最強候補のコンプレックス

文字数 1,398文字

転生をして勇者になったはいいが


中々上手くはいかないもんだな……

時の勇者。


彼はおそらく、

最強クラスのチート能力の持ち主であったが、

残念なことに本人はまだ、

そのことをよくわかっていない。


本人の生来の

自分に自信が持てない性格故か、

それとも時に関する能力以外が

全般的に大したことがないからなのか。


おそらくはその両方なのであろうが、

彼は自分が出来ることの凄さを

著しく過小評価していた。

勇者として考えた場合


攻撃力、防御力、耐久力、

アジリティ、スタミナ等々


どれも平凡なステータス過ぎる……

本来は時魔道士あたりが、

一番ぴったりと来るような能力なんだがな……

確かに、昨今の異世界における勇者不足で

無理矢理に勇者にさせられた感も否めない。


それでもそれ等を

補って余りある能力であり、

決して本人が卑下する程のものではない。

とりあえず今は

西の秘境『天ジーク』を目指している 

そこにある有難いアイテムを獲得しないと、この先の現状を打破出来ない……


今はそんな状況であり

どうしても行かない訳にはいかない

まぁ、自分のチート能力は

戦闘向きではないから、

こうした冒険の方がむしろいいだろう

彼もまた人間世界から転生して来た者であり、

転生の際に女神から

時を操るチート能力を授かった。

時を操る能力と聞いた時は


これで漫画やアニメのように

時を止めて一方的に無双出来ると

興奮して喜んだんだのだが


そうそう上手くはいかないものだ……

不運なことに、時の勇者は

その道程で魔王軍の幹部、悪魔騎士に狙われる。

……

森林に身を潜めていた悪魔騎士が、

突然襲い掛かって来た。

覚悟っ!!
――動きが予測出来た

攻撃が当たるその直前に

勇者の能力の一つである『未来予測』が発動し、

彼は辛うじてこれを避けかわした。

未来予測なんて、

とんでもなく便利に思えるが


常時自由に使える訳ではなく


こうした危機が迫った時にのみ発動する……

せめて襲われる前に未来予測してくれよ……

時の勇者は、

そのまま時を止めた。


これも彼の能力の一つであり、

数秒の間だけ時を止められる。

だが、問題はいつもここからで


強い勇者であれば、

ここで格好良く止まった敵を

切り倒すなりするのだろうが


如何せん自分には中ボス以上の敵を

単体で倒せる程の攻撃力がない……

バキッ!!

案の定、悪魔騎士を

剣で切ろうとしても

敵の鎧が硬すぎて剣が折れた……

バンッ!!

攻撃魔法を使ってもみるが、

レベル差もあって全く通じていない……


自分に攻撃力がないのであれば


パーティーを組んで

自分が時を止めている間


攻撃力がある仲間に

敵を倒して貰えばよいではないか?


もちろんそう考えたこともある……

それで一度実際に

パーティーを組んではみたのだが


いざ戦闘になり時を止めてみたら


敵だけではなくパーティーの全員も

時が止まって動かなくなった……

時を止めている間

動けるのは自分だけであり


他の者の力を頼ることは出来ない


結局は自分一人で

何とかするしかないのだ

そうなると自分は

パーティーに貢献出来ることが

ほとんどない


せめて敵だけの時を止めるか


味方は時止めの対象外に

出来るようになれば


話は違って来るのだが……

今のところは、せいぜい

敵の弓矢が当たる直前に時を止めて

弓矢を取り除く


そんな程度のことしか出来ない

勇者であるにも関わらず

それぐらいのことしか出来ない


そのことに不甲斐なさを感じて


現在はずっと単独行動をしている……

そうネガっている内に

あっという間に制限時間が過ぎ、

時は再び動き出す。

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