逆転の1手は? (8月30日23:40)

文字数 3,854文字

――20XX年8月30日 23時40分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス

「…これが天道(てんどう)さんが拘束された経緯だ。」

オフィスに帰還した渦雷(からい)は、天道に渡されたボイスレコーダーの再生を停止した。
机の上には例の【ネイビーのビジネス鞄】、鞄の中に入っていたメモ、天道に渡されたボイスレコーダー、渦雷が録音したボイスレコーダー、が置いてあった。


「Oh…阿久津(あくつ)…期待を裏切らねぇな。ワクワクしてきたぜ…。」
死んだ瞳で晴野(はれの)が答える。

《阿久津のスマホの通話履歴からテロリスト辿れないかやってみる。…どうせ飛ばし携帯だろうけど。》
東雲(しののめ)が調査を開始する。
どうやら既に、どこからか阿久津の通話履歴を手に入れていたようだ。

「あらお見事。【天道が裏切り者で、阿久津が監視していた】筋書ですのね……。」

雨宮(あまみや)が別の意味で感動していると、雪平(ゆきひら)が何かを悟ったように口を開いた。

「…そういうことでしたか…。」
「何か知っているのか?」
すかさず霧島(きりしま)が聞き返す。
霧島の反応速度に雪平(ゆきひら)が驚く。

「ええと…裏の噂ですが…。以前から阿久津さんは公安にマークされているから気を付けろ、と…聞いています。」


「!?」


これには全員が驚いた。

雪平(ゆきひら)は主に公安警察の中の調査部門と連携を取っていることが多い。
だが、裏で公安調査庁にも協力をしているのではないか、と言われていた。


特殊捜査本部ではスカウト制が取られており、所属している班以外でも活動することができる。
どこの班員だろうと、優秀だと思う班員を引き抜き、所属している班の仕事を邪魔しない範囲でならば、秘匿された班(秘密裏に作った班)で仕事をさせることも許されているのだ。

特捜の建物に入れる人物なら、秘匿された班を持つことは可能。
班を持ちたい上司と、スカウトされた班員が、互いに納得していればいいのである。
余談だが、特に3課1係は引く手あまたで、ぼろ儲けしている班員も居るんだとか。

所属したとしても秘匿されているため、他人には言ってはいけない。
基本的には誰しもが班をいくつか掛け持ちしており、もちろん渦雷(からい)も自班以外に2つスカウトされている。
要は【利害の一致する上司】と【上司が選んだ仲間】と会う、内緒の部活の様なものである。
だからこそ、特殊捜査本部では全員がコードネームの使用を定められているし、スパイは絶対に許されない。


言いにくそうにしているので、恐らく、雪平は公安内事系の人が上司を詰める特捜内の秘匿された班で、この噂を聞いたんだろう。




「何でマークされているかはわかりませんでしたが、もし、これらが事実なら、内事の秘匿班(かれら)にとってはテロリストごと一網打尽に(狩りが)できる、願ったり叶ったりの状況です。…今すぐ動きましょう!」

ミーティングルームから勢いよく飛び出そうとする雪平(ゆきひら)を、霧島(きりしま)が素早く止めた。

「待て、噂だろ!?公安は公安警察だけを指す言葉じゃない。公安調査庁や国家公安委員会のことかもしれない。それに…内事(ないじ)に本当に存在するかも、班長(リーダー)が誰かもわからない班を、明日朝までに探し出せるのか!?」


確かに渦雷(からい)が出て行った後、内事(ないじ)1課を名乗る斎藤慎さんが天道(てんどう)の件で訪ねてきた。
内事(ないじ)が動いたのは、天道をテロリストと思っているからだ。
恐らく彼らは【表】だ。
本当に「1課2係7班はテロと関係が無いと思っている」のであれば、味方に引き込むほうが早いだろう。
内事(ないじ)が阿久津を追っているのなら、こちらに確認があっても良いように思える。

ならば、実際に阿久津を調べているのは、内事(ないじ)の裏…秘匿班かと思うが、そうではない可能性もある。
表に情報が流れない、裏の噂だと公安警察や公安調査庁、自衛隊内などの秘匿された班が関わっているはず。
特殊捜査本部内(こちら)では調べようがない。


「ですが、このままでは…」
「仮に見つけられたとしても、阿久津は天道の直属の上司。…テロリストと接触していた以上、証明が難しい。どうするつもりだ?」

霧島は右手につけている

、言葉を紡いだ。

仮に雪平が、秘匿班の班長に繋げられたとしても、今回は1課2係7班(自分たち)の直属の上司が関わっている。
情報が降りてくるかわからないし、下手したらこっちが疑われる。
下手したら情報交換ができずに【ネイビーのビジネス鞄】、ボイスレコーダー、メモを奪われて手詰まりになる可能性もある。
つくづく面倒である。

