加速と減速

文字数 1,362文字

勇者よ、

よく我の攻撃をかわしたな

かわしたどころではなく


剣で攻撃もしたし

魔法攻撃も既に行っているんですが、それは

貴様! 傷つくではないか


泣くぞっ!?

全く気づかれないぐらい

全くダメージを与えられていない……


そう考えると悲しくて

泣きたくもなるというものだ

なんで、お主

剣が折れておるのだ?

すでに心折れかけているといのに

追い討ちを掛けて来るとは


さすが悪魔騎士


これは敵のメンタル攻撃なのか?

悪魔騎士は手にする剣で

再び勇者に襲い掛かる。

高速ラッシュで次々と

剣を繰り出す悪魔騎士だが、


時の勇者はこれを

さらに上回る動きで

避けかわして行く。

なんとすばしっこい奴っ!

何を言っているのだ、貴様は


自分は特別に

アジリティが高い訳ではない

むしろ平凡中の平凡

これも時を操る能力で


貴様の時間経過を遅くし


自分の時間経過を

早くしているだけだ……

貴様から見れば

超高速で動いているように見えるのだろうが


こちらから見れば

ただ単に貴様がゆっくりとスローで

動いているだけにしか見えない

だが、所詮これも

ただ逃げ回るだけの能力

アジリティに関しては

この能力である程度解決出来たとしても……

やはり問題となるのはその攻撃力……

時間の経過を操る能力。


その効力が切れた瞬間、


時の勇者は捉えられ

悪魔騎士の大剣で

バッサリと叩き斬られる。

グハッ!!

ま、真っ二つにこそされなかったが、

袈裟懸けに斬られた……

相当な深手を負った勇者は

傷口から大量の血を噴き出して

そのまま崩れ落ちた。

まだ辛うじて息はしているが、

絶命寸前の瀕死状態というやつだな……

そしてそこで再び時が止めた。

いや止まるだけではなく、

時間が逆行をはじめている。


まるで今起こった出来事が

逆再生されているかの如く、

勇者は血を噴き出しながら立ち上がる。

グハッ!!

悪魔騎士が振る大剣は

構えの姿勢に戻って行く。


もちろんこれは時の勇者の

時間を逆行させる能力である。


しかし、これが恐ろしいのは

この二者だけ時が逆行している訳ではなく、

この異世界全体の時間が逆行していること。


わずかな数十秒の時間ではあるが、

この間に命を落とした者は蘇り、

生まれた者は生まれる前に戻る、

それがこの世界全体で行われたことになる。


この能力の影響力は計り知れない。

危なかった……
まさに危うく死に掛けた……

再び時が正常な流れで動き出す。


悪魔騎士の大剣が

再び振り下ろされるが


時の勇者は今度は時を止めて

これを余裕を持ってかわす。

同じ能力の連続使用は無理だが


数分程度時間を置けば

再び使うことが出来るようになる

おのれっ!

我が神速の剣をかわすとはっ!

いや、かわしてなどいないっ!
確実に一度はバッサリ斬られている
お陰で死にかけた

それよりも悪魔騎士なのに

何故『神速の剣』なのか?


むしろそれが気になって仕方ないのだが……

その後、何度も

似たようなことが繰り返されたが、

時の勇者には一向に

敵を倒す方法が見つからない。

あれだけは

使いたくはないからな……

仕方がない、

数日前の出発地点に戻って、

違うルートで目的地を目指すとしよう……

時の勇者がそう決断し

能力を発動させた瞬間、


数日前の宿屋を出発する時間に

彼は戻っていた。



時間跳躍、タイムリープ。


それにもやはりこの異世界全土が巻き込まれた。

しかも数日レベルの適用期間で。


これ程の神のような能力を持ちながら


時の勇者は悪魔騎士を倒せず

時間的な撤退をしたのだった。

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