ユートピア

文字数 1,634文字

ここは地上の低所得者層エリア


いわゆる貧民街やスラム街と

呼ばれているような場所。

ここに生きる人間達は、

日々の生活の糧を得る為には

どんな事でもやる。

他人を騙し金品を奪う、

その為に人の命が奪われる事も

それ程珍しくない。


盗み、恐喝、傷害などなどが横行する、

そんな犯罪多発地域でもあった。

あぁ、どうしよう

これから……

まんまと街娼の女に

有り金を巻き上げられたポップ。


お腹を空かせて歩いていても、

次から次へと柄の悪い連中に絡まれ殴られる。

バキッ!!

おい、お前セミ男だろっ?

金持ってんじゃねえのかっ?

ストリートギャングのような男達は

出会い頭にまず一発ポップを殴ってから、

そう質問した。

セミちゃんさあ、

俺ら金に困ってんのよ

俺らあ、こうやって

セミ捕りすんのが趣味なのよ

ポップが着けているゴーグルは

まさに自分が地下から出て来たセミ男だと

宣伝して歩いているようなものであり、


こうした所持金目当ての者達に

標的にされ狙われ続ける。

ちっ、文無しかっ

あのクソ女どもに

もう金巻き上げらた後かよ、

このどスケベがっ!

しかし、お前等も

地下で七年間も強制労働させられて


せっかく地上に出て来たのに

このざまとか、ホント笑えるぜ

セミ男は、間抜けばっかりで

マジウケるわ

男達はそう悪態を吐きながら

ポップを何発か殴って

憂さを晴らした後、

何処かに去って行った。

……

道に倒れているポップ、

当然誰かが助けてくれる訳はない。

口から出ている血を拭って

立ち上がるポップ。

な、なんで……

なんで自分はこんな理不尽な目に

あっているんだろう……


その理由すらも分からない

地上はユートピア、

理想郷なんじゃあなかったの?

それともユートピアって言葉は、

こういう場所っていう意味だったのかな?

僕はユートピアの意味を

間違って理解してた?

ポップは、自分の知識が間違ってインプットされているのではないかとさえ疑う。

怒りというよりは

むしろ悔しくて、悲しい

僕らは、

地上の生活を支えていることを誇りに思って、地下で働き続けて来たのに


その地上はこんな世界だったなんて……

失意と絶望。

それでもひたすら

地上を彷徨い歩くポップ。

ぐぅぅぅぅぅぅ

お腹が空いて鳴ってるけど、

食べ物を買うお金もない……

通りに面したお店の店頭には

美味しそうな食べ物が並んでいるけど


僕は涎を垂らしながら見ているしかない

なんだいっ、セミ男かいっ?

あんた達にやる

食べ物なんてないんだよっ、

とっととどっかにお行きっ!

営業妨害なんだよっ、まったく


これじゃあセミ男じゃなくて

ハエ男じゃあないかっ

店の女スタッフは

そう言ってポップを追い払った。

しばらくして、それでも

お腹が空いて仕方ないので


ポップは路地裏に出されている

ゴミ箱を漁り、残飯を食べる。

残飯とは言っても

まだまだ食べられそうな物が

大量に捨てられている……

……
味もそこそこ美味しい

ポップはいつの間にか

貧民街を抜けて

高所得者層エリアに来ていたのだ。

ここには物が沢山溢れいて、

同時に贅沢に捨てられて行くんだ

飢えていたポップは

残飯をガッツくように食べ続けた。

ドカッ!!

すると店の厨房の

シェフが出て来て、

ポップの横っ腹を蹴とばす。

あぅっ

このセミ野郎っ!

また残飯を漁りやがってっ!

ゴミを散らかすんじゃないよっ!

もちろんポップは

そんなことをするのははじめてなのだが、


他のセミ男達もこうして

ここで残飯を漁っていたのだろう。

……

何度も殴られ蹴られ、

意識が朦朧としているポップは、

そのまま表の通りへと投げ捨てられた。

高所得者層に住む人間達の

ポップに対する視線は冷たい。

まぁ、やあね、

またセミ男ですって

ホント、こちらには来られないように

何か対策でもして欲しいですわね

結局、何処へ行っても

セミ男に対する

地上の人間達の偏見や差別は変わらなかった。

僕らが一生懸命地下で働いて

地上の生活を支えていたというのに


これが地上の人間達の答えなのか……

地上の人間達は

地下で暮らすセミ男達を蔑んで、

まるで非人間のような扱いをする。

確かに彼らセミ男達は

人によって造られた

特殊な人間ではあったのだが。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色