【悲報】勇者さん、魔王をおっさんと呼んでしまう

文字数 1,478文字

だいたいの事情を理解したアリエーネ。

だがその千里眼は

まだ全てが終わっていないことを告げていた。

天我くん、魔王が、

まだ生き残っているみたいなんだけど……

あぁ、あれか、

この世界のラスボスみたいな奴か

――あぁ、

ラスボスは通じるんだぁ

そうだな、

せっかくだから俺も一度

魔王とやらを見てみたかったしな

――随分、ノリが軽いわね
ババァ、魔王のとこまで案内してくれよ
――ちょっと

なんか女神使いが荒くない?

それはいいけど……


私は戦闘には参加出来ないわよ


異世界において

神の直接介入は禁止されているの

ババァの力なんか

最初から頼りにしてねーし

――すごい自身満々だけど

大丈夫かしら?

この世界の魔王は強いはずなんだけど……


これまでも何人もの勇者が倒されて来てるし……

道中では凍死している

魔族や魔獣、魔物の姿で溢れていた。

……
パリン

試しに天我が、凍った魔物を蹴飛ばすと、

見事にパリンと砕け散る。

パリン
パリン

――なんで、あの子

凍った魔物を蹴飛ばして割って遊んでるのよ

ババァ、見てみろよ

見事にパリンと砕け散るんだぜ

――ちょっと

子供の雪遊びにしては過激じゃあないっ!?

おぉ、

やっぱ氷河期作戦、効果あんじゃん

――あぁ、どうしよう


勇者のはずなのに

物すごく嫌な奴に見えてしまうんだけど

アリエーネの案内で魔王の居城である

魔王城へと辿り着いた勇者天我(てんが)

魔王城もすでに静まり返っており、

一応警戒しながら侵入して行ったが、

そこにはただ凍りついた屍があるだけ。

――ここまで

敵どころか、生命体にすら遭遇しなかったけど……


魔王城も静まり返ってるわね…

ここ本当に、魔王城って言う

魔王の住処なのか?


みんな凍ってんじゃん


大したことねーな

この先の玉座に

魔王が居るはずだから……

用心して

おーい、まおー


どこに隠れてんのー


出てきちゃいなさーい

――あたし今

用心してって言ったよねぇっ!?

……

今、天我達の目の前に居るのは

重厚な鎧を着込み、仮面を被った、

昔ながらの伝統的な装いの魔王。

……
しかし、鎧の表面はすでに凍結をはじめている。
へぇ、あんたが魔王か?

魔王はシールドを張って

この寒さを凌いでいたようだが、

もうすでに動くだけの

体力も気力も残っていない、

それぐらいに疲弊して見える。

……誰だ、貴様は?

いや、顔見えないけど、

声とかめっちゃおっさんじゃん

これからはおっさんって呼ばせてもらうわ

まぁ、あんたのトドメを刺しに来た

勇者?って奴らしいぜ

――ちょっと

さっきから何挑発してんのよっ!?

しかし、人をイラッとさせることに関しては


この子、かなり天才的よね?

貴様か?

この世界をこんな氷河期にして

数多(あまた)の命を奪った外道は?

――あぁ、どうしよう


魔王の方が

正しいことを言っているような

そんな気がしてならないんだけど

どうする気なの? 天我くん!

今のあなたじゃ

剣でも魔法でも


攻撃が通用するような相手じゃないわよっ!?

アリエーネは

とんでもない勘違いをしていた。


そもそもこの勇者に、

正攻法で魔王とまともに戦う気などは

さらさらなかった。


この勇者はそういう勇者だということを

まだ理解していなかったのだ。

そうかぁ?


今にも死にそうなおっさん、

というか動けない爺さんみたいだけどな

何言ってるの?


この世界の魔王と言えば、

防御力とかすごいんだからっ!


弱っている風に見えても

すごいんだからっ!

――あぁ、どうしよう


なんで私は

魔王の擁護をしているのだろう


女神なのに

これまでも何人もの勇者が

倒されて来たのよっ!?


この魔王にっ!!

なにか

とんでもない勘違いをしてないか?


やっぱり、ババァはババァだな

そもそも、まともに戦う気なんかないぞ


まぁ、どちらかと言えば『虐殺』だ

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