時の勇者とリッチ

文字数 1,431文字

敵の肉体を時間逆行させる能力……

思えばこの能力には

以前からエライ目にあっていた

昔、魔王軍の者達二十名に取り囲まれて

絶対絶命の大ピンチに


仕方なくこの能力を発動させたことがあったのだが

当然、目の前には

二十名の赤ん坊が現れることになる

やはりそのまま放置することが出来ず

赤ん坊達の安全を確保しようとしたが

二十名もの数を

一度に運ぶことが出来る訳なく


近隣の村まで何度も往復して運ぶ羽目になった

そして、赤ん坊を抱えて

近隣の村まで行っている間に

他の赤ん坊達がじっとしている筈もなく

ハイハイして這って

そっちこっちに勝手に行くものだから


森林や山を探し回って

この上なく苦労したという過去がある

時の勇者の旅路、

今度はアンデッドの大群が、その行く手を阻む。

……
……
……
まさかこんなところで勇者と

遭遇するとはな

アンデッドの群れを率いているのは魔王軍のリッチ。
……

また弱腰になるかと思われた時の勇者だったが、

今度はそこそこ強気な姿勢を見せた。

ここまでずっと、戦闘向きではない自らの能力を

過小評価して来た時の勇者ではあったが。

こんな自分と、唯一相性が良くて

自信を持って戦える敵


それが肉体を持つアンデッドだ

肉体を持たない

霊タイプのアンデッドは

さすがに無理だが

例えば

朽ち果てた肉体のゾンビなどは

肉体のみを時間逆行させ続ければ


普通にただの人間の肉体に戻る、

健常だった頃の

赤ん坊にもならずに

程よく弱い頃の人間に戻ってもらえるので、自分でも倒すのは簡単だ

いくら何でも

勇者である以上

普通の人間よりは自分も強い

そもそも人間に戻ったら

もう戦う必要がなくなり


そのまま帰って行く

元ゾンビがほとんどだ

生への執着も、未練や怨念も無くなったのだから、当然と言えば当然
せっかく人間に戻ったのに


わざわざまたすぐ死ぬような真似を

そりゃ、する訳がない

……
……
……
あれ?
あれ?
あれ?
ど、どういうことだ?

ゾンビ達が人間に戻されて行く様を見て


群れのボスである

リッチの顔が青ざめている

いや髑髏みたいな顔で

色はよくわからないのだが

無限の知識を求めて

永遠の命を目指した

なれの果てであるそのリッチは

何十年、何百年という時を掛け、

ようやく今の境地に辿り着いた

その多大なる苦労と労力が

一瞬で水泡に帰そうとしているのだ

次は、お前の番だな

た、頼むっ、お願いだっ、

や、やめてくれっ、やめてくれっ

俺がここまで辿り着くのに

どれだけ大変だったと思っているんだっ

うろたえるリッチに

時の勇者は容赦無く

時間逆行の能力を使う。

やめろぉぉぉっ……

普通の人間の青年へと

戻って行く元リッチ、

呆然として地べたに座り込む。

あぁっ……

あなたは

不死などを求めたりせずに


限りある時間を、命を、

精一杯生きて行くべきです

これが時を統べることが出来る

時の勇者の信条なのであろう、


限られた命の時間であるからこそ

人間のせいは輝きを放つのだと。

このように、

時の勇者による肉体の時間逆行能力は


特にリッチに関しては

リッチ殺しと言ってもいいぐらいで


長い年月を経てようやく辿り着いたリッチであるのに

一瞬で彼等を元々の人間の肉体に戻してみせる。

リッチに辿り着くのに長い年月が掛かった者程、

心をバキバキにへし折られるのだった。

そんな神にも匹敵する能力を持ちながら、

コンプレックスを抱え


まだ能力を上手く使いこなせていない

時の勇者。

とりあえずレベル差関係なく

どんな相手でも斬れる剣技、

もしくは究極の攻撃魔法の一つでも覚えれば


おそらくすぐにでも

最強クラスになれるのだが、

まだまだ先のことになりそうではある。

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