クラス=リベンジャー(復讐者)

文字数 2,003文字

わずか数日の短い期間ではあったが

それなりの信頼関係を築けた二人の旅は

終わりを告げようとしている。

街に辿り着くまで、残りわずか


このまま行けば明日にでも

街に到着出来るだろう

日が暮れたので今日のところは

森の中で野営することに決めた二人。

今夜が最後の晩餐になるかもしれない

だが生憎、

今日は目ぼしい獲物に出会えず、

豪勢なディナーとはいきそうにはない

最後の晩餐のメインディッシュは

見た目がグロテスクな

掌サイズの虫ということになってしまったな

ジョーは顔色一つ変えずに、

焚き火の前で気味の悪い虫に火を通している。

まいったなぁ、

俺が一番苦手なタイプの晩飯だ

散々愚痴を言いながら、

人間世界では見た事がないような虫を

おそるおそる口に入れるコーエン。

!!
マズっ!!

そのあまりの味の不味さ、

口に入れた時の不快感から

思わず吐き出してしまう。

あんた、こんなマズイもん

よく平気で食えるな?

ジョーは、不気味な虫の丸焼きを

黙々と口に運び続けている。

……あぁ、悪いんだがな、

ここに来てから、俺には味覚がないんだ

ジョーは一旦食事の手を止め、

目の前で燃えている焚き火に薪をくべた。

味覚障害か……

怪我とか病気の後遺症か何かかい?
……そういうんじゃないな

……どうやら、俺にはもう

喜んだりとか楽しんだりとか、

そんな感覚は無いらしいんだ


食い物だけじゃなくてな……

セックスも試してみたんだがな、

やはり何の感覚もなかったな……

ほら、飯だって

それこそ美味かったら、美味しい以外にも


嬉しいとか楽しいとか

そういう感覚が湧くだろう?

…………

俺の中で『喜怒哀楽』のうち、

『喜』と『楽』という感情は

おそらくもう死んでいるんだ……

だから逆接的に

飯を食った時の味覚も

セックスによる快感も

感情と一緒に失われてしまったんだと思う……

…………

それでも腹だけは空くんだから、

因果なものだな……

そういうとジョーは再び

手にした虫を口へと運ぶ。

食後も焚き火の前で

向かい合って座っているジョーとコーエン。

夜の闇に飲み込まれそうな森、

焚き火の炎と、それに照らされている二人の姿だけが

無の中に浮かび上がっている。

目の前で燃え続ける炎を

じっと見つめていたコーエンは、

先程のジョーの話がどうにも引っ掛かり、

思い余って問い掛けた。


それは覚悟が必要な行為でもある。

……あんた、一体何をしたんだ?

ここで、そう言うことを聞くのは、

野暮とかご法度なのかもしれないが……

あんたは

大勢の人間を殺したと言っていたが、

そんな大量殺人鬼にはとても見えないし

もし大量殺人鬼だったとしてもだ

大量殺人鬼みたいなクソ野郎が


今のあんたのように

過去の事件を引きずって


そんなメンタルダメージを受けるとは

思えないんだがね……

…………。

しばらくの沈黙の後、

コーエンの質問には答えずに

ジョーは質問できり返した。

……そういうあんたこそ、

何でこっちの世界に来たんだ?

自分が問うた以上、問い返されるのは

コーエンも分かっていた。


だからそれ相応の覚悟も必要だった。

……あんた、元軍人だろ?
目を見開いて驚くコーエン。

しかも割りとつい最近まで

軍に在籍していたんじゃあないのか?

あんた、どうしてそれを?

……最初から

そんな気はしていたんだ

最初にあんたとはじめて会った日、

甲殻虫から助けてもらった時

あんたはこっちに来て

まだ日が浅いと言っていたにも関わらず

甲殻虫の腹部目掛けて三発撃って

三発とも見事に急所に命中ってのが


まず有り得ないことだからな

それにあの小動物を

いとも簡単そうに狙撃する腕前だ

よっぽど射撃の上手い

シリアルキラー(連続殺人犯)かと思いもしたが


どう考えても

普段から訓練している人間でなければ

あれだけの腕前にはならないだろうからな

頭を掻くコーエン。
大した洞察力だな、おそれいったぜ

まぁ騙すつもりも

隠すつもりもなかったんだが


要らぬ誤解を生みたくはなかったんでな

……軍の工作員か?


……もしかしたら、

軍の命令でこっちに来たのか?

いや、まったくの私怨だな
…………。

……そうか、あんた、

リベンジャー(復讐者)だったのか……

リベンジャー(復讐者)……。

……ここは

あっちの人間世界で

極悪非道を積み重ねて来た

凶悪犯が送られて来る流刑地だからな

見方を変えれば

いろんな人間から恨みを買ってる奴等の

吹き溜まりってところさ

例えば、殺された人間の遺族からすれば


死刑にもならずにまだノウノウと生きてやがる、

いくら殺してもまだ殺し足りない


それぐらい怨みを持ってたとしても

不思議じゃあない

……だからな、たまにいるんだよ

復讐を果たすだけの為に自ら志願して、

あっちの平穏な生活を捨ててまで、

ここまで(かたき)を追って来る人間がな

まさしく地獄の底まで追い掛けるって奴だな
……あぁ、そういうことか……

……それなら俺は紛れも無く

そのリベンジャー(復讐者)だな……

まさしく、あんたの言う通りだ……

燃え続ける炎を見つめながら、

コーエンは自らの事情を語りはじめる。

俺には年の離れた妹がいたんだ……

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