ユーコとヨーコ

文字数 1,488文字

魔王軍が圧倒的な勢力を持つ異世界。


生き残った人間や亜人、他の種族達は反乱軍を結成し

今尚これに抗い続けている。

――敵の勢いの前に

戦局は圧倒的に不利だわ……

反乱軍の唯一の希望は

この異世界の勇者だけだけど……

勇者もまた理由があって

常にこの世界に存在している訳ではないし……

現実世界での景山陽子ことヨーコは

その反乱軍の中にいる。


彼女もまた反乱軍として

銃を手に取り戦場で戦っていた。


ここでヨーコでいる時、

人間世界での陽子としての

記憶は一切ない。


逆に陽子でいる時は

ヨーコの時のことを覚えてはいない。

……
……
……
……
……

積まれた土嚢(どのう)に身を隠し

向かって来る魔物や魔族達を銃撃するヨーコ。

――前衛の魔物達を倒しても


後続が次から次へと現れて

進軍して来るわ……

これじゃあまるで

終わりのない地獄じゃない……

人間世界では勝ち気で活動的であるヨーコも


この地獄絵図の中では


メンタルを維持出来ずに

臆病であったり弱き者であったり、

時には泣き虫であったりもする。

なんでっ、なんで

来てくれないのよっ!

――あたしはこのいつ終わるとも分からない戦闘の中で


ずっと待っている……勇者を

もう手に持つマシンガンを

どれぐらい撃ち続けたか分からない……


いつまでこんなことが続くの?

ヨーコは次第に泣きべそをかきはじめ、

目からポロポロと涙をこぼし

しまいには泣きじゃくる。

どうして泣いているんだいっ?

僕の可愛い仔猫ちゃんは

後方からの声に

ヨーコは希望の光を見る。

ユ、ユーコッ!!
やぁ、お待たせ

――この地獄のような戦場で、

あたしの唯一の心の支え、

ユーコ……

ショートカットの髪をなびかせ、

まるで美少年のような麗人。


しかしその体のラインが

ハッキリわかるライダーススーツ、

そのシルエットを見る限り

間違いなく女である。

なんで、もっと早く

来てくれないのよっ!

まったく、仔猫ちゃんは

随分と甘えん坊さんだねぇ

そんなに僕に会いたかったのかい?

この世界でヨーコは

完全にユーコを心の支えにしていた。


というよりももはや依存症に近かった。

その後、勇者の出現により

魔王軍は撤退を余儀なくされる。


勇者はユーコとヨーコが

二人一緒にいる時にしか

姿を見せることはない。

――でも、敵はまたすぐに

やって来るでしょうね……

もうここ最近ずっと

こうした戦いが続いているし……

戦闘が終わった後、

ヨーコはユーコに

壁ドンされ迫られていた。


これも戦闘後に毎回行われる

お約束と言える。

……僕達は二人で一人じゃないか

もっとヨーコのことが

深く知りたいんだ……

ユーコはヨーコの顎をクイっと上に向けて、

熱くヨーコの目を見つめる。

あぁ……

だ、だめよ、

あたし達、女同士じゃない……

ヨーコもユーコに惹かれているのに、

つい抵抗してしまう女心の複雑さ。

こんな時代に、まだ性別なんてものに囚われてるのかい?


……ヨーコは

ヨーコの耳元で、

ユーコの熱い吐息が囁く。


耳と顔を真っ赤にするヨーコ。

――やだぁ、どうしよう

体が火照って熱くなっちゃう……

そ、そういうわけじゃないけど……

肉体なんてただの器に過ぎず……

大切なのはお互いの魂が惹かれ合うこと……

そのことを僕達が

一番よく知っているじゃないか……

そ、そうだけど……

ユーコの細くしなやかな指先が

ヨーコの体を撫でるように滑っていく。

あぁ……

そのまま唇を奪われる。

――か、体が蕩けてしまいそう……

ヨーコはユーコに身を委ねて行く……。
そして、陽子は目を覚ます。

――何か夢を見ていた……

ような気がする……

コワイ夢だったような……

気持ちいい夢だったような……

だがそれも

おそらく五秒もすれば

忘れてしまっているだろう、

夢を見たような気がしたことは。


本当はそれは夢ではないのだが。

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