ。そんな彼女は、自分に一対一で話があるという。一体どういう内容なのだろう。クライヴとシャムロックがあの症状の話をしている間、邪魔にならないようにということだったらいいのだけれど……。
震える手を押さえるように、握り拳を作る。力が音に現れぬよう、控えめに扉をノックした。
「メルリアです。お待たせしてしまい、申し訳ありません」
「お待ちしておりました、メルリア様。どうぞお入りください」
問いかけから返答まで、ほとんど時間はかからなかった。
ウェンディの言葉と共に、扉がゆっくりと押し開かれる。今後の話に少しの緊張を覚えながら、その様子をじっと見つめていた。
ここの部屋は他の部屋と異なり、どこか明るい。燭台やランタンなどの明かりが灯っているようだ。頼りない明るさであるのは変わらないが、ないよりはずっといい。橙色の光源の付近がぼんやりと照らされ、メルリアでも物の形や色がはっきりと見て取れる。まず目に入ったのは飾り棚だ。海を閉じ込めたような藍色の結晶、どこか落ち着いたユカリノ風の茶器、赤いラインが目を引くオウコウの絵皿。車輪のついた箱型の模型はズィルヴァーを象徴するものだ。どれも、ヴィリディアンでは馴染みのない物ばかりが並べられている。一つ一つじっくり見るだけでも日が暮れてしまいそうだった。傍らのチェストには本が数冊。ブックエンドがないせいで、何冊かが壁際に寄りかかるように情けなく倒れていた。出窓には月満草が一輪生けられている。カーテンのない窓が、周囲の森をはっきりと映し出している。
中央には、窓から差し込む光を背負う男がひとり。彼は、冷たい印象を匂わせる灰色の椅子にゆったりと腰掛けていた。
ウェンディは靴音を響かせると、部屋の扉をゆっくりと閉じる。
「お連れいたしました」
男へ耳打ちすると、ウェンディは彼の傍で控えた。
メルリアは恐る恐る一歩前へ出た。逆光で男の表情がよく分からなかったのだ。距離を詰めるたび、影の落ちていた男の顔が鮮明になっていく。黒い短髪に赤い瞳。年齢はシャムロックより七歳から十歳ほど年上。恐らく初老――四十代あたりだろう。
その様子を見つめながら、メルリアはさらに男へ近づいていく。やがて、その輪郭や表情をはっきりと認識した途端、足を止めた。
メルリアは知っていた。困ったように笑う表情も、冗談を言う時の軽い声も、少し大げさな手の振り方も。記憶にある姿と瓜二つの人物を前に、思わず息を吸う。あの時と同じ洋酒の匂いが鼻腔を刺激した。
「おばあちゃんの……親戚の、おじさん?」
恐る恐る尋ねると、肘掛けに置いたままの男の手がわずかに反応する。そのまま腕を上げようとしたが、すぐに力を抜いた。そこへ視線をやると、男は困ったように笑う。メルリアの記憶にある表情と、全く同じ顔をして。
「メルリア、久しぶり。……大きく、なったね」
震えながら紡いだその声が、彼女の記憶と一致した。やがて、胸の内にこみ上げてくる懐かしさと共に、当時の姿がよみがえってくる。
祖母の親戚で、自分が五歳から十歳くらいまで一緒に住んでいた人だ。夜勤だという彼は、夕方一人だった自分の面倒をずっと見てくれていた。
メルリアは驚きと困惑で目を見開く。どうしてあのおじさんがここにいるのだろう。
男は腕を上げようとしたが、重たい金属の感覚が肘に伝わって、諦めたように腕の力を抜いた。今の自分の状況を思い知らされたのだ。男が何か言いたげな視線をウェンディに向けるが、彼女は涼しい顔を貫く。しかし肘掛けの手が迷うように右往左往する様を見るなりウェンディはため息をついた。椅子の傍に膝を下ろすと、男の右肘を固定していたベルトの根元に鍵穴を差し込んだ。左にもそれを繰り返し、腕の拘束が解かれる。肘掛けに体重をかけ、男は体を歪に反らしながら立ち上がった。やっと格好がつくと、男は首の後ろを掻く。
ウェンディから注がれる鋭い視線に居心地の悪さを覚えながら、男は一つ咳払いした。その声を聞き、メルリアははっと我に返る。声も、姿も、何一つ変わらず自分の記憶のままなのに、背格好の印象だけが異なった。八歳の見る世界と、十八歳の見る景色が違うせいだ。
「……ロバータも言わなかったと思うから、ちゃんと自己紹介するね」
久しぶりに他人の口から聞く祖母の名前。そして、祖母を知る人物。メルリアの混乱は収まらないが、しかし真っ直ぐ男の目を見つめ返した。
男はその無垢な瞳の色を受け止めきれず、視線が泳ぐ。間を置いて、その強さを苦笑いで受け止めた。メルリアの右肩に冷たい手を置くと、彼は彼女のよく知る顔で微笑した。
「オレの名前はテオフィール・ゼーベック。ロバータの父で、君の曾祖父にあたる