【朗報】勇者さん、やり方を変える
文字数 2,332文字
至る所に。
魔族や魔物、魔獣、
それだけにとどまらず、
この異世界に存在する
ほぼすべての種族が屍と化して、
今まさに滅びようとしている。
ただ一つ、
人間という種族だけを除いて。
そこかしこに横たわる屍、
すでにその肉が腐っている物も多数。
損傷激しく腐乱している肉塊、
その醜悪なる様と、あまりの腐臭に、
生き残った人間達は恐れおののいた。
最初の内は、
死体に無数の蝿がたかっていたが、
その屍に触れてしばらくすると
その蝿すらも絶命してしまう。
今はその無数の蝿も
すべて地に落ち果てて、
大地の土へと還るのを待つばかり。
空を飛ぶ鳥は地に墜ち、
ドラゴンでさえも
それの前には膝を付き
倒れるしかなかった。
異世界に居る勇者天我からの呼び掛けが、
転生の間に居るアリエーネの元へと届く。
失踪した前任者の女神が
過去の勇者と仲違いしたため、
その勇者に消されたという真実を
アリエーネが知る由もない。
異世界ハーレムはむしろ
異世界転生のお約束なのだが、
新米女神のアリエーネは
やはりまだよく分かっていないのか。
ちょっと潔癖過ぎるのだろうか。
しばらくは言われた通りに大人しく
じっとしていたアリエーネだったが、
その後、勇者から何の音沙汰もないので
とうとう痺れを切らす。
いつものように
転生の間から、あの異世界につながる
ゲートを開こうとしたアリエーネ。
だが、その前に突如
巨大なバッテンが顕現して
その行く手を阻止する。
喧嘩を売られたのではないかと
少し疑っていたアリエーネだったが、
さすがにここまで来ると
心配のあまり動揺が隠せない。
ようやく勇者天我から来た連絡に
アリエーネの目からは一筋の涙が。
――女神の涙。
そんな気持ちが、
天我に伝わるはずはなかった。
それが分かるのであれば、
今まで大虐殺を繰り返しては来ないだろう。
今ババァ呼ばわりされていたのに
自分で乙女とか言っちゃうのはどうだろう。
体面上、優しい女神を取繕うアリエーネ、
だがさりげなく
おねえさんアピールが入ってしまっている。
無から有をつくり出す『クリエイト能力』、
本来は武器などをつくり出すのに使われるのだが
そこは常人の発想ではない勇者天我
そして、これが
掟破りだということすら分かっていない。
ここではそういうものなのだろうとすら思っている。
知らないということは
最強でもあり、
最凶でもあるのか。