自死が出来ない女

文字数 1,401文字

どの世界に転生しても、私の容姿が変わることはありませんでした……

光輝く黄金色の髪に青い目、

透き通るような白い肌をしている

美しい娘フェル。

声を出すこともまた許されませんでした……

何度となく転生を繰り返しましたが


毎回いつも決まって

声を出すことが出来ないのです

声が出せないため


異世界の住人達と

上手くコミュニケーションを

取ることもままならない


いつもそんな状況でした……


私が最初に転生したのは、

穏やかな村でした

お父さん、お母さん、

お爺ちゃん、お婆ちゃん、

そして三人の弟達で

毎日、ただひたすら、

田畑を耕し作物をつくる


そんな平穏な農村での生活

声が出せず

話すことが出来ない私を

家族は心の底から大事に

愛してくれていたし

私も家族を愛し、

何よりも一番に考えていました

年頃になる村の男達はみな、

美しいフェルに好意を抱いていた。

……
……
……

だが、力尽くで言い寄るような男はおらず、

みなフェルに優しく紳士的であった。

とても穏やかで、とても優しい世界

そんな幸福な日常を

年頃になるまでは送っていました……


しかし、突如として

隣国の軍勢が攻め入って来て


村は敵軍に蹂躙されてしまいます……

村の人々は敵兵に皆殺しにされ、

すべてが焼き払われました……

自分が見ている目の前で家族を惨殺され、

その場で敵兵達に陵辱されたフェル。


彼女は、血の涙を流しながら、

声にならない呻き声をあげ続けていた。

全滅した村の中で、

唯一村の若い娘達だけが

生き残ることを許される、


敵兵の慰み者となるために。


生き残った村の娘達は、

連日連夜、敵兵達に陵辱された。


自分の親、兄弟、家族を、

村人を皆殺しにした敵兵達に。

他の娘達は、

その無念と屈辱に耐えることが出来ず


次々と自ら命を絶って行きました……

だけど私だけは

自ら命を絶つことが出来ません


何故なら、

それが転生のルールだからです……

私が死ぬことが出来るのは、

衰弱死や餓死などによる場合


または誰かに殺された時だけ……

つまり死にたくても、

すぐには死ねない


衰弱するか飢えて死に至るまで、

苦しみ続けなくてはならない……

声を出せないため


誰かに殺して欲しいと

懇願することも出来ません

試しに、

短剣を胸に突き刺してみましたが


強烈な痛みがあるだけで


心臓は止まることなく、

動き続けていました……

舌を噛んでも、首を吊っても、

死ぬことは出来ませんでした……

私は敵兵に出された

わずかな食事も取らず


自らが衰弱して死ぬのを

ひたすら待ちました……

それでも、転生者である私は


この世界の住人よりも生命力が強く、

なかなか死に至ることが出来なかったのです……

村が焼き払われてから数十日後、

ようやく村が属する自国の軍が、

領土奪還のために敵軍と相見える。


交戦は何日にも渡って繰り広げられ、

激闘の末にようやく自国軍が勝利する。

未だに死ぬことが出来ないでいた私は


これでようやく助けてもらえると

安堵したのですが……

だが現実は、陵辱しようとする相手が

敵兵から自国の兵士に変わっただけであった。

口が聞けない私は


この村の出身者であること、自国民であることを伝えることが出来ませんでした……

それを知る村の人達も

すでにみんな死に絶えてしまっています……

私は、口が聞けない、敵軍の慰安婦だと思われていたのです……

兵からすれば女は

戦いの末に手に入れた戦利品であり


それをどう扱おうが、

自分達の勝手ということなのでしょう……

私は結局、そのまま、

衰弱死、餓死するのをひたすら待つしかありませんでした……

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色