完全燃焼したアディショナルタイム
文字数 2,180文字
銃弾が全く当たらないのを見て
業を煮やす罪人狩の者達。
レイパー(性犯罪者)ロドリゲスの指示で
台車に山積みにされた
武器弾薬が運ばれて来た。
台車の中には、
対人兵器ではない集団戦闘用の武装や
破壊兵器も一つや二つではない。
敵の一人が手榴弾を取り出して、
ジョーに向けて投げようと大きく振りかぶる。
だがこの男、学生の頃に野球をやっていて
肩を脱臼するのが癖になっていた。
投げようとしたその瞬間、
普通のボールとは異なる重量、質量によって
肩に無理な負荷が掛かり、肩の脱臼を再発、
その結果として、その男は
手榴弾を自らの足元に叩きつけることになる。
周囲に居た仲間を巻き込んで爆発を起こすと、
さらにはそばに置いてあった
武器弾薬に引火し、誘爆、
大爆発までをも引き起こした。
これもプロットアーマーの因果操作なのか?
彼等は自ら因果をつくり出して、
それに応じた結果を招いてしまったに他ならない。
コーエンの妹ハンナを殺した
その爆発に巻き込まれて吹き飛ばされていた。
コーエンにとっては敵討ちの
またとない絶好のチャンスであったが、
もう既に瀕死の状態であるコーエンは
もはや立ち上がることすら出来そうにない。
復讐のチャンスに何も出来ない無念で
もがき苦しんでいるコーエン、
その元にジョーは辿り着いた。
しかし利き腕である
右腕を切り落とされているコーエン。
左手に銃を持ち
必死に構えようとするコーエンだったが、
左腕ももう十分には動いていない。
よろよろしながら
なんとか立ち上がろうとしている状況だ。
コーエンの全身には激痛が駆け巡っていたが、
復讐に対する執念が、アドレナリンとなって
痛みをはるかに凌駕していた。
ジョーは跪いて
コーエンの上半身を抱き起こし、
その左腕を支え、なんとか固定しようと試みる。
銃を持つコーエンの手は
ブルブル震えている。
いや、それどころか
上下左右にグラングラン揺れて
とても照準を定めるどころではない。
そんな状況でもジョーの言葉を信じて
痛みに耐えて銃の引き金を引くコーエン。
明らかに大きく常に動き続けている銃口。
しかしその軌道の中にも
わずかに一点だけ、一筋だけ、
敵につながる道筋が存在していた。
大きく揺れる手の動きの中で
その軌道にぴったりと合う確率は
奇跡にも等しかっただろう。
だがコーエンの腕を支えているジョーのLuckは
その道筋を引き当てた。
銃口から発射された弾丸は
その唯一の道筋を辿って
ボロボロの姿になったコーエン、
体中から大量の血が流れ出ており
その生命がもはや風前の灯火なのは明白。
先程コーエンの上半身を抱き起こしてから、
そのままずっとジョーは体を支え続けていた。
再び血を吐きながら笑うコーエン。
息を引き取るコーエンを
最後まで看取ったジョー。
これからもまたジョーは
一人で流浪の旅を続ける。
死ぬことを許されないジョーに出来ることは
この地獄のような世界で
無限にさまよい続けることだけ。