恩赦・特赦システム

文字数 1,647文字

助けてもらったのに、

変なことを言って本当にすまなかったな……

最近この辺りは罪人狩が多くてな


同じ世界の人間を警戒していたんだ……

許してくれ

ジョーの言葉にコーエンは

顔の前で手を振って応えた。

まぁ、いいってことさ……

こんな訳の分からない世界に居るんだからな


用心するに越したことはないだろうさ

それよりもだ


俺はまだ

こっちに来てから日が浅いんだが


よっかたらその罪人狩とやらのことを

教えてもらえないか?

あぁ、助けてもらった礼もあるしな

ジョーは頷くと

業が深い人間達による

罪人狩について語りはじめる。

こっちの世界には

いくつかミッションがあって


それをクリアするとポイントがたまる

それはあんたも知っているよな?
コーエンは頷いた。

ミッションは

村を襲うモンスターを退治するとか、

魔王軍の構成員を倒すとか


そんな内容なんだが

ミッションをクリアすると

ポイントが貰えて


そのポイントに応じて、

恩赦・特赦システムの対象となる

地道にポイントを溜めていって

いずれ上手くいけば


元の人間界に帰れるかもしれないってことだな

まぁ、刑務所に居て

模範生になると出所が早くなる


それと同じ仕組みみたいなもんか

だがミッションの難易度も

そこそこ高いものばかりだからな


いつも生き残れるとは限らない


むしろ死んじまう確率の方がはるかに高い……

そこで、

あっちの世界から来たロクでもない連中は

とんでもないことを考えたんだ

恩赦・特赦の対象となる

人間の方を殺しちまって


対象者の数を減らせばいいんじゃないかってな

こっちの強敵モンスターや

常に死線をさまよっている

魔王軍なんかと戦うよりは


戦い慣れてない、不慣れな

あっちの世界から来た人間を殺る方が


はるかに楽だからな

なるほどな、

それが罪人狩って訳か

そういうことだな……

お陰でこっちの世界に来ても

罪人同士が殺し合うっていう

馬鹿げたことをやっているって訳だ

名目上は罪を償うってことで、

こっちに流刑地送りされてるのにな

流刑地送り、

名目上の建前は人命の尊重とされいるが、


こちらの異世界は無法地帯にも等しく、

力が支配する世界であり、


力無き者の生存確率ははるかに低い。

死刑制度の完全撤廃と言いながらも、


罪人達からすれば、

ここに送られて来た時点でほぼ

処刑されているのに等しい。

そんな無法地帯で、無法者が

無法を働いたとしても何ら不思議ではない。

もしかしたら

この異世界を力で支配しようとする罪人が

いずれ現れるかもしれない。

なるほどな……

顎髭を触りながら、

頷いて話を聞いていたコーエン。

それであんたが

あんな質問をしたってことか……

まぁ事情は分かったが……
あんたは罪人狩はやらないのかい?

元々感情の起伏を

あまり表に出さないタイプらしいジョーは、

それでも一瞬、顔を曇らせた。

まぁ、俺もあんたと同じ感じだな……

こっちの世界に来てまで

人間を殺す気はないさ……

……もうあっちの世界で大勢

殺し過ぎちまったからな

じゃあ、俺も

助けた人間があんたみたいな奴で

ラッキーだったってことだな

そうじゃなきゃ


助けた相手に殺されてた

なんてことになってたかもしれないんだろ?

まぁ、そういうことになるかもな

で、俺は

ミッションに設定されている

村を襲う甲殻虫を退治しようとしていたんだが

あやうく死ぬとこだったのを

あんたに助けてもらったって訳さ

あんたのコンパネを見てみなよ、

ミッションクリアのポイントが

溜まっているはずだぜ

あの甲殻虫を倒したのはあんたなんだからな

ジョーに言われた通り、

コーエンが左腕のリングに触れ、

コントロールパネルを開いて確認すると、


確かにそれまでゼロであったポイントが増えている。

本当だな


しかし逆に、あんたのポイント横取りしちまったみたいで


なんだかすまないな

いや、気にしないでくれ……

別に俺はポイント欲しさにやってる訳じゃない

まぁ、贖罪みたいなもんさ……

俺はあっちの世界に戻る気はないんだ……

戻れる筈がないんだ……

あっちの世界であまりにも大勢の人間を

殺し過ぎちまったからな……

――俺の人生はとっくに壊れちまってる

あのときからな……


心も、感情も、

はるか昔に壊れちまってる

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