人間ではないド畜生

文字数 1,563文字

ウゥッ……

かろうじて急所は外れていたが、

コーエンの体からは

大量の血が流れ出している。

それでも渾身の力を振り絞って

コーエンが立ち上がろうとした時、


巨漢のレイパー(性犯罪者)

ロドリゲスの大きな手が、頭を鷲掴みにして

そのまま片手でコーエンを持ち上げた。

そういやぁ、

弁護士が言ってたなぁ……

俺のダチが復讐された、()られたって

そうか、おめえか

おめえだったのか


俺のダチを三人も殺りやがったのは

だったら、おめえを

ただ殺すって訳にはいかねえな

死んでいったダチのよぉ

恨みを晴らしてやんなきゃぁよぉ

グアァァァッ

ロドリゲスは大剣で

コーエンの右腕を切り落とした。

コーエンの呻き声と共に、

血飛沫が吹き上がる。

……て、ことは

あの時の小娘がお前の妹か

そういやあの小娘

『お兄ちゃん、助けて』って

ずっと泣き叫んでやがったなぁ

おめえもよかったじゃねえかよ

兄妹揃って仲良く

俺にいたぶられて

あの世にいけるんだからよぉ

既に重症のコーエン、

しかしまだその目は諦めてはいない。

ハンナのよぉ……


痛みや苦しみがどれだけだったか

今こうしてようやく分かったんだ


それについちゃ確かに悪くないぜ……

問題はここからどうやって

お前をぶち殺すかってことだけでよ

はぁっ!?

その言葉にブチ切れたロドリゲスは

コーエンの体を蹴り飛ばす。

血を撒き散らしながら

ゴロゴロと地を転がるコーエン。

じゃぁ、お望み通りよぉ

もっともっと苦しんでから

死んでもらうぜ


思っていた以上に、

昨夜の野営地から近い所に

街はあったようだな

遡ること数刻前、

早々に街へと辿り着いていたジョー。

街に着いてから

コンパネに来ていた通知を確認すると


コーエンが向かった筈のゴブリンの洞窟


そこに居るゴブリン達の討伐が

新たなミッションとして

追加されていることに気づく。

嫌な予感がしてならなかったジョーは、

スキルで数キロ先までを索敵してみる。

……マズいな、これは

洞窟方面に向かって行く大集団、

直感的にジョーは

それが罪人狩の集団であろうことを悟った。

コーエンの身を案じたジョーは

持っていたほとんどすべての有り金をはたいて、

街の入り口につながれていた馬を借りる。

……間に合ってくれよ

そこからジョーは

ただひたすら馬を飛ばした、

ゴブリンの洞窟を目指して。


ゴブリンの洞窟、

その手前で馬を降りるジョー。

このまま突っ込んでしまうと、

おそらく自分は死なないであろうが

馬が死んでしまう

そのまま索敵スキルを使って進むと


大勢の人間が何やら

声を張り上げ笑っている

……

そこには、右目を潰され、

右腕を切り落とされ、

残った腕も両脚も折れ曲って


それでも妹の仇を討とうと必死で

地を這っているコーエンの姿が。

ボロボロになった

コーエンの姿を見た俺は


あの時以来感じることがなかった、

何かが壊れて行くものを感じた

誰だっ!? お前は?

コーエンが追い続けていた

妹の(かたき)であるレイパー(性犯罪者)


ロドリゲスの声を無視して、

ジョーはそのまま歩を進める。

お前達に名乗る名などないってセリフ


……あれは漫画の中だけだと思っていたんだがな

まさか本当にいるとはな、

名乗ることに嫌悪を感じる相手が

全身の血が煮えたぎり、頭に上って行く

目の前が真っ白になって行くあの感覚

……こっちの世界に来てまで

人間を殺したくはなかったんだ

でも、お前達がド畜生でよかったよ……

お前達は畜生で、

人間じゃあないんだからな……

殺したところで問題はなさそうだからな

ジョーは激情で我を忘れかけていた、

二十四人が死んで、自分だけが生き残った

あの時のように……。

――コンパネの能力リストに

ずっと表示されていたのだが


今まで使ったことがなかったその能力

これまで死ぬことを望んでいた俺には

それを使う気は全くなかった

その能力を、俺が自らの意志で

はじめて積極的に使用する


今回に限ってはその決意があった

プロットアーマー
……プロットアーマー、発動
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色