新しい生活

文字数 2,232文字

僕等の面倒は

おっかさん達が交替で見てくれる

おっかさん達はみんな

地球防衛軍の女性兵士とか職員らしいんだけど

当番で係が決まっていて


おっかさん達はみんな任務の合間を縫って、僕等を世話してくれた

任務でしばらく会えなくなるからと

顔を見に来るおっかさんも居る

あたしはしばらく来られなくなるけど

あんた達、元気にしてるんだよ

施設には、この世界の人間の子供も居た
……
……
……
この世界は、つい最近

他の異世界から侵略されそうになって


異世界間戦争が起きたらしい

その時の戦争で

身寄りがいなくなった孤児を

ここで引き取っているんだとか

……

……
……
……
施設の中にはいろんな人が居た

もちろんこの世界の人間スタッフが多かったけど


それでも半魚人や人魚、エルフ、翼人、

ゾンビ兵と呼ばれるアンデッド、魔族もいる

だから外見で差別されることは全くなかった

どちらかというと、

今まで異世界の子供がいなかったから

子供という存在の方が珍しいらしい

時々僕と同じ異世界出身の人に声をかけられたりもする

そうかい、

首都も戦争で、もうそんな状態なのかい

まぁ、ここに居れば

食べる物に困ることはないよ

俺も元の世界に居た頃は

酷い奴だったと自分でも思うぜ

やっぱりな、食う物がなくて、

いつも腹が減ってるってのがよくないよな

腹が満たされれば、

それなりに気持ちも満たされて、

余裕が出てくるってもんだよ

確かに僕と同じ世界の出身者とは思えないような優しい人だった

僕が知る限り、

あの世界にそんな優しい人はいない

食事は、僕らにとって最高の楽しみ

この世界の食事はとても美味しくて、

お腹いっぱいになるまで食べさせてもらえる

いつも僕らはお腹いっぱいになるまで食べた

僕らは全員、何日もお腹を空かせて過ごした嫌な思い出があるから


ついつい食べ過ぎてしまうのじゃあないだろうか

いい食べっぷりだねえ
おっかさん達はいつもそうやって褒めてくれた
残さず食べて、好き嫌いがなくてエライねえ

そういうおっかさんも居たが、

僕らからすると好き嫌いの意味がわからない

いつもお腹を空かせていて、

口に入るのならなんでも食べるのが当たり前だったから


もちろん食事の準備は僕等も手伝う

そういうことも

出来るようにならないとダメだって、

彩おっかさんはいつも言っていた

彩おっかさんは食事のマナーにも厳しい

ただこれは僕等子供達だけではなくて、

他のおっかさんや男の人達にも厳しかった

いいかい、食べ方ってのは大事なんだよ

いくら惚れた相手でも、

食べ方一つ見てげんなりしちまったら


百年の恋も一気に醒めちまうってもんさ

いいかい、

食べ方を気にしないのは犬猫と一緒なんだよ

そりゃ飢えて死にそうな時は

仕方がないだろうけどさ

でもね、余裕がある時は人として

最低限はちゃんとしてなきゃいけないよ

彩おっかさんは僕らに向かって

いつもそう言う

食べ物の有難みなんかは、

あんた達には釈迦に説法だろうから


言わなくても大丈夫かね

その後、彩おっかさんは

人と食べ物を分け合う気持ちとかを教えてくれた

僕はいつもマトと食べ物を分け合っていたから、少し誇らしい

お風呂はいつも

おかっさん達と一緒に入っていた

毎日日替わりで

いろんなおっかさん達と

ムショ内にある大浴場に行く

僕は朱美おっかさんと

風呂に入るのが苦手だった


嫌ではないのだけど、

とにかく恥ずかしい

アクトのはデカいなあ、

こりゃ将来女泣かせになるぜ

毎回僕の股間を見ながら

そう言うからだ

でもおっかさん達が毎回体を洗ってくれて


まるでなんだか王様になったような気分

お京おっかさんは

九九を最後まで言えないと、

湯船から上がらせてもらえなくて


お多恵おっかさんは

風呂上りの牛乳が大好き

人がいない時に水かけっこをするおっかんもいたし


浴場で泳ぐおっかさんもいた

どのおっかさんと入るのも嬉しくて、

お風呂に行くのも楽しみの一つだった


それから、防衛軍の仕事を手伝ったりもした

掃除や洗濯、荷物運びなんかを

大人の人達と一緒になってやる

そういうことも大事なことだからね

彩おっかさんはそう言っていた

頑張るとおっかさん達は

頭を撫でて褒めてくれる

勉強は、地球防衛軍の

教員資格免許を持っている

という人達が教えてくれた

この世界の文化・歴史、

特に日本の文化・歴史はいっぱい時間があって


日本の習慣・因習というものまで教えてもらう

これはね、

あんた達が本当の日本人になるために必要なことだからね


ちゃんと聞いておかないといけないよ

彩おっかさんはそう言っていた

僕はその時まだ

その言葉の意味をよくわかっていなかったけど

後になって思えば、

日本に馴染んで暮らすには

本当に必要なことだった

そして日本国籍を取るためにも

必要なことだったらしい

僕は勉強は結構出来るほうで、

彩おっかさんはいつも頭を撫でて褒めてくれる

アクトは賢いんだねぇ

ただでさえ少子高齢化の問題を抱えていた日本。


それが異世界間戦争により、

さらに大きく若年層の人口を減らし

大打撃を受けていた。


そこで日本政府は

異世界からの難民孤児を

日本人として育てるプロジェクトを立ち上げる。


問題なのは種族や人種ではなく、

国籍とマインドであり


小さい頃より、日本の環境で、

日本人としての教育を受け、

日本人として育てば


異世界出身者だとしても

日本人になり得るのではないか、

これはそんな壮大な社会実験でもあった。


孤児の世話をしている女達は、

いずれも戦争で子供や家族を失って

絶望の淵に居た女達ばかり。


これを、敵の子供を保護し

洗脳教育して育てているという見方もあるだろうが、


本人達にとっては、

果たしてどちらが幸せなのであろうか……。

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