おっさんドラゴンと別れの時

文字数 1,234文字

あかんわ、

これも違うわ、トモノリ

そうですか
これもめちゃくちゃレアな剣なんやけどな

おっさんドラゴンを倒す

『竜殺しの剣』を手に入れる筈なのに、


毎回LUCKが発動してしまい

さらにレアなアイテムばかりが手に入るトモノリ。


『竜殺しの剣』も

そこそこレアであると言うのに。

なんや、トモノリとは

すっかり仲良うなってもうたなぁ……


すっかり情がうつってもうたわ

この先もトモノリが

生き残っていけるように


異世界のことについて

いろいろ教えてやったし……

そろそろやろか……

やがて勇者トモノリも、

勇者の名に恥じない程に

すっかり強くなって行く。

とうとう本物の『竜殺しの剣』を手に入れたんやな、トモノリ

ほな、そろそろはじめよか?

ワイは、

トモノリに倒されるために


ここでずっとこうして

待っていたんやからな

しかし下を向いて

じっと動かないトモノリ。

どうしたんや、トモノリ?


なんや? 泣いとるんか?

トモノリの頬からは

涙が伝い落ちている。

で、出来ません……

自分にはドラゴンさんを

殺してしまうなんて、出来ません

ここまで自分が強くなれたのは、


ここまで自分が生き残って来られたのは、

すべてドラゴンさんのお陰です

そんなドラゴンさんを

この手で殺すなんて、


自分にはそんなことは出来ません

勇者トモノリの肩は震えている。

ええんやで、トモノリ

ワシはお前に倒されるために、

ずっとここでお前を待っとったんや


それがワシの仕事なんや

勇者に殺されるためだけに

この世界にやって来て


殺されたら去って行く


それがワイの役目や

で、でも……

ワシも次の現場に

行かなならんからな


一思いにはようやってくれや


見事な断末魔で叫んでみせるで

おっさんドラゴンは嘘をついて

次の仕事を急いでいることにする。

トモノリ、

お前はいい勇者になるで


他人の痛みが分かる優しい勇者に

……

せやな、

せめてワシのことを思うなら


痛くないように綺麗な一太刀で

スパっと決めてくれよ

あれ、下手クソがやると

何度もやり直さんとあかんから

痛くてかなわんのやで

……

頼んだでトモノリ、

はよう、楽にしてくれや

トモノリは涙を拭き、

剣をしっかり握り締める。

……はい

せめて最後のおっさんドラゴンの

頼みだけは聞き届けなければならない。

やあっ!!

全くブレることない見事な太刀筋で

おっさんドラゴンを

一刀両断にするトモノリ。

ええ、一太刀や、トモノリ
グゥゥゥォォォオオオッ!!

断末魔と共に崩れ落ちる

おっさんドラゴンの巨体。

……ド、ドラゴンさんっ!!

おっさんドラゴンの屍は粒子となって、

最後にドロップアイテムを残して

消え去って行く。

……ヒック……ヒック……

LUCKが高いトモノリへの

おっさんドラゴンからのプレゼントは

どれも貴重なアイテムばかりであったが


トモノリには涙で良く見えなかった。


グゥゥゥォォォオオオッ!!
今日もおっさんドラゴンは

どこかの異世界で断末魔をあげている。

次の現場行かな……

おっさんドラゴンは

死んで転生を繰り返している。


少しでも家族が

楽に暮せるように。


そしていつかまた

元の世界で家族と

一緒に暮せることを夢見て。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色