新聞記者の人狼

文字数 1,391文字

俺の名前は、ウルフェンバック

この街で暮らし

王都新聞の記者をしている人狼

ここ王都ヘルシティには、

数百万を越える魔族達が平穏に暮らしている

人間達との戦いに勝利した魔王軍が国を造り

その首都とした文明的な都市……

それがヘルシティだ
俺の毎朝は、行きつけの喫茶店でコーヒーを飲みながら


競合他社の新聞をチェックすることからはじまる

いれたてのコーヒーの香りが、

人並み以上に敏感な俺の鼻腔を刺激する


この瞬間が最高だな

やはりどこの新聞も

切り裂きジャックの話題一色か……

今、平和なこの街に

不穏な空気が流れている

何かよからぬ巨悪が

この街の平和を乱そうとしている

これは人狼としての嗅覚と

新聞記者としての勘が

俺にそう告げているのだ

王都民達を不安と恐怖に陥れている

連続猟奇殺害事件

通称、切り裂きジャック事件……
おそらくこれはまだ

ほんのはじまりに過ぎない

連続猟奇殺害事件の被害者は

すでに三十六名にも上る

被害者達には、

性別や種族による偏りは見られない

年齢もバラバラで


十代の若者から、

それこそ何百年も生きているような魔族の爺さん婆さんまで


平等にやられている

まぁ、つまり見境なくってことだ
唯一共通するのは王都民ということ、

ただそれだけだ

遺体はいずれも

見るも無残に切り裂かれており


猟奇的な変質者の仕業という線が濃厚だとされている

だが、俺はそこも疑問に思っている
マスコミで言われているように


切り裂きジャックが

猟奇的な快楽殺人犯だったとしてだ

不謹慎な言い方ではあるが、

ジャックが殺し放題な今の現状で


逆になぜ無差別なのかが気になるんだよな


ターゲットが選び放題なのに

十代の若者を殺す

百歳超えの年寄りを殺す


どちらを殺しても

味わえる快楽は同じものなのか?

どうせなら若い方がいいとか、

年寄りの方が興奮するだとか、


そういう性癖まではいかないまでも

傾向みたいなものはあっても良さそうだと思うんだがな

つまり、何が言いたいのかと言うと
何の偏りも無さ過ぎるのが

逆に怪しいと俺は思っている訳だ

まだ俺達が気づいていないだけで


被害者には何かもっと別の

隠れた共通点があるんじゃあないのか?

もしくは

もっと何か他の大事なことを隠す、

カムフラージュする為に、

ワザとそうしているとかな……

もう何もねえよ……
全部、話しちまったからなぁ……
俺は事件の手掛かりを求めて、

被害者をよく知る者達に

聞き込みを続けていた……

まぁ、なんでもいいんだよ

被害者が普段言ってたこととか

……そういや、あの爺さん

自分は昔Lv.が高かったんだって

よく言ってたなぁ

Lv.?
そりゃまた、随分と古い話だな……
あぁ、それ

俺も聞いたことがあるぜ

今のこの世界じゃあ、

Lv.による評価制度なんて

とうに廃れちまってる

戦後すぐに廃止されたような代物だからな
今じゃ、そんなもの

ワザワザ自分で調べようなんて酔狂な奴もほとんどいねえ

こんな平和な世の中で

Lv.なんか判別出来る奴なんざ

居る訳もねえしな……

……まだ聞きたいことがあるのかい?
もう何度もあんたには話したろう
ちょっと、気になることが出て来てな

被害者の友達は……

Lv.の話なんて、してなかったか?

……そういえば、

そんなこと言ってたかも……

まだLv.制度があれば


世間の俺に対する評価はもっと高かった筈だ、とかなんとか


なんか愚痴ってたわね

こりゃあ、一体どういうことだ?
この事件には

Lv.なんてもんが関係あんのか?

今のこの時代に

Lv.なんて気にしてる奴がいるのか?

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