街に聞こえて来る歌声
文字数 1,141文字
渋谷センター街に行くと、
歩道には大勢の人間達の姿が。
一瞬驚いた勇者だったが、
すぐにそれがホログラムで
映し出されたものだと分かる。
まるで賑やかで華やかだった頃の
この街の記憶を
街が思い出して
懐かしんでいるかのようだ
大通りに戻ると、
先程までは一台もなかった筈なのに
車道を埋め尽くす程多数の車が
猛スピードで飛ばしている
そしてその運転席に人はおらず
無人で自動車だけが走り
通りを行き来している
その横の歩道まで歩いて行くと
まるで車は俺を見つけたかのように
こちらに向かって突っ込んで来た
俺はこれをかわしたが
車は一台だけではなく
後続も次々と迫って来る
地面に手を着き
転びそうになりながらも
走って細い路地へと何とか逃れた
何者かが車を操って
俺を殺そうとしているということだろうか？
俺からすれば
全く身に覚えのないことだが
近寄って欲しくない、来るなという
意思の表れなのかもしれない……
俺は息を切らせながら
裏路地に身を隠した
ここであれば車両は
入って来られない筈
しかし今度は、遠くから
真っ白な人のように見える何かが
俺を目指して向かって来る
はじめは一体だけであったのが
途中でわらわらと合流して
あっという間に数十体、
百体以上となって大群で
段々と近づいて来て、
それが何に似ているかハッキリ分かる
全身が真っ白で人型に近く、
大きなクリクリした目が付いており
愛嬌のある顔をしたロボット
俺が知る限りでは
ペッパーくんやＡＳＩＭＯなどに酷似している
一体だけならそれはそれで
可愛いのかもしれないが
そんな愛嬌のあるロボットが
百体以上向かって来たら
それは逃げるというものだ
クリクリ目のロボット軍団は
人の言葉を喋りながら
俺の後を追い掛けて来る
まさか、ペッパーくんに
追い回される日が来るとは思ってもみなかった
俺が物陰に身を隠すと
クリクリ目のロボット達は諦めて
散り散りに去って行った
そこから街全体を眺めてみると
他にも工業用、作業用ロボットが
壊れたネオンを修理している様子が窺える……
どうやら現在煌々と光る
ネオンや大型ビジョンは
こうしたロボットが修理して復旧させているようだ
その時、街を流れる音楽が止み
問題の歌声が聞こえて来る……
生声美声をイメージして
想像していたのだが
その声は少し音声加工が
施されているようだ……
これでは、人間が歌っているのかどうかも分からない……
人間世界の何処かで
聞いたことがあるような声……
そう思っていた俺は
しばらくしてやっと
それがなんだったか思い出す……