「…ぁ。」
答えられない雪平(ゆきひら)
嵐山(あらしやま)が口をはさむ。

「霧島の言う通りよ。可愛そうだけど、この音声だけではどうにも。」


証拠となる【ネイビーのビジネス鞄】を持っていたのは天道。
天道は阿久津の部下なので、絶賛関与を疑われている所だ。
こちらとしては信用に値すると思っていても、相手から見れば証拠を偽造した可能性も考えられるだろう。

本物かどうか判断がつくまで時間もかかる。
明日までには間に合いそうにない。


「…それにね、いつも個人的な感情で私たち(こちら)にヘイト向けてきて、ご丁寧に毎回足を引っ張って来る、天道よ?…全て自分に還ってきたのよ。」

これには完全に同意だった。

――だが、渦雷は阿久津だけを排除したかった。

「…すまないが、手分けして天道さんが無実の証拠を集めてくれないだろうか。可能なら俺は阿久津さんだけを追放(リコール)したい。」

班員は驚き、メンバーを見回す。
霧島(きりしま)が驚いていないことを確認すると、班員を代表して晴野(はれの)が聞いてきた。

「…その心は?」
クソ天道のために何故そこまでするのか、そう訴えているようだった。

「みんなもわかっている通り、天道さんのリコールは検討するべきだと思うし、俺も同じことを思っていた。だが、まずは一番ヤバい阿久津を追いやりたい。天道さんを追いやっ(リコールし)ても、次の上司は阿久津の派閥になってしまうから、現状より悪化が予想されるんだ。」

渦雷(からい)は班発足時の天道とのやり取りを話した。

「天道さんにはリーダーになる代わりにいくつか交換条件を出している。その1つがある程度のオフィス内での自由だ。東雲の現状(引きこもりの許可)は担当次第。…噂だと、次の2係の担当は…生天目(なばため)さんだ。」

生天目(なばため)さんとは、阿久津(あくつ)を若くしたような男だ。
阿久津の部下ではあるが親の七光りもあるし、そこそこ優秀なため、阿久津が失脚したとしても再度班を狙ってくる可能性がある。
自己中心的で自分が正義、体裁重視、おまけに自信家のナルシスト。
うざいが親の権力を使い世の中を上手く渡っていく、挫折しらずの男だ。
渦雷(からい)は時々阿久津に会いに行く途中で生天目(なばため)に会うのだが、あの天然パーマの髪を引っ張ってスキンヘッドにしたくなる程、うっとうしい。
正直近くにいてほしくない存在だ。


「あー…。あと、リーダーは霧島さんを希望していたな…。」
小声でぽつりと言う。
先ほどの霧島との話し合いの後だから、正直とても言いにくかった。



「!!!!!!!」



班員に雷で撃たれたような衝撃が走る。

渦雷(からい)リーダー、マジ神!速攻で調査(ハッキング)工作(クラッキング入ります!!)
真っ先に行動したのは東雲(しののめ)だった。
東雲は対人関係が苦手で、引きこもりな上に聴覚過敏持ち。
オフィスでデスクに座って働くのは難しいのだ。
常に、目立たない海外製のイヤープラグを装着し、生活している。
自分の生活を、率いては班の平穏を守るため、速攻で取り掛かった。


「oh…阿久津2号(生天目)マジ要らねぇぜ…!」
晴野(はれの)もデスクに向かう。
生天目(なばため)の嫌われっぷりは凄まじい。

「だから!!毎回毎回僕を使って班を私的利用(コントロール)しようと企むんじゃねぇよ!!僕らより頭悪いくせに!!!」
ある意味、霧島(きりしま)が1番の被害者だろう。
もしかしたら、阿久津達と似た者同士にカウントされているのかもしれない。

「うっげ最悪ですわ!1課2係4班みたいな担当って希少種なんですの!?
「…はぁ。天道のほうがまだましね。」
雨宮(あまみや)は上司ガチャに成功した班を羨み、嵐山(あらしやま)は、何かを諦めたようだった。

当たり前だが、うちの班員は生天目(なばため)を嫌っていた。


全員が天道(てんどう)の救済に同意したとみなし、渦雷(からい)は指示を出す。

「…東雲(しののめ)3課1係4班(ネフィリムリーダー達)と連携して、天道が犯人とされている偽の証拠の獲得、調査と工作を頼む。」
《了解。ネフィリムからも承諾メッセ届いてます。》

