神々の戯れ

文字数 1,479文字

あんた、

まだ終わってないじゃないの!

どうすんのよっ!?

……大丈夫、です

夕子はいつものように

小さい声でボソボソと喋る。

……今晩泊まって、

徹夜でやりますんで……

その言葉に呆れ顔の陽子。
あっ、そっ

デスクの上に置かれている

自分のバックを手に取り

陽子は帰ろうとする。

じゃぁ、せいぜい

徹夜でもして頑張んなさいよっ

そのまま帰るのかと思われた陽子だったが、

手に何かの瓶を持ち再び戻って来た。

あっ、そうだ、

これあげるわっ

そう言って陽子が差し出したのは

瓶入りの眠気防止ドリンク。


陽子の意外な行動に

戸惑う夕子。

……あ、ありがとう

素直にお礼を言われて

ちょっと恥ずかしくなった陽子は

ツンデレのテンプレセリフを吐き捨てた。

か、勘違いしないでよねっ!

あたしが買ったのが

消費期限切れになりそうだから、

あんたにあげるだけなんだからねっ!

……う、うん

だがこの陽子が渡した眠気防止ドリンクが、

後でヨーコの首を絞めることになる。


あの異世界には

眠っている時にしか行けない……。

……頑張り、ます

陽子は早々に退社。


その後、他に誰も居なくなったオフィスで

夕子は一人明日の会議の資料作成に励むのだった。

今日もなんで

こんなに早く寝ようとしているのかしらねぇ、あたしは……

今日の一日を終え、

再び睡眠の時を迎える陽子。

z z z

陽子が、深い眠りに落ちると


彼女の魂は彼女の肉体を離れ

枕元に出現した異世界に繋がるゲートへと吸い込まれて行く。

魂が異世界へと転移する際に、


ゲートの中で粒子のような物が

その魂を包み込み、肉体の構築を行い、


彼女には別の肉体が与えられる。

 z z z

そして、陽子はヨーコとなって

ゲートの出口から異世界に現出するのだった。

これこそが、

勇者不足の現状を打破する為に


神々である我々が考え出した

第一弾の戯れ!


い、いや、

第一弾の試み!

これまでは死に直面した人間のみを


異世界に勇者として

転移、転生させて来たのだが


さすがにそれだけでは

もう勇者不足は補えない状況まで来た……

という訳で我々神々は


人間が寝ている時間を

異世界で有効に活用してもらうことを思い付いたのだ

陽子くん、そして夕子くんの二人は


まさにその実験台に……


い、いや、貴重な先駆者となってっもらったのだ

その仕組み上、当然ではあるが

彼女達は眠っている時にしか

この異世界に来ることが出来ない

そしてどちらかの世界に居る時は、

もう一方の世界の記憶は

全く残っていない

なので人間世界に居る時に

異世界の記憶が無いのはもちろん


異世界に居る時もまた

人間世界での記憶は全く無い

この試みもまた

神々の戯れと言えば

それまでではあるのだが。

タイミングが悪いことに

今日はいつにもまして

魔王軍の侵攻がすざましい


通常の何倍もの軍勢が

反乱軍を追い詰めている

もしヨーコくんが

異世界で死を迎えた場合


魂が消滅しなかったとしても


元の世界との繋がりが断ち切られ、

彼女の魂は本来の肉体に

帰る事が出来なくなる

そして、ユーコくんとヨーコくんの

二人が一緒に揃わないと

勇者が出現することはない……

……
……
……
……

反乱軍の圧倒的劣勢、

仲間は次々と死んで行き

今まで以上の地獄絵図。


ヨーコはやはり今日も

泣きながら銃を撃ち続ける。

ユーコォーーーッ!!

早く来てぇーーーっ!

なんでっ、なんでいつも

早く来てくれないのよっ!

ヨーコはユーコが

ここに来てくれることを

信じ続けている。

もういやぁっ!!

しかし今日に限っては

ユーコがこの世界に現れるかは分からない。

きゃあぁぁぁぁぁっ!!

何故なら日向夕子は会社のオフィスに泊まり込み、

徹夜で資料作成に励んでいるからだ。


陽子にもらった眠気防止ドリンクを飲みながら。

……今日は、徹夜、頑張る
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