地上の洗礼

文字数 1,155文字

天井に蓋がされていない

それが地上に出た僕が

最初に感じたこと

天井がある生活に

すっかり慣れていた僕は

感覚がまだ馴染めなかったけど

ゴーグル越しでも

空が果てしなく広く

雲が自由であることは理解出来た

抑え込まれていたモノから

解放されたような気分もあるけど


ソワソワして落ち着かない

どこか不安定な気もしてならない


地上の出口付近には


僕がはじめて見る

『女』だと思われる人間が


数人立っていて声を掛けて来る

セミの兄さん、

はじめての地上はどうだい?

よかったらあたしと

いいことしないかい?

地上にはじめて出て来る

セミ男達が持っている

所持金目当ての街娼なのだが、


はじめて女を見たセミ男達は

大概いきなりここで引っかかる。

女達からすれば

セミ男達はいい鴨でしかなく、

ここで出待ち営業をしているのも

いつものことであった。

地下でずっと暮らして来て、

外の世界を知らないセミ男達は

あまりにも世間知らずなのだ。

ポップもまた例外ではなく、

はじめて見る人間の女に

興味津々で興奮を隠せない。

男と似ているけど


一回り小型で細いし


男と比べて丸味があって

柔らかい印象を受ける……

数人いる女達、

その中の一人に


僕は一目で心を奪われてしまって

なんだか目が離せない

はじめて見た女に興味はあるし、

興奮もしているけど

照れてもいるし、

緊張もしている……


なんだろう、このいろんな感情

心臓が高鳴って、パニックで

頭が真っ白になりそうだ

そうこうしていると

女の方からポップに近づいて来る。

どうやら、兄さんは

あたしのことが

気に入ってくれたみたいだね

いきなり手を握って連れて行こうとする女。

えっ、えっ……

はじめて見た『女』に

いきなり触れられたけど、

僕はどうしたらいいんだろう… 

男の手と違って、

肌がスベスベしていて柔らかい……

い、いや、でも……

七年間地中に居たセミが、

何の為に地上に出て来るのか

兄さん知らないのかい?

交尾する為じゃあないか

女の言う事は合ってはいるのだが、

いくらセミ男と呼ばれているからとはいえ、

昆虫のセミと一緒にされても困ると言うもの。

しかし女に全くの免疫力も耐性もないポップが

女の魅力と魔性に抗える筈もなく、


そのまま近所にある連れ込み宿に

連れ込まれてしまう。

街娼の女も

セミ男がこれから辿る境遇を知っており、

憐れみも感じてもいるので、

することはちゃんとする。

えっ、えぇっ……

そこでポップは天にも昇るような

甘美な一時を過ごす。

夢のような一時を体験し、

そのまま全裸で眠りに落ちていたポップが

目を覚ましてみると……

あ、あれ?

お金がなくなってる!?

既に女はおらず、

有り金がすべて盗まれていた。

女としてははじめからそのつもりであり、

見事にポップはまんまとはめられた。

そ、そんなぁ、

どうしよう……

いきなり地上の洗礼を受けたポップは、


これから先無一文で

地上での七日間を過ごさなくてはならなくなった。

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