第79話 代わる代わるエルフ

文字数 7,902文字

 メルリアは空が橙色に染まった辺りから、落ち着かない様子で周囲を見回していた。
 村のエルフに話しかけられてもどこか反応が鈍く、気もそぞろ。理由は単純だ。昨晩の話の続きを、一刻も早くシャムロックにしたかったから。しかし、いくら待てども彼は広場に現れず、ついに夕食の片付けも終わってしまった。今晩やることは何もない。本来ならば今日この村を発つはずだった。だから旅支度はもちろん、挨拶だって済ませている。そのせいで、夕食のため顔を出したザックから「なんでまだいるんだ」と怪訝な表情をされてしまったのだが。
 空の穴から覗く星の数を数え始めること、四度目。メルリアがちょうど三十七番目の星の瞬きを目にすると、中央左方のツリーハウスが控えめに開いた。それに混じり、村恒例の音が響く。喉の温まっていない鳥、あるいは歌の下手なウグイス――もとい、アラキナの高笑い。部屋から顔を出した男はその音を背に黙って扉を閉める。すると、その妙な音が途切れた。森はその奇妙な余韻を全て包み込み、風に乗せてどこかへ流していった。
 彼は周囲を見渡し、辺りの様子を確認する。ツリーハウスには何件か明かりが灯っているが、広場にいるのはメルリア一人だ。その彼女と視線が合う。
「シャムロックさん!」
 シャムロックは静かな笑みを浮かべて答えた。野生動物が野山を音もなく進むような、ほんのわずかな足音だけを立て、シャムロックは広場の中央へ向かった。
「あ、えっと、お食事は……」
「先ほど済ませた。クライヴはどうした?」
「レニーさんに釣り竿を返しに行ってます」
 ――昼過ぎの釣果は上々だった。
 場所を変えたことが幸いし、森林アユは餌の初夏キュウリに面白いほど食らいついた。
 通常のアユよりも食いつく力が強く、危うく釣りをするクライヴまで持って行かれそうになった事が何度か。見た目の大きさと、彼のよく知るアユのイメージを一切捨て、海釣りで大物に挑むつもりでと切り替えた結果、それが功を奏した。クライヴは短時間で気持ちがいいほど次々に森林アユを釣り上げていく。普段であれば調子に乗って欲を出すところではあるが、レニーに八匹以上は釣ってはいけないと念押しされていた。最後の一匹を釣り上げると、彼の両手のひらがじんと痺れる。その痺れが引くと、疲れと、なんとも言えない物足りなさを覚える。が、約束は約束だ。バケツの中で窮屈そうに泳ぐ森林アユ達を見ながら釣りを終えたのだった。
 メルリアは昼間のことを思い出しながら、くすりと笑みを零す。彼女も指示されたとおり初夏キュウリの収穫に勤しんでいたが、時折聞こえるクライヴの声に何度か手が止まってしまった。釣り竿を引き上げた時の彼は、まるで子供のような無邪気な笑顔をしていた。釣り竿を容赦なく引っ張る森林アユとの攻防時は真剣そのものだったし、帰り際、釣果を話す彼はとても晴れやかに笑っていた。本当に釣りが好きなのだろう。非常に生き生きとした表情がそれを物語る。
 ふと、メルリアの記憶がその少し前を遡った。顔を上げ、シャムロックの瞳を見つめる。
 それに気づいた彼は赤い目をそっと細めると、たき火へ視線を向けた。
「座って話そうか」
 各々がたき火の前へ椅子を運び、腰掛けた。炎が闇夜に紛れるようなシャムロックの姿をはっきりと映し出す。メルリアはその姿に躊躇いがちな視線を送った。
「……クライヴさんの体調の話、シャムロックさんが詳しく知ってるって聞いたんですけれど」
「大方、見当はつく」
 メルリアが世話をした炎はどうにも弱々しく、背丈も低い。それを見かねたシャムロックは、薪をひとつ火の中に沈める。燃えさかる様子を見計らうと、もう一本新しいものを投入した。そのまま火の粉が無数に舞う様を目で追った。その小さな光が色を失うまで、ただ静かに。
「クライヴさん、もう大丈夫なんですか? ちゃんと原因が分かって……、苦しい思いをせずに済むんですか?」
 メルリアは膝に置いた両手をぎゅっと握ると、ゆっくりと問うた。高く透き通った声が、伏せられた青色の瞳が、不安に揺れる。
