【悲報】勇者さん、異世界を原始時代だと思っていた
文字数 1,949文字
――す、滑った、滑ったわ
……調子に乗っていきなり出鼻から
滑り散らかしてしまったわ……
よく考えると男子高校生なんかと
これまで接したことなかったわ
こう見えてもあたし女神なんですけど
見た目もちょっとぐらいは自信あるんですけど
高校生からすれば
年上の女性はみんな
おばさんに見えるでしょうし
……こういう反抗的な態度も
元気な男子高校生らしいわよね
そういうことにしておいて、いいわよね
お願いだから、
そういうことにしておいて……
じゃないとあたし
ちょっと泣いちゃうかも
――すごーい
この子、超将来有望な
アスリートだったんじゃない
オリンピックの
金メダル候補だったなんて
それで高校生なのに
こんながっしりした体格なのね
日焼けして真っ黒だし
脇目もふらずとにかく練習一筋
趣味すら持たずに
競技人生に打ち込んでいたのねえ
超一流のアスリートは
メンタルが豆腐だと
最高の結果を残すことが出来ないらしいし
それでこの超強気な性格なのね
鋼のような強靭なメンタルが期待出来るかも
どうでもいいからさぁ、
早くしてくんないかなあ? おばさん
――お、おばさん……
もうやめて
あなたのメンタルは鋼鉄かもしれないけど
あたしのメンタルは豆腐なのよ……
天我くんにはこれから、
異世界に転生してもらうことになるんだけど……
ふざけんなよ、クソババァ
なんで俺が
そんな原始時代なんかに
転生しなきゃならないんだよ
そこは我慢して……
一番大事なところを聞いてみようか?
アニメとか漫画とかゲームが好きなオタクが、スゲエ好きなやつだろ?
竜はいるんだけど、
恐竜とはちょっと違うかなぁ……
恐竜よりもっとスゴイ竜がいるのよ
『竜』に『恐い』ってついて
『恐竜』なんだから
恐竜の方がスゲエに決まってんだろ?
そんなの
これは人間界のみなさんの
ネーミングセンスに問題ありですよぁ
ちょっと一理あなるって思って
納得しちゃったじゃないですか、やだぁ
まずは異世界についてから
説明をはじめるしかないアリエーネ。
なんで現代人の俺が
そんな原始時代みたいなとこに
転生しなくちゃならないんだよ
よく考えてから喋れよ、クソババァ
一応異世界について説明したので、
原始時代そのものではないと理解したようだが、
認識としては原始時代に類似する世界のままらしい。
前世だって悪いことなんかしてねえし
人間以外に転生する理由もねえだろ
SSSRランクとは、なだめすかしてでも、
例え、どんな手段を使ってでも、
必ず転生者を目的の異世界に転生させること、
その重要度を表すランク。
つまり、今回の転生は
最重要ランクに他ならない。
その為なら、本人のどんな要望でも
ある程度は認められるという、
まさにVIP待遇のような扱いなのだ。
――しかも行き先も
極悪クラスの世界だし
一体何なのよ、この子は……
天我の転移先に指定されているのは、
今にも滅びそうな
もはや手の施しようがない異世界。
これまでにも勇者が何人も送り込まれたが
すべて返り討ちに合っている。
――この子の身体能力とか
潜在能力に期待して
あの極悪な異世界を何とかする、
そういう計画なのかしら
オリンピック候補生なぐらいだし……
超強気な頑固者で
メンタルも強靭そうだし
それも分からなくはないんだけど
アリエーネがどれだけ説得しても
天我は一向に首を縦に振ろうとはしない。
覚悟を決めたアリエーネは、
霊波通信で上司に連絡を取り
奥の手を使用する承認をもらった。
あなたが異世界で
勇者としての任務を果たしてくれたら
その後にあなたを元の人間世界に戻してあげるわ
あなたの元の肉体も
ちゃんと天界で保管しておいてくれるそうよ
任務を果たしたら、元の世界でまた
オリンピックを目指せばいいんじゃない?
――あぁ、神よ
どうかお許しください
こんな悪魔の囁きみたいな契約を
持ち掛けてしまった私を
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