マリアの懐胎

文字数 1,697文字

とある晩……

いつものように、私が馬小屋で

積み上げた藁をベッドにして寝ていると……

誰かの声が聞こえて来ました……
……マリア……

目を開けると

眩しいばかりの後光の中に

人の姿が……

逆光になっているため

その姿はハッキリ見えませんでしたが

私にはそれが

神の使いであるように思えました

マリア……

すまない……

……すまない……

その人はしきりにずっと

謝り続けているのです

本当にすまないのだけど、

君の体を、貸して欲しいんだ……

このままでは、

僕の、僕の魂は……

消えてしまう……

よくはわからないのだけど


神の使いが困って

私に助けを求めている……

そう思った私は

大きく首を縦に振り、頷きました

するとその人影と後光は一体となり

光の球体となって……

ひゃっ!!
私のお腹の中に入って来ました

唐突なことに驚いて

短い悲鳴を上げてしまいましたが

……そこで私は目を覚ましました

ガバッと上半身を起こすと

体全身にびっしょりと汗をかいています

……夢? だったのかしら?

私は何かとても

不思議な夢を見たような気分でした……


しかし、それは決して夢ではなく

それからしばらくすると

私の体調に変化が現れます……

突然気分が悪くなったり、

吐き気がしたりすることが

頻繁に起きるようになったのです

やっぱりあれは

夢じゃなかった……

もちろん、やましいことは一切ありませんでしたが

それでも私はこのことを

ひたすら必死に隠そうとしました

あの意地悪な叔母さんが知ったら

それこそ流産させられかねません

しかし……

そんな苦労も虚しく、

数か月後には、お腹はポッコリ膨らんでしまい……

私が妊婦であることは

誰の目から見ても一目瞭然でした……

私が懐妊していることを知った叔母さんは、烈火のごとく怒り、怒鳴り散らします

まったくっ、いったい、

なんてっ、ふしだらな娘なんだいっ!

普段は私をかばってくれる叔父さんも

さすがに怒り心頭です

馬鹿野郎っ!!

叔父さんの大きな手が

私の横っ面を張ると


小柄な私の体は吹っ飛びました

結婚もしてない女が

子供を身籠るだなんて、

お前は一体何を考えてるんだっ!!

頬がジンジンして痛みます


きっと、真っ赤にはれ上がっているのでしょう

違うんですっ!

違うんですっ!

あたしはそんな

淫らなことはしてませんっ!

やましいことは一切ありませんっ!
神の啓示があったんですっ!

この子は神の使い……


神の子なんですっ!

私は必死で弁明を試みましたが


まるで聞き入れてもらえません

まぁっ! 呆れたよっ!

あんたって子にはっ!!

神様のせいにしてまで

嘘を吐こうとするなんて、

いったいなんて娘だろうねっ!

この罰当たりもんがっ!

意地悪な叔母さんではなくとも


さすがに処女懐胎なんて

そうそう信じてもらえるものではないのかもしれません

違うんですっ!

この子は家族のいない私に

神様が授けてくださった


神の子なんですっ!

私が弁明すると、叔母さんはますますエキサイトしてしまいます

相手はどこの誰だいっ!?

ちゃんと責任を取ってもらおうじゃないかっ!


慰謝料をたんまりふんだくってやるっ!

名前をお言いっ!言うんだよっ!

髪の毛を掴まれて

床を引きずり回されます

それでも一向に

相手の名前を言おうとしない私に

叔母さんはもうブチギレです

相手は神様だって言っているのに……

意地悪な叔母さんはお腹を

何度も蹴り飛ばそうとして来ます

叔母さんには子供がいなかったので、

尚更、許せなかったのかもしれません

私は体を丸めて、

とにかく必死でお腹を守り続けました

このお腹の中の子だけは

流産させてはいけない


その一心で……

それからと言うもの


仕事の手伝いで街を歩いていても、

街の人々に影でコソコソと

悪口を言われ続ける日々でした……

あの娘、お腹の子の父親が

誰だか分からないらしいじゃないの

あんな可愛らしい顔してるのに、

父無(てでな)し子だなんて、とんだ淫売よね

それは私の耳にも

ハッキリと聞こえるぐらいに

大きな声の噂話でしたが


私は聞こえないフリをし続けました……

おいおい、お嬢ちゃん、

どうせなら俺らにも楽しませてくれよっ

下衆な男達に

そう言われることも数限りなく

それでも私は

ひたすら耐え続けました

だって、お腹の中の子は


家族のいない自分に

神様が授けてくれた


神様からの贈り物なのですから……

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