 クライヴとは異なり、彼女はシャムロックを疑っていない。ただ、心掛かりだった。彼は原因不明の症状に何年も悩まされている。喉が渇いて、苦しくて仕方がないという。メルリアの脳裏に浮かぶのは、昨晩発作が起きたクライヴの表情だ。悲痛に歪む顔、苦しげに呻く声。それにあれは――。唇を固く結び、シャムロックの言葉を待った。時々、唇の端が溢れ出る感情に合わせて動く。
「前提として、あれは病気ではないからな。俺は対処法を提示することができる。だから、もう心配いらない」
 シャムロックは子供をあやすように、落ち着いた調子で口にする。決して嘘は言わなかった。
「メルリアは優しい子だな」
「そんな――!」
 メルリアは瞬時に顔を上げる。それ以上の言葉は出てこなかった。反射的な行動により背筋が伸びたが、また弱々しく丸を描き、視線も膝の上へ向く。しばらくしてから、ゆっくりと顔を上げた。鼻の奥がつんと痛む感覚を覚えながら、誰に向けるでもなく笑顔を作る。
「だけど……、クライヴさんがもう大丈夫なら、よかったです」
 シャムロックは微笑すると、うなずいた。もう一度同じ言葉を伝えようか迷ったが、それはせずに口を閉ざす。目頭を人差し指で拭う動作を見ないように視線を逸らすと、森がざあざあと揺れた。その時、メルリアの背後――奥の木陰から人の気配を感じ取る。彼がそちらを注視すると、木々の合間からこちらの様子を窺う大きな人影が見えた。しっかりとした肩幅に、十二分な腕の筋肉かつ高身長。そんな者はこの村に一人しかいない。ザックだ。
 そろりそろりと忍び足で広場に向かうつもりだったザックは、シャムロックの存在に気づいてピタリと足を止める。やがて気づかれていると察した彼は、大きな舌打ちをして来た道を引き返していった。その影が完全に消えたと確認してから、再びメルリアの表情を窺う。ぼうっとたき火の炎を眺めている。頬は少し赤いが、落ち着きを取り戻した様子だった。
「メルリア。俺に聞きたいことがあるのではないか?」
 その言葉にメルリアは顔を上げると、ゆっくりと首を横に振った。
「はい。でも、私よりクライヴさんの方が先です」
 きっぱりと言い切ると、彼女は立ち上がった。たき火に背を向けて周囲を見回す。暗い森の闇には人の姿がなく、足音も聞こえない。そろそろこちらへ戻ってきてもいい時間のはずなのに……。不安そうにあちこちに目をやっていると、シャムロックはメルリアを椅子に座るよう促した。ツリーハウス右方からこちらへ向かってくる人の気配に気づいたからだ。奥から歩いてくる人影は二つ。どれも男の物であったが、それぞれには身長差がある。子供のように小さい影は立ち止まると、大きい方の影ににじり寄った。その動きに大きい方は足を止める。
「ですから――って、……ちゃんと聞いてますか?」
「聞いてるよ。だけど、俺もそろそろ戻らないといけないんだ。広場で人を待」
「いいえ。あなたはまもなく村を出るんでしょう! 今のうちにリタさんがどれだけ素晴らしいかをご清聴いただかなくては!」
 小さい方――ハルは、クライヴの胸ぐらを掴まんとする勢いで喋り続けていた。
 こちらの言葉をまるで聞く気がない一方的なそれに、クライヴは困ったように腕を組んだ。しかし、悦に入るハルがこちらの事情など配慮してくれるはずもない。気休め程度の打開策として、ハルが大げさな動作をするたびに一歩広場へと近づき、様子を見計らって距離を取る。会話の途切れ目になると、そう言えばとハルが開けた距離分縮めてくるのだ。彼らはそれをかれこれ十メートルくらい繰り返していた。明らかに森の風景は変わっているのだが、ハルはそれに一向に気づかない。
 なんだあの小競り合いは、と、森の暗闇を見つめながらシャムロックは訝しんだ。片方がクライヴであることは分かったが、もう片方のエルフは見覚えがない。少なくとも二年前にはいなかったエルフだ。ふむ、と顎に手を当てる。
「どうしました?」
「いや……。あの向こうの人影、クライヴと、もう一人誰かいるようだが」
「私、見てきますね」
 様子を見た方がいいかもしれないと続ける前に、メルリアは軽々と立ち上がる。たき火の周りをぐるりと迂回し、あっという間に二人の傍へと向かった。シャムロックはたき火にもう一本薪を投入した後、火の粉が散る様を一瞥し、広場から彼女たちの様子を窺った。