「ありがとう。雪平(ゆきひら)は阿久津を追っている班の特定、晴野(はれの)天道(てんどう)さんのメモの裏取りを頼む。…どこかに覆せる穴がないか調べてくれ。」

「了解。メモね!あ、この前個人的に外事(がいじ)に大きな貸し作ったんで、天道の件で返せって言ってみます。一応、天道の仲間?だし、何とかしてくれるかも。知らんけどっ!」
「了解です。晴野(はれの)さん、僕が調査部や他のところに情報提供を頼みます。晴野さんの貸しは今後役に立ちそうなのでそのままにしておいてください。…ついでに調査部に居るかもしれない秘匿班の班長(リーダー)と連絡が取れれば良いのですが…」
「はい!ゆっきー!秘匿班のリーダー探しは任せて!私、内情に超詳しそうな人知ってる!」
「!!ありがとうございます!」
「メンヘラ並みの鬼電メッセ連投で叩き起こしてみるけど、無理だったらゴメンね!規則正しいヤツなんだぁ。」
「大丈夫です。こちらでも探しますし、元々ダメ元ですから!」
晴野(はれの)雪平(ゆきひら)が話をして、行動が決まった。
どうやら役割が逆転したようだった。

晴野(はれの)の裏側が気になるが、裏切ってない限りは詮索してはいけない。
渦雷(からい)は残りのメンバーに指示を出す。

嵐山(あらしやま)雨宮(あまみや)はひとまず天道さんの情報も踏まえて、引き続きテロの情報解析を頼む。」
「了解!」
「俺と霧島(きりしま)はネフィリムリーダーに会いに行ってくる。各自解散!」
「了解!」

テロの阻止と、阿久津の糾弾。
間に合えば天道の救済も。
全て確実に成功させるために、渦雷と霧島は3課へ向かった。
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登場人物紹介

本編主人公の渦雷(からい)です。

1課2係7班のリーダーです。

皆さまどうぞよろしくお願いいたします。


雪平、すまないがこの書類も頼む。総務から雪平宛だ。

1課2係7班、サブリーダーの霧島(きりしま)です!

よろしくな!


あ、雪平!

僕、1時間後に用事で出るから、総務の書類終わったらついでに持って行ってやるよ!

あ、ども!晴野(はれの)っすー!

1課2係7班でオペレーターやってるよー!

よろよろ!!


って、ちょ……ゆっきー(雪平)!!!?無事かー!!?

皆さま初めまして。

1課2係7班の雪平(ゆきひら)です。

事件が無い時は、事務や情報整理、書類整理をメインにしています。

共感覚を持っていて、僕の場合は【色】が見えます。

どうぞよろしくお願い致します。


さて、この書類を…あっ!

(バッサー。書類を床に雪崩のように落とす。)

――うわあああぁ!すみませんんん!!

皆さまごきげんよう。

1課2係7班、雨宮(あまみや)ですわ。


雪平、こちらに来た書類はまとめましたわよ。

1課2係7班、嵐山(あらしやま)よ。

よろしく。


雪平。こっちが処理済、こっちが未処理のものよ。

量もあるし、天道に返す分は空きデスクに積んでおくわね。

1課2係7班、情報班員の東雲(しののめ)だよ。

基本、引きこもっているけど…よろしく。


あれ。ネフィリムからチャット入ってる…。

…了解。〔また出たヤバ案件ww面白そうだし、緊急案件RTA参加するので詳細キボンヌw〕…っと。

いつもネフィリム達には手伝ってもらってるしね。

――さて、頑張りますか。

あ、どうも。公安部外事課、天道(てんどう)どす。

警視庁に勤務しながら、青少年特殊捜査本部の1課2係7班の上司をさせてもらっとりますぅ。

ホンマは古巣に戻るか、1課1係に行きたいんやけど…まぁ、よろしゅう頼んます。

警視庁の阿久津(あくつ)だ。

天道の上司だ。どうぞよろしく。

警視庁公安部所属の天笠(あまがさ)です。

1話のエピローグから本編に関わらせていただきます。

読者、そして1課2係7班の皆さん、どうぞよろしくお願いします。

うぽつwww

拙者はネフィリム!

3課1係4班のリーダーでござるwww

いやぁ、何卒どうぞどうぞよろしくでござるww

あ。上から緊急案件RTA入ったんで離脱シャース!ノシ

ホント人使い荒いwwブフォww

者ども!!調査(ハッキング)と工作(クラッキング)の時間ですぞ!!各自開始オナシャス!!

警視庁公安部内事課の斎藤だ。

…一応名乗ったが…俺の自己紹介、本当に必要か??

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