純潔の証明

文字数 1,675文字

――宙を浮きながら移動する赤ん坊


それが僕、キリヒト

歩いて後をついて来るマリアは

僕の母ということになる

いや、あれだけの苦労をして

僕を産んでくれた訳だから


マリアは正真正銘、立派な僕の母だ

マリアは僕を抱っこしたがったが


やはり人に分からせるには

これ程単純明解なものはない

宙を浮く赤ん坊を見た瞬間に

それが超常現象であることは明白

本人の目の前で

こんなにも分かり易い

神の奇跡が起こっているというのに


それを否定することは

さすがに出来ないだろう

すいませーんっ!

――母屋に着くと

赤ん坊である僕は声を出して

叔母さん、叔母さんを呼び出した

誰だい、こんな時間に

――叔母さんが家の扉を開けると

そこには宙に浮いている赤ん坊が居る訳だ

!!

――何かの見間違いだろうと

目を擦ってみる、叔母さん

はじめまして、

マリアの息子のキリヒトです

先程無事この世界に

生まれ落ちましたので


ご挨拶に参りました

ヒィィィッ

――何が起こっているのか

分からない叔母さんは

僕を魔物か何かと思ったのか


短い悲鳴を上げると

その場で腰を抜かして座り込んだ

まぁ、それが普通の反応かもね
どうしたっ!

女房の悲鳴を聞きつけた叔父さんが

猟銃兼魔物からの護身用のライフルを手にして駆け寄る

やめてっ!!

そこでマリアが

二人の前に飛び出して叫ぶ

僕は念動力を使って

叔父さんが手に持つ

ライフルの銃身を捻じ曲げた

呆然とする叔父さん

この子があたしの子ですっ!

神の子、神の使いのっ!


――空を飛び喋る赤ちゃんである僕は


叔父さんと叔母さんに


マリアの言う事を聞かず、暴力まで振るったことに対して謝罪を要求する

……すまなかったね
……申し訳なかった

――宙に浮かんで喋る赤ん坊を見て

叔父さんも叔母さんも

目を白黒させていたが、


困惑しながらも一応の謝罪はした

僕的には

二人に土下座でもさせて

マリアに謝らせたかったが


本人がそれを望まなかった

分かってもらえれば、

それでいいんです……

マリアの横顔は何処か

悲し気でもあった


自らの能力をコンパネで確認してみると


ステータスはまだ赤ん坊であるため

ほとんど参考にはならなかったが


能力欄がとんでもないことになっていた

これはもう無茶苦茶だな、

チートの域すら超えている

すべてを見ることが出来ない程のリスト数

僕が総括して判断するに

ほぼ万能な超能力者のようなものだ

やはり神が慌てて用意した

憑代となった胎芽は


神の体を構成している一部によって

創られたものかもしれない

人間で言う所の細胞、

それで創られているのであれば


現在のこの赤ん坊の肉体は

神のクローンであるに等しい

そう考えればこの

デタラメ過ぎる超能力のような、

自らの能力にも納得がいく


さて、僕には

まだやらねばならないことがあった

叔父さん叔母さんには

マリアの身の潔白を証明した訳だが


街の人々の誤解はまだ解けていない

それは自らを神の使いとして

大々的に公表する行為ではあるが


自分の母を淫売と罵られて

黙っていられる子はいない

僕はマリアと共に街へと向かう

……
……
……

街行く人々は

空を飛ぶ赤ん坊に

ただ驚愕するばかり

目の前で奇跡が起こっていると

人は感動するよりも、まず怯える

叔母さん叔父さんが

先程そうであったように、


神よりもまず先に悪魔を思い描く

神を熱心に信仰しているというのに、

おかしな話だ

街の市場へと道がつながっている

広場に二人が着くと


僕はその場にあるすべての物を

念動力で宙に浮かせた

市場に並んでいる商品のみならず

出店ごと宙に舞い


人と建物以外がすべて空に浮く

と同時に僕は


その場にいる全ての人間の脳に直接呼び掛けた

僕は、マリアの息子キリヒト


神の子であり、神の使い

我が母、マリアを侮辱せし者に

今すぐの謝罪を求める

広場に居たマリアの前には

あっという間に人々が並び

行列が出来上がる

キリヒト、

あまり乱暴なことをしてはダメ

母マリアは我が子である僕を叱る
わかったよ

僕はそう言ってから


宙に浮かせた物を

寸分違わず元の位置に戻してみせた

まぁこれでもう

マリアを悪く言う奴もいなくなるだろう

この世に転生するにあたり

多大な迷惑を掛けた母マリア


せめて身の潔白を証明してみせ

名誉を回復してあげたい

お腹の中に居る時から

僕はずっとそう思っていた

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