「で、す、か、ら! あの神聖な微笑みはまさしくミスルトーの太陽と喩えても大仰ではなく――」
 広場まで後もう少しだ、と背後のたき火の炎をちらりと見やる。クライヴは疲れを誤魔化しながら、適切な愛想笑いを浮かべる。
「お前、それをリタ本人に言ってやったらどうだ?」
 すると、聖書や神話の神を語るかのように堂々としていたハルの表情が一変した。風呂にのぼせた後のように顔を赤くし、首と手をそれぞれ違う方向に激しく振る。エビのように曲がりかけた背筋は、やがて助言通りにピンと真っ直ぐに伸びていく。
「そそそそそ、そんなっ、おそれそおいッ!?」
「『恐れ多い』な。取り敢えず落ち着け」
 朝の挨拶ができるようになってからというものの、ハルは一言ずつリタに話しかけられるようになった。一言い伝えただけで限界が訪れてしまうのは相変わらずだが、今まで見ていることしかできなかった彼にとっては非常に大きな一歩だ。しかし、問題が一つ。普段からリタを崇拝するハルが、実際に本人から声をかけられた結果、平常時の暴走はより凄みを増してしまった。その暴走を受け止められるのは現状クライヴしかおらず、結果的に収まりがつかなくなってしまったのである。
 レニーに釣り竿を返した帰り、クライヴは偶然ハルと居合わせた。ただの雑談のつもりで「調子はどうだ?」などと聞いてしまったが最後、彼のリタ愛に火をつけてしまったのである。彼は人生で初めて、迂闊に雑談を振ってしまったことを激しく後悔した。それから彼は堰を切ったように喋り続けている。
 さて、これからどうしようか――、彼が思案顔を浮かべると、軽やかな足音が近づいてきた。
「クライヴさん! よかった、心配してたんだよ」
 メルリアはクライヴの傍に駆け寄ると、にこりと微笑みかける。その途端、クライヴは言葉を詰まらせた。その顔が、隣にいるハルの影響を受けたように赤く染まっていく。今の二人はとても似たような表情をしていた。温度差はあれど、思い人について考えているという点では一致している。
 居心地の悪さを覆したのはハルだった。自分の心理的に安心できる空間を侵された――それに気づくと、のぼせたように緩んでいた表情をきつく締め上げる。
「こんばんは」
 メルリアはハルに声をかけたが、返事はなかった。視線だけ向けて必要最低限の表情をすると、即座に目を逸らす。他者に興味がないのだ。広場にもう一人他人がいると気づくやいなや、ますます表情から感情が消えていく。
「じゃ、ローウェルさん失礼します。また明日」
「あ、ああ……おやすみ」
 ハルは無表情だった。声に感情もこもっていない。足早に今まで来た道を戻っていく。
 本当に感情の起伏が激しい子だな、とクライヴは首をかしげつつ彼を見送る。やがて、彼は何しに来たんだろうかと眉間に皺が寄るが、多分リタの話をしに来ただけだったんだろうと己を納得させた。ハルとは知り合い程度の間柄になれたはずだが、やはり行動がよく読めない。
「シャムロックさんが広場にいるから声をかけに来たんだけど……。私、お邪魔だった?」
 同じように消えていく影を見送ったメルリアが、ぽつりとつぶやく。彼の名前に気が引き締まる思いを感じるが、目の前にいるのはメルリアだ。不安そうな表情を安心させようと、できるだけ笑顔を意識して言う。
「そんなことない、来てくれて助かったよ」
「そう……? それじゃあ行こっか――あれ?」
 戻ろうと振り返ったメルリアは、広場にある人影を見て首をかしげた。
 シャムロックは相変わらずたき火の番をしているようだが、その隣――メルリアがいた場所に誰かが座っている。その人物は、椅子の端を両手で支えて足をぶらぶらと前後に揺らしていた。二つの姿は、たき火を背にしているせいではっきりとは判らない。しかし、影の大きさと、影の縁から見えるクリーム色の髪色から、辛うじてそれがリタであろうと判断できた。
「……隣にリタさんみたいな人がいるみたい」
 その言葉に、クライヴも目をこらして様子を窺う。たき火の炎が風に煽られ大きくうねり、リタの笑顔がはっきりと映し出された。二人は顔を見合わせ、広場に戻ることにした。

