勇者ババ抜き

文字数 1,794文字

一人でアノ国の軍を

壊滅させた死刑囚の勇者。

……

何が気に入ったのかはわからないが、

勇者はそのままアノ国の城に居着いた。

しかも城内にではなく、

城の玄関口前に。

たまにお腹が空くと厨房を漁ったり、

極めて稀に風呂に入ったりもしていたようだが


基本的には屋外で寝ているので、

城に住むというのとはニュアンスが少し違っていた。

中身はほぼ野生児であるこの勇者に

人間の常識というのは通じないし、

何を考えているのかもよく分からない。

人間、何を考えているのか

分からない相手というのが一番怖い、

突然何をしでかすのか分からないのだから。

これは一体

どうすればよいのじゃ……

何が目的なのでしょうか……

国王をはじめとする国の要人達も

自国の軍事力をほぼ壊滅させられており、

今更どいてくださいとお願いすることも出来ず、

勇者の扱いに困り果てる。

対話を求め、話し掛ける人もいたが、

毎回ほぼワンパンで帰らぬ人となってしまう。


そんなある日、

勇者の姿が突然城から消える。

おぉっ、ようやく

何処かに行ってくれたか

これでようやく

安心して眠れますな

国王や要人達は大喜びして

城の体制を立て直そうとしたが、

数日するとまた勇者は戻って来てしまう。


……
戻って来てしまったのか……
そのようですな……

その時の国王と要人達の

がっかり感はこの上ない。

そんなことが何回かあると、

国王は勇者が何処で何をしているのか

気になって仕方がなくなる。

もしや、あれは

他国の謀略か何かではないのか?


きっと、何処かの国が我が国を

破滅させようとしているに違いない

そう思い始めると居ても立っても居られなくなり、

部下を呼びつけて、勇者の後をつけるように国王は命じた。

いいか、あやつが

どこで何をしているのか調べるこじゃ

はっ

国王の命を受けた部下は、

索敵能力に優れた魔道士を連れ、

勇者が何処に行っているのか尾行して調べる。

森林の陰に隠れてじっと見ていると
なっ!

勇者は、この世界で不死身と噂されているドラゴンと戦いはじめた。

ふっ、ははははははっ

勇者にとっては

ドラゴンでも魔獣でも、人間の軍隊でも関係なく、

戦えれば何でもいいということなのだろう。

その後も国王の部下は、勇者が出掛ける度に

気づかれないように後をつけて行ったが、

最終的に勇者は倒したドラゴンを焼いて喰っていた。

モグモグ


それからしばらくすると、

アノ国の軍事力が壊滅したことを

風の噂で聞いたイノ国は、

今が好機とばかりにアノ国への侵攻を開始。

敵の軍がいない

今が好機ぞっ!

アノ国に攻め寄せる敵軍は、

村を焼き、人々を襲い、傍若無人の限りを尽くし

アノ国内を進軍して来る。

……

しかしイノ国軍が進軍を続けている

と目の前に勇者が立っており


勇者はイノ国の強行軍、

その先頭に居た将軍を馬ごと殴り飛ばした。

そのままイノ国の侵攻軍は次々と勇者に倒され、

敗走を余儀なくされることになる。

退却だぁっ! 引けぇっ!

勇者は逃げるイノ国軍をやはり

まるで面白がっているかのように

敵の馬に乗って追い掛け、

今度もイノ国までついて行く。

ふっ、ははははははっ

そこでもイノ国軍を殲滅した勇者、

今度はイノ国の城に居座るのだった。

あれは一体

どうしたらいいのだ……

アノ国の国王達は

ようやく勇者がいなくなりホッとしたが


イノ国の侵攻で多大な被害も出ており、

何とも複雑な心境だ。

被害は甚大でしたな……
……

そして今度はイノ国の隣国である

ウノ国がイノ国に侵攻して、

勇者は同様の流れで

ウノ国に居座るようになる。

死刑囚の勇者、

その存在が異世界各国に知れ渡ると

今度はそれを戦略的に利用しようとする国も現れる。

国王様、あの者を使って


我が国と敵対する

オノ国の軍事力を弱らせましょう

エノ国の参謀は

国王にそう進言した。

よかろう、おもしろい

エノ国の兵士は

オノ国の兵士を装い、小規模な軍勢を率いて

ウノ国の城に居座る勇者を奇襲


彼を挑発して、オノ国に逃げて行く。

こっちだ、こっちだ

これを追い掛けオノ国に向かう勇者


それだけでオノ国の軍は

壊滅したも同然であった。

ふっ、ははははははっ

まるで戦略兵器のような

扱いを受ける勇者。

クッソ、エノ国の奴等め、

俺達を羽目やがった

オノ国の生き残り兵が

エノ国の謀略を見抜くと


今度は報復として

エノ国を装って勇者を誘導し


結局最初に仕掛けたエノ国の軍も

壊滅することになる

こっちだ、こっちだ

そんな風に各国の間で

壮絶なババ抜きが展開されて行く


もしくは厄病神、貧乏神の

なすり付け合いとでも言うべきか。

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