勝手に増え続ける戦力
文字数 1,234文字
誰かがそう言って、
地面に叩き付けられて
飛び散った肉片を指差した。
周囲の者達はそう言って
指差す方に目線をやったが、
みな一斉に顔が青ざめた。
血にまみれた肉片がピクピクと
跳ねるようにして動いている。
走っている男が、
足に何かを引っ掛けて、躓き転ぶ。
男が目をやると
横に転がっている血まみれの
自分の足を掴んでいた。
偶然足に絡まったのであろうと、
何度もふりほどこうとする男だったが、
屍の手はふりほどけない。
やがてその屍は
体を小刻みにゆらしはじめ、
呻き声をあげながら、
ついに上半身まで起こす。
脳髄をぶちまけ、目玉が飛び出し、
内臓をまき散らし、
体中の至る所の骨が、
本来曲がる筈のない方向にひん曲がっている。
男は必死に逃げようとするが、
屍は呻きながらそのまま立ち上がり、
男に襲い掛かった。
至るところで同様の光景が広がって行く。
下半身が無くなった屍は、
手を使って地面を這いずり回る。
千切れた腕だけ、足だけ、
原型を留めていない
肉片までもが動きはじめ、
王都民達に襲い掛かる。
ソンビやアンデッドを
比較的見慣れている
魔族ですらも動揺を隠せない。
通常であればもちろん
勇者が使うような能力ではないが、
転生管理センターに保管されているすべての能力を
自らにインストールしたこの勇者に限っては、
使用出来ない能力はほぼない。
Lv.制限が解放されれば、
いずれすべての能力が使えるようになるだろう。
地上で逃げる魔族の男は、
行く手を遮る屍を
次々と叩きのめす。
だが、血まみれの屍どもは、
倒れても倒れても立ち上がる。
何度でも立ち上がる。
気味の悪い呻き声をあげながら。
倒れても倒れても立ち上がる屍に
徐々に後ずさりをはじめる男。
だが、後ろにも横にも屍がおり、
周りをすべて囲まれる。
ついには、屍の群れに捕まり、
がんじがらめにされ、首をへし折られた。
そして、絶命した男もまた
屍となって動き出す。
確かにこの方法であれば、
勇者の手駒は勝手に増え続ける。
そして、勇者の理屈で言うなら
王都の死者が半数を超えれば、
もうそれは、勇者の戦力の方が多いということになる。