【悲報】勇者さん、災厄扱いされてしまう
文字数 2,098文字
最凶最悪のウィルス兵器。
殺傷力の高い猛毒性がありながら、
空気感染ですぐに広まり、生命力も強い。
人間世界に存在するウィルスでは
まず考えられない極悪な性質。
このウィルスによって、
天我が居る異世界では
もう人間以外の種族は残っていなかった。
あの魔王ですら
既に亡き者となっているのだ。
だが、ウィルスは
それほど甘いものではなかった……。
勇者天我の前で、
突然人が一人倒れた。
まるでそれが合図であったかのごとく
その人間を中心に
円を描いて行くかのように、
次々と人間達が倒れて行く。
何故なら『クリエイト能力』で
自らの体からウィルスをつくり出した
張本人であるのだから。
ついには町中の人間達が倒れ、息絶え、
隣町や周辺地域へと広がって行く。
それはあっという間のことで、
天我の『クリエイト能力』で
ワクチンを開発し、
供給する時間さえ与えてはくれない。
ウィルスはすぐに国中の人間に感染し、
さらに隣国へと広がり、
やがて世界中へと広がって行く。
そう、最初は
人間には絶対感染しないはずだった。
人間以外の生命をすべて滅ぼし、
自らの寄生先が無くなった為に、
自らの命をつないで行く為に
人間にも感染するウィルスへと
進化を遂げたのだった……。
転生の間に居る
アリエーネに呼び掛ける天我。
負けず嫌いで超強気な天我であったが、
この時だけは、自らが望んだのだ、
この異世界をリセットするようにと。
それから、体を完全に浄化された後、
異世界のリセットが完了するまで
一時的に転生の間に戻された天我。
それまで天我のやり方に
許容的だったアリエーネも
さすがに今回の件で、
ちょっと考え直したのかもしれない。
確かに、これだけ急成長して
能力を覚醒させている天我であれば、
むしろその方が早いのかもしれない。
天我を思えばこその
アリエーネの助言。
だが、そんな言葉を
素直に受入れる天我ではない。
天我は、異世界の慣例に迎合することなしに
あくまで元居た人間世界の
現代人、文明人として、信念を貫き通すつもりでいる。
『転移強奪』を使っていた過去の勇者が
神々がつくったシステムに抗う
破壊者であったように。
もしかしたら
『転移強奪』の能力が自らの意思で
破壊者である彼を選んだのかもしれない。
天我もまた
既存の枠組みやルール、方法論、やり方、
常識すらまでも打ち壊そうとしている
破壊者に他ならない。
彼が真のエンディングを迎えるのは、
いつの日になるのか……。