過去時間への転生

文字数 1,277文字

俺の眼前には『ゼウス』と名乗る

マッチョな老人が立っている

暗闇の中にある

ただひとつの扉を開いたら


その部屋の中に

このゼウスがいたのだ

僕は本物の神様ではないよ、

単なる転生エージェントだ

ゼウスは自らをそう説明した

不条理なことに直面した人間は


ゼウスを名乗ると、

妙に素直に受入れてくれるからね

僕達エージェントは

みんなゼウスと名乗っているのさ

どうやら今は不条理な状況らしい

君は死んでしまったから


これからどう転生するかを

話し合うために


ここで君を待っていたのさ

薄々気づいてはいたが、

ゼウスの言葉にショックを受ける

クソッ!

やはり俺は死んでしまったのか!

彼は近未来の荒廃した世界の住人で、

謎の敵組織と戦っていた。


敵対組織から執拗に狙われ続けている

サクラという少女を守ることが彼の使命だった。

サクラを守ることだけが、

俺が戦う理由だった

俺からすれば、

人類が滅びようが、

生き残ろうが、関係ない

サクラが無事なら

ただそれだけでよかった

敵対組織の罠に嵌り、

追い詰められ、銃撃された際に

サクラを庇って青年は命を落とした。

サクラは、

サクラは無事なのか?

青年がすぐに思ったのは

サクラの安否だった。

あの状況では、

援軍でも来ない限り、

おそらくは助からないだろう

彼女を救いたいのだろう?
ゼウスは俺の考えを見抜いていた

なぜ俺が

考えていることがわかった?

俺からすれば少し気味が悪い

さっきも言ったけど、

ここはいろいろと

不条理なことが起こる場所なんだよ

まぁそれはいいじゃないか

ゼウスは話を逸らした

そんなことより、

いい方法があるよ

君が別の人間に転生して、

彼女を守ってあげればいいんだ

『転生?』

君を君として、

あの世界に戻してあげるわけにはいかないんだけどね、残念ながら

それだと転生じゃなくて、

ただ生き返っただけになってしまうから

突然ゼウスが提案して来たことを、

俺はすぐには理解出来なかった

今から転生しても、

間に合う訳ないだろう?

誰もが当然抱くであろう疑問を

青年は問うた。

時間とか時系列は

気にしなくていいよ

僕は君を過去時間に

転生させることも出来るから

僕は君が望む時、すなわち、


彼女が危機に陥る時に合わせて

君を転生させ続けることが出来るんだよ

過去時間に転生出来る、

それは理解したとして

当然それはそれで次の疑問が生じる

それで、

歴史が変わってしまったりしないのか?

もっともな質問だね

僕達からすると


彼女がここで死んでしまうことのほうが

歴史改変みたいなものなんだよね

彼女がここで死ぬと、

この先、確実に人類が滅ぶから

人類を管理する僕達としては


なんとしても彼女の死を

阻止しなくてはならないんだよ

サクラが敵対組織から

執拗に狙われている理由を

俺は知らなかったが

まさか人類の存亡が

掛かっている程の大事だとは

思っていなかった

とは言え、僕達は

人間の世界に直接介入出来ないから


君が協力者になってくれたら

非常に有り難いんだがね

この先、

もし今回のように力及ばず


彼女を守り切れずに

君が死んでしまったとしても


僕が何度でも

君を転生させてあげるよ


彼女を守り切るためにね

君は何度も転生して、

彼女をずっと守り続けて行けばいい

俺にはにわかに

信じ難いことだった

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