死にたがりの自殺志願者

文字数 1,563文字

転生するにあたって、

君が彼女を守り切れるように、

僕が特殊能力も授けてあげよう

少年漫画とかで、よく能力バトルみたいなのがあるだろう?


あんな感じの特殊能力だよ

とは言え、僕はしがない

転生エージェントに過ぎないからね


死に関する特殊能力に

なってしまうわけだけど……

今の話に相応しい能力だと思うよ

サクラを守るための特別な能力


そんなものをくれると言うのであれば、

贅沢は言っていられない

その名も『魂の道連れ』だ

君が死ぬ時、その際に

彼女を攻撃しようと考えている人間


そのすべての魂を根こそぎ、道連れにして、死ぬことが出来る

つまり、君は死ぬが

彼女は確実に助かるというわけさ

ただし発動条件に自殺は入らない


少なくとも君は、誰かに殺されないと、

この能力は発動出来ない

自殺を含むと、いろいろと乱用されて、

こちらも管理しきれなくなってしまうからね

確かに妙な発動条件が付いているあたり

少年漫画の能力バトルモノみたいだ

今まで君は勝ち続けて

今回はじめて負けて死んだのだろうが


これからはそうは行かなくなる

きっと負け続けることになるだろうね

君達の仲間の戦力は圧倒的に足りていないからね


戦いを続けていられるのがおかしいくらいに

そこで、絶対絶命の場面では


君が死ぬことだけが、

唯一彼女を救う方法になるというわけさ

この先、君はひたすら負けて死に続ける


それでも彼女は間違いなく助かる

俺に迷うことはなかった……

とにかく彼女を、

サクラを救いたい


ただそれだけが俺の願いだった……


最初の転生で、何か別の方法で

サクラを救うことは出来ないのか、

俺は八方手を尽くしたが


どうもその運命は変えられそうにもなかった

俺はこの転生で、

転生した自分が、

転生する前の自分に出会うという

不思議な経験をすることにもなった

最初は違和感があったが、

それもすぐに慣れた

この転生は、

生まれるところからはじまるので


前の自分も、今の自分も、

生きて来た年数は、ほぼ一緒なのだ


どちらが本当の自分かなんて、

もはや俺自身にもわからなくなっていた

当然、転生については、

ゼウスから固く口止めされていたし

前の自分がサクラを庇って死ぬ瞬間、

今の自分もサクラを庇って、

銃撃を浴びて一緒に死ぬ

それで特殊能力『魂の道連れ』は発動する

俺は薄れ行く意識の中で


敵の大軍勢が理由もなく、

次から次へとバタバタ倒れて行く

面白い光景を目にしていた

俺はその後も、

ただサクラを守るためだけに

何度も転生を繰り返した

その中で俺は気づく

自分が真っ先に敵陣に突っ込んで、

真っ先に死ねば


他に仲間の被害は出ないで済むのだということに

それからの俺は、

無闇やたらに、無謀に敵に

突っ込んで行くようになる

敵もすぐに

殺してくれればいいものを

なんだかんだと理由をつけて


殺さずに捕まえて、

人質にしようとしたり


嬲り殺しにしようとしたり

するものだがら

俺も敵に対して

無用に過激な挑発をせざる得なかった

真っ先に殺されるためには、

相当な工夫と努力が必要なのだ

そんな俺はいつからか


仲間からも狂戦士、

もしくは死にたがりの自殺志願者と


そう呼ばれることが多くなった

だが、それも一時的なこと


何故なら……

俺が、何度も何度も

転生を繰り返すうちに


いつのまにか

サクラの周りにいる人間のほんとんどが


俺が転生したことがある人間になってしまっていたからだ

つまり、サクラの周りに居る人間が

すべて俺ということは


無駄に敵を挑発して、

無謀に突っ込んで行き、

我先に死のうとする


全員がそんな人間になってしまったのだ

サクラはずっと

ひとつの魂に守られ続けている……

しかしサクラは、自分の仲間が

次々と死んで行くのを嘆いていた

やたらに敵を挑発して、

真っ先に突っ込んで死んで行く


変な自殺志願者みたいなのばかりが仲間になって、嫌になるわ

どうしてこうもあたしの周りには

死にたがりの頭おかしい奴等しか集まって来ないのかしら

もう、何のかしらまったく……
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