加速と減速
文字数 1,362文字
悪魔騎士は手にする剣で
再び勇者に襲い掛かる。
高速ラッシュで次々と
剣を繰り出す悪魔騎士だが、
時の勇者はこれを
さらに上回る動きで
避けかわして行く。
時間の経過を操る能力。
その効力が切れた瞬間、
時の勇者は捉えられ
悪魔騎士の大剣で
バッサリと叩き斬られる。
相当な深手を負った勇者は
傷口から大量の血を噴き出して
そのまま崩れ落ちた。
そしてそこで再び時が止めた。
いや止まるだけではなく、
時間が逆行をはじめている。
まるで今起こった出来事が
逆再生されているかの如く、
勇者は血を噴き出しながら立ち上がる。
悪魔騎士が振る大剣は
構えの姿勢に戻って行く。
もちろんこれは時の勇者の
時間を逆行させる能力である。
しかし、これが恐ろしいのは
この二者だけ時が逆行している訳ではなく、
この異世界全体の時間が逆行していること。
わずかな数十秒の時間ではあるが、
この間に命を落とした者は蘇り、
生まれた者は生まれる前に戻る、
それがこの世界全体で行われたことになる。
この能力の影響力は計り知れない。
再び時が正常な流れで動き出す。
悪魔騎士の大剣が
再び振り下ろされるが
時の勇者は今度は時を止めて
これを余裕を持ってかわす。
その後、何度も
似たようなことが繰り返されたが、
時の勇者には一向に
敵を倒す方法が見つからない。
時の勇者がそう決断し
能力を発動させた瞬間、
数日前の宿屋を出発する時間に
彼は戻っていた。
時間跳躍、タイムリープ。
それにもやはりこの異世界全土が巻き込まれた。
しかも数日レベルの適用期間で。
これ程の神のような能力を持ちながら
時の勇者は悪魔騎士を倒せず
時間的な撤退をしたのだった。