 広場では、たき火の炎をじっくり見つめるシャムロックと、そんな彼をにこにこ笑顔で見るリタの姿があった。炎の様子を窺っていたシャムロックは、やがて隣に視線を向ける。頭のてっぺんからつま先までを見ると、優しく笑った。
「――それにしても、本当に大きくなったな」
「あれからちょっと背も伸びたからねえ。まあ、髪は切っちゃったけどさー」
 鎖骨まで伸びるミディアムヘアーを指先でいじりながら、リタは苦笑でもなく喜びでもない笑顔を浮かべる。地面につかない足先が、感情と同調するようにゆらゆら揺れていた。
 ただでさえ人懐っこいリタだが、シャムロックに対しては、アラキナやレニー、ザックなどとはまた違った意味で心を許している。どちらにしても、穏やかに笑い楽しそうに談笑する姿は、どこぞのエルフが見たら断末魔の叫びと共に卒倒する程度の眩しさであった。
「シャムロックさんは、後どれくらいミスルトーにいるの?」
「依頼も済んだから間もなくだろうな。俺もあまり屋敷を留守にはできない」
「そっかあ、残念」
 リタはその言葉にがっくりと肩を落とす。今回、ミスルトーにシャムロックが来てから、二人が話すのはこれが初めての機会だった。やっと話せたと思ったのになあ、とぼうっと広場の穴を見る。炎から生まれた煙が真っ直ぐに星空に向かって伸びていた。まるで白煙が夜空に吸い込まれているかのように。
 やがて、風に運ばれる足音が二つ。土を踏みしめる小さな音は徐々に大きく変わった。シャムロックが振り返ると、そこには遠慮がちにこちらへ近づくクライヴとメルリアの姿があった。
「おー、二人ともお揃いだねえ」
 こちらへ向かう二人へ、相変わらずのふやけた笑顔でのんびり手を振った。そうしてから、二人仲良く歩く様子ににまにまと意味ありげな笑みを浮かべる。
 クライヴは言葉の真意を受け取り、踏み出そうとした右足が止まった。
「クライヴさんを呼びに行ってたんだ」
「……そっかあ」
 リタは顔に張り付けたような笑顔を浮かべながら、その話にうんうんうなずいた。メルリアの表情からは信頼こそあれど愛だの恋だのそういった類いは一切感じ取れない。対して、クライヴの目は生温い。たかだか数日程度であの微妙な認識のずれが埋まるはずはないか――笑顔を貼り付けたままたき火と向き合った。炎の底には燃え尽きた黒が点々としている。かつて木材であったものは、今は変色し形を変え、元の姿は見る影もない。クライヴはこうはならないといいなあ、と目を細めた。
「そういえば、クライヴはシャムロックさんと話があるんだったよね? それじゃあ私はお邪魔かな」
 リタはゆっくりと立ち上がると、どうぞと座るよう促す。クライヴは少し迷ったが、それを受け入れることにした。すまないと頭を下げ、空いている椅子に腰掛ける。
「……悪いな、話してたのに」
「いいっていいって。じゃー、シャムロックさん。私、夜更かしするから話が終わったら教えてね」
 リタはいたずらっぽく笑うと、三人に背を向ける。階段を上ろうとした時、広場北方から草木をかき分ける乾いた音が響いた。森の暗闇に確かな濃い黒い影が一つ。影はその場で仁王立ちになると、広場の方をきっぱり指さした。
「リタァ! オメー帰るんじゃねぇ! 後十分足止めしてろッ!!」
 北から抜ける風が、怒声の迫力そのままに広場へと流れていく。
 怒声にリタは振り返るが、つんと唇をとがらせて「それ」からそっぽを向く。
「やだよー、私は私のやりたいようにしてるんだし」
「ァあ?! なんつった?!」
 その声は風に乗って南へ抜けていく。そもそも何メートルも先にいる相手に投げかけるような声量ではないため、風上にいるザックにその声がはっきりと届くことはなかった。かろうじてリタの声らしきものが聞こえただけで。
 エルフにしては大きい耳に手を当てるザックを見て、リタは大きくため息をついた。手を丸めると、拡声器のように口の脇へ押し当てる。
「ザックのくせに男らしくないぞー、普通に広場通って部屋に戻れー」
「はッ――!?」
