デモと暴動
文字数 1,562文字
そう書かれたプラカードを掲げ、
ヘルシティ内を行進して歩く群衆。
彼等を扇動しているのは、
帽子を目深に被った
尖った形状の耳をしている男。
連日の爆破テロ事件により、
溜まりに溜まった民衆の不満は
徐々に表面化して行きつつある。
――もう何度この音を聞いただろう?
爆発音が鳴り響く度に、
誰しもがそう思った。
ヘルシティに住む者達にとって
恐怖、そして悲しみと痛みの音。
爆発音と共に、
崩落をはじめる建物。
学校にもなっているこの施設には
まだ年端もいかない
幼い子供達が沢山居るというのに。
現場で、そう大声で叫んでいるのは
誰あろう勇者本人。
自らの姿は透明化で隠しつつ、
大声で叫ぶのみ。
これまでに勇者が仕組んだ爆破テロ、
その冤罪で捕まった魔族の者達は
十数人を下らないだろう。
そして、冤罪の濡れ衣を着せられた全員は等しく
目の前で凄惨な光景を見せつけられ
感情的になった傍観者達によって
その場で
いくら文明があるとは言っても、
そこはやはり異世界の魔族達であり
現状十分な法整備などが
なされている筈もなかった。
終戦記念日に
セントラルパークで起きた爆破テロ。
あの日以来、ヘルシティでは
連日爆破テロが発生している。
住民達は、不安に怯え、不満を募らせ
ストレスに晒されながら、
暮らさなくてはならない日々。
そんな彼等をあざ笑うかのように、
より一層ヒステリックになりそうな
子供や女性といった力弱き者達をわざと狙って
爆破テロを起こす勇者。
終戦記念日に爆破テロを行ったのも
魔族達の感情を逆撫でする為に他ならなかった。
連日のように行われる
デモンストレーション。
それは、連続爆破テロの早期解決を
現政権に求めているだけの筈であった。
魔王直属の親衛隊であった。
このデモ隊の参加者達が謀反を企てていると
嘘の密告をしたのだ。
それで群衆をいいように操作して行く。
デモ隊と近衛兵団は
小競り合いを繰り返し、
各地で暴動が起こるようになり、
暴力は瞬く間に伝播して行った。
その結果として、
まったく関係がないところで
暴徒が略奪と破壊を繰り広げ、
軍が出動する事態にまで発展した。
そんな彼等の様子を
勇者はあざ笑う。
今はこの陰鬱な空気を醸成させ、
魔族達を疑心暗鬼にさせる、
それが目的の一つでもあった。
本来はデモ隊であった者達が、
軍と小競り合いを起こして、
その結果、今では単なる暴徒と化している。
いくら文明社会で暮らしていると言っても
魔族はやはり魔族であり、
その闘争本能までは抑えきれないのか。