義賊のペドロ

文字数 1,418文字

広場前の廃墟と化した教会、

その屋根の上に身を潜め

火炙りになる寸前の友を見つめている男。

俺の名はペドロ

シーフであり、

自ら義賊を名乗っている

いわゆる戦災孤児で

幼い頃から両親はおらず


生きる為に仕方なく

盗む事を生業(なりわい)として来た……

だが、貧しい人々からは盗まず


貴族や金持ちからのみ盗む


盗んだ金は生活に困窮している人達に分け与える

それが俺の流儀であり


自分なりに出来る

正しい事をしていると信じている


だから自ら義賊を名乗った

この広場で柱に縛られ

火炙りになるのを待つばかりの友


サンタナとは幼い頃からの盗人仲間で

兄弟も同然に育った

いわゆる義兄弟と言う奴だ

そのサンタナは数年前に

盗人稼業から足を洗うと言い出した……

すまない、ペドロ……


女に子供(ガキ)が出来たんだ

盗人稼業からは足を洗おうと思っている


生まれて来る子供の為にも……

親が盗人じゃあ

あまりにも不憫だからな

俺ら戦災孤児にとっちゃあ

家族を持つなんて夢みたいなことだ

お前にだけでも

どうしても分かってもらいたかったんだ

もちろん俺も

それを止めるような

そんな野暮な真似はしなかった

兄弟が堅気になるのを、

家族持ちになることを、


誰よりも喜び祝福してやった

その後、サンタナは

その女と夫婦になって


二人の子供をもうけて


今も幸せな生活を

送っている筈だったんだ……

魔王軍が勇者狩りなどをはじめなければな……
待ってくれっ!

俺は勇者なんかじゃあないっ!

あなたっ!

あなたぁっ!!

お父さんっ!!
ばぁ
グヘヘヘヘへ

連れて行けっ!

もしあいつが、あの時

『自分は元盗人だ』と言っていたならば


もしかしたら魔族達に

見逃してもらえたのかもしれない


盗人が勇者になる訳がねえからな……

だがあいつは言わなかった


いや言えなかったんだ


子供達の目の前で

自分が元盗人だとは言えなかったんだ

俺には分かるぜ

あいつの気持ちが……


なんてたって、義兄弟だからな


クソッ、本物の勇者は

一体何をしてやがんだっ

俺は魔王軍による

勇者狩りがはじまってから

ずっと思っていた……

本物の勇者は一体何処で

何をしているのか

まさか真の勇者たる者が怖気づいて


自分の代わりに

犠牲になっている人々を見殺しにして


逃げ回っている訳ではないだろう


いや、そうではないと思いたい

俺にとっては真の勇者は憧れでもあり


出来れば自分も

勇者になってみたかったと


そう思い続けていた……

自分が義賊なんぞと言っているのも

正しき勇者に憧憬があったからこそ


自分なりに信じる正義の道を

求めた結果でもある

だから、

何かしら出て来られない事情がある、

そうは思うが


この状況では、恨み言の一つも言いたくもなるというものだ

こうしている内にも

日は暮れはじめ


日が沈み切るまでに

残された時間はわずかしかない……

いやぁ、君、

何とかして友を助けたい、

そう考えているようだね

声に反応して後ろを振り返ると、

そこには男が立っていた

一体いつからそこに居たのか

全くその気配に気づかなかった


背筋にゾクゾクする気配を感じる

あ、悪魔……

その男は頭に角を生やしていた

いやだなぁ、

堕天使と呼んでくれよ

今の魔王軍と一緒にされるのは

僕も心外なんだよね

優男(やさおとこ)風のいわゆるイケメンで

滲み出る色香を漂わせ

いかにも人を(たぶら)かしそうな悪魔


その喋り方は飄々(ひょうひょう)としており

掴みどころがない

じゃぁ僕が、とって置きの

君の友達を助ける方法を教えてあげるよ

特別に

悪魔はニヤニヤ

薄ら笑いを浮かべながら


こちらを薄目で見つめる

君がね、

勇者になればいいんだよっ、君がねっ

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