 煽るでもなく貶すでも馬鹿にするでもなく、普段と変わらぬ様子でのどやかに言い切ると、今度こそリタはツリーハウスの階段を上っていく。
 ザックは一拍遅れて我に返ると、リタを追って暗闇から姿を現した。先ほどよりも髪が乱れているし、服も薄汚れている。肩には木の葉が数枚引っかかっており、ベルトの脇には蜘蛛の巣が一本垂れていた。足にまとわりつくそれを鬱陶しげに払いながら、リタの後を追って階段を上る。
 ドアノブに手をかけたリタは、突然振り返るとにやりと笑う。
「それともザック。私と一緒に挨拶してく?」
 リタは肩にぽんと手を置くと、広場にいるシャムロックの方へ視線を向ける。
 ザックは壊れかけた機械人形のように首や体をカクカク動かしながら、それを目で追った。広場にいるシャムロックは困ったような笑みを浮かべている。それを視認した途端、ザックの顔が真っ青に染まった。冷や汗が止まらず、鼓動が不規則に脈打つ。
「死んでも嫌だ!!」
 ツリーハウスの上から広場に向かって叫んだそれは、森中に染み込むように反響する。音の波が木々を揺らし、そこに留まっていた鳥が一斉に飛び立った。広場上空を優雅に散歩していたコウモリは軌道を変え、慌ててそこから距離を取る。枝枝が細い体を揺らし、森に葉音が広がった。さらにはその騒ぎに眠っていた子鹿までもが飛び起き、数歩後退した後再び太い木の傍に腰を下ろす。
 魔女の村は繊細である。粗暴な彼と違って。
「ザック、いい加減になさい! 今は何時だと思っているのです!?」
 二人の一軒右から、寝間着を身につけた中年のエルフが顔を出した。彼女は怒気を含んだ表情で一喝すると、こちらを睨み付ける。
「森が騒がしいと思ったら……やっぱりザックのせいか」
 西方から戻ってきたのはレニーだ。森の様子を観察するようにぐるりと周囲を見回してから、やれやれと肩を回す。彼は涼しい顔で広場を通り抜けると、ツリーハウスの傍らで立ち止まった。顔を上げ、ザックへ鋭い視線を向ける。言葉には出さないが、レニーはザックを責めていた。五月蠅い、と。
「心臓止まるかと思った……」
 広場の外れでは、木の幹を盾にして座り込むハルの姿があった。左胸に手を当て、バクバクと脈打つ心臓を落ち着けようと深呼吸を繰り返す。恐る恐るそちらの様子を窺い、もう一度大きく息を吐いた。
 そんな中、広場の中央に緑色の魔方陣が浮かび上がる。陣の左端から、杖の先端がぬくっと顔を出した。やがてそれは地面から生えるように転移してくる。
「楽しそうじゃのぉう! 酒か! 宴か!? 酒盛りするぞぃ!」
 目を丸く見開きニカッと笑うアラキナの登場だった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

◆登場人物一覧

┗並びは初登場順です。

┗こちらのアイコンは公式素材のみを使用しています。

メルリア・ベル


17歳。

お人好し。困っている人は放っておけない。

祖母との叶わなかった約束を果たすため、ヴィリディアンを旅することになる。

フィリス・コールズ


16歳。

曖昧な事が嫌いで無駄を嫌う。
シーバの街で、両親と共に「みさきの家」という飲食店を経営している。

クライヴ・ローウェル


22歳。

真面目。お人好しその2。

理由あって旅をしており、メルリアとよく会う。

ネフリティス


27歳(人間換算)

都市に工房を持つエルフの錬金術師。

多少ずぼらでサバサバしている。

イリス・ゾラ


21歳。

隣国ルーフスの魔術師。闇属性。

曲がったことが嫌い。

リタ・ランズ


16歳(人間換算)

魔女の村ミスルトーで暮らしているエルフ。
アラキナのストッパー兼村一番のしっかり者。

ウェンディ・アスター


不明(20代後半くらいに見える)

街道の外れの屋敷で働くメイド。

屋敷の中で一番力が強い。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み