最期の七日目
文字数 1,596文字
七日間地上を彷徨い続けたポップは
ずっとそう思い続けて来た。
あの交尾の甘美な時間だけが
ポップにとっては
地上で唯一のいい思い出だ。
貧民街に戻って来たポップ。
道に倒れている彼の周囲には
人間達が集まって来る。
もちろん優しさなどではない、
セミ男が死ぬのを待っているのだ。
そうした臓器売買目当ての
ハイエナのような者達が、
ポップが死ぬのを
今か今かと待ち侘びていた。
多数のセミ男達が
絶命して行く姿を見て来ている地上の人間は
セミ男が地上では
七日間の命しかないことを知っている。
むしろ知らないのは
当の本人であるポップだけ。
そして、地上の人間達は
セミ男の死骸のことを
『セミの抜け殻』と呼んでいた。
そう言って現れた白髪の老人、
彼は自らを管理局の者だと名乗った。
集まっていた人間達は、
舌打ちをしながら散って行く。
倒れているポップに話し掛ける老人
だが起こそうとする訳でもない
ポップがもう立てないことを
老人は知っているのだ。
ポップが苦痛に転げて
うつ伏せになった瞬間
その背中から魂が大きな羽根を広げて
空に飛び上がる。
それはまるで
幼虫の背中が割れて
中からセミが飛び出すかのように。
ポップの魂は、羽根をはばたかせて
天高くへと昇って行く。
これがセミ男の亡骸が
『セミの抜け殻』と呼ばれる由縁でもある。
老人は飛び立つ
ポップの魂を見送った。
天空ではこの世界の天使達が
麦藁帽と虫取り網を持って待ち構えている。
天使は死神同様に
魂の管理者でもあり
魂が彷徨うことのないように
正しく導かなくてはならない。
天使達は、セミ男の魂を網で捕まえることを
やはり『セミ捕り』と呼んでいた。
天使に捕まったセミ男の魂は
前世の記憶を一切消されて
この世界の人間が造り出した
新たな人口ミュータントの肉体を与えられ
再び地下の施設に戻されるこになる。
自らが願った通り
ポップの魂は再び地下施設へと帰ることになるのだ、
前世の記憶はないが。
セミは地中で七年の時を過ごし、
地上に出て来て七日間で
絶命すると言う。
人間達はそれを可哀想だと言うが
果たして本当にそうなのであろうか
それはあくまで
人間の価値基準で判断したもので
地中にいるセミからすれば
その方が幸せなのかもしれない。