ゾンビ(屍人)の Luck

文字数 2,235文字

こっちの世界に来てから、

ステータスを見てはじめて分かったんだがな

どうやら俺は Luck が

異常なまでに高いらしい

それこそチートレベルにな
……ちょっと待ってくれ

それだとあんた、もしかして

死なないんじゃあないのか?

……そうなのかもしれない

その後、自暴自棄になって

何度も死のうとしたんだがな……

結局、死ぬことは出来なかった

この世界に来てからも

強力なモンスターの群れに

単身で突っ込んだりもしたんだ……

そんなことを嫌になるくらいに繰り返して、

いつからか、死ぬことももう諦めた……

コーエンはそこでふと気づく。
いや、ちょっと待ってくれ

俺達が一番最初に出会った時

あんたはモンスターに襲われていて


俺が助けに現れなければ

死んでいたんじゃないか?

……あぁ、あそこで

あんたが現れて助けてくれたのも


おそらく

俺のLuckの影響力を受けてのことだ

普段は地を這っていて

腹部など絶対に見せない攻殻虫が

上体を起こして弱点の腹部をさらけ出す

そんなラッキーなことが

そうそうあると思うか?

ただ、はっきりと断言は出来ないんだ


俺は全く何もしていないからな

何かをしたという意識すらない

何か能力を発動させたとか

スキルを使ったという訳でもない

何が原因で、どういう過程で、

時と場合によっては結果すらも分からない

ただ純然とそこに残った事実は

また俺が死ななかったということだけ

コーエンは難しい顔をして考え込む。

ちょっと待ってくれ


死ぬことを望んでいるあんたが

なんで罪人狩から身を守る為に


俺と一緒に行動して

ここまで旅をして来たんだ?

もしかして、俺のためか?

初心者の俺が一人で

あの辺を移動するのは危険だから


ここまで一緒に来てくれたのか?


……まぁ、

そういう気持ちもなくはなかった

それにいくら俺が

死にたがりだからと言っても


罪人狩のような畜生連中に殺されるのは

ちょっと御免だからな

まぁ、そんな贅沢を

言っている場合でもないんだがな

再び考え込むコーエン。

まさか、あんたが

当時世間を騒がせた

あの『アンタッチャブル・ジョー』だったとはな

あの事件は相当な話題になってたんだぜ
……そうらしいな

当時はムショの中に居たから

俺にはよく分からないんだが

しかし、なんだか妙な話だな……

そもそも事の発端は

運悪く銀行に行ったことなのに


それで家族だって失くしているんだ

運がいいのか悪いのか

どっちなんだかよく分からねえな

……それについては

俺も考えたことがある

これもあくまで推測でしかないんだがな


俺のLuckは、

死なないということのみに

全振りされているんじゃないかと思う

味覚や快感がなくて

喜びや楽しいという感情を失くして


それはラッキーだと言えるのか?

今の俺は幸運だとか、幸福だとか、言えるのか?

むしろ死なない能力が強くなるにつれ

それ以外のすべてが俺から奪われて

無になって行くような気がしている

心は、魂は、もう既に死んでいるのに、

体は、肉体は、決して死ぬことはない

まさしくゾンビ(屍人)みたいだな……

……お互いの事情も分かったことだし
一応あんたの耳にも入れておこう

コンパネの通知によれば


今日新たにこの世界に

転移して来た男がいるらしい

あんたが探している男かどうかは分からないが


クラスはレイパー(性犯罪者)だな

本当かっ!?

……あぁ、

ここから数キロと離れていない

ゴブリンの洞窟が初期出現位置のようだ

そうなのか?

レイパー(性犯罪者)の性質からして


初期配置はサキュバスの寝床かなんかだと思ってたぜ

……まぁ、それだと罰要素が薄いからな

むしろ喜んでしまう可能性すらある

ゴブリンは繁殖の為に

女だけを犯すと思われがちだが


ここのゴブリンは男だろうと女だろうと

分け隔てなく平等に犯すぞ


まぁ、穴ならなんでもいいんだろうな

そりゃ随分と怖ろしいな、違った意味で
……行くも行かないもあんた次第だが

あぁ、行くさ


残りの人生すべてを掛けて

復讐を果たしてやると誓ったんだからな


とりあえず何かはじめねえとな

……レイパー(性犯罪者)の

初期装備は特殊なスタンガン、

素養が高い者は最初から電撃系能力が使える


まぁそんなところだ

それと、罪人狩が

既に目を付けている可能性がある

レイパー(性犯罪者)なら

そこまで強い奴はそうそう居ないんでな

楽に殺せるから罪人狩に狙われやすいんだ

気をつけてくれ……

なぁ、あんた

もしよかったら俺と一緒について来てくれねえか?

厚かましいんだけどよ

あんたが一緒に居てくれたら心強いぜ

……悪いが、俺は遠慮させてもらう

あんたとはここで分かれた方がいいだろう

……さっきも言ったが


俺の死なない能力は

俺が死にさえしなければ

後は全くお構いなしだからな

俺が危険な場所に赴いて、

死なない能力が発動してしまったら


あんたが死ぬ確率が高くなるかもしれない

別に俺は、ハンナの仇さえとれれば

死んだって構わないんだぜ?

……あんたが仇に会う前に

死なせちまう可能性もあるからな

そうなったらあんただって

やり切れないだろ?

それにこっちの世界では、出来れば人間を殺したくないって気持ちは

嘘じゃないんでな

そうか、残念だが

じゃぁ、仕方ねえ

それじゃあ、世話になったな


短い間だったが、あんたとの旅は楽しかったぜ

……すまないが、言ったように

俺には楽しいって感情はないんでな


まぁ、でも

悪い旅ではなかったような気はしている

妹さんの仇がとれることを願っているよ

俺もGood Luck!と言いたいところだが


まぁ、あんたには

Luckの心配は要らないかな

……あぁ、 

Luckに呪われているみたいなもんだからな

二人は握手を交わすと

別々に、それぞれの道を歩みはじめる。

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