勝手にはじめられたゲーム
文字数 1,195文字
有翼種をはじめとする
落下する命を助けようとした者達に向かって
勇者の声が語り掛ける。
先程、助けられたのは数名ではあったが、
それは突然の出来事に咄嗟に反応してのこと。
反応出来ずに居た有翼種達も大勢いただろう。
事前に落下すると分かっていたのなら、
もっと多くの者達を救える筈。
そう、何よりも
ワザワザ落下をはじめるまで待たなくても
空に浮いている間に助けてしまえばいい。
勇者はそこのルールについては
何も触れていないのだから。
そして、何よりも今の彼等には
この提案に乗る以外に選択肢はなかった。
空高くへと連れ去られる王都民達。
背中に羽根を持つ者、
魔法で空を飛べる者達が
次々と地を蹴り、空へと駆け上がる。
空を切り裂くような全速力で
彼等は空に浮く仲間達の体を
しっかりと掴み、受け止めた。
このままで行けば、三人どころか
すべての者達を助けられるのではないか。
地上から見上げる者達は
固唾を飲んで見守った。
勇者の声は笑っている。
まるで必死の努力が無駄だと言わんばかりに。
次の瞬間、
空に居る者達のすべてが
地面に叩きつけられる。
それは、刹那と言っていいぐらいに
わずかな時間だった。
まるで、超強力な磁石が引かれ合い
一瞬でくっつくかのように。
それぐらいの勢いで
空に居たすべての命が
大地に激突したのだ。
自然な落下速度とは到底思えない。
そう、勇者は
自然の法則を操作していた。
今、勇者はインビジブルと化して
高空を浮いている。
それで誰の目にも見えることはない。
空に浮いているのは
『重力操作』の能力を使っているからであり、
多くの魔族達を宙に浮かせることが出来たのも
その能力を広範囲に使ったからに他ならない。
――逆もまた然り。
強烈な超重力を下方に
広範囲に掛けることにより、
空に居た魔族達を一瞬で
地面に叩きつけたのだった。
落ちると言うよりは
もはや押し潰されるのに近い。