取引 (12月19日16:00)
文字数 5,095文字
掃除をして、椅子に座る。
相手も座った……のだが……。
……何やコイツ。
――しばいたろか。マジで。
天道は苛立っていた。
それもそのはず。
まずは軽く雑談をと思い天道が話を切り出すが、受け答えが全て適当だ。
対面しているのは、
相馬は始終ぼーっとしている感じで、「ああ。」「そうか」くらいしか言わない。
――おえ。相馬。……ええ加減にせんと、そろそろどつきまわすぞゴラ。
天道は苛立ちながら会話を進める。
――なぁ、
対応が甘いというか、ちゃんと管理できていないから好かれているんちゃうんか……?
だいたい好かれる学校の先生って、基本、対応ゆっるいやん??
そんなことを考えながら、ため息をつく。
だが、相手は席を立つことはしない。
もしかしたら、敵対派閥だからこの対応かもしれないと思い直すことにする。
情報は欲しいようだ。なら……これなら釣れるか?
天道は本題に関わる話を切り出してみる。
「んで?倉木さんの情報、
取れた
ん?よぉく周りをウロチョロしてはりますけど。」「……ああ。
まぁな
。」「ええこと教えたろか?」
「……なんだ?」
おっと食いついた。
「なぁ、相馬はん。1課2係7班の上司の席が4ヶ月くらい
空く
「――!?」
すると、どうだろう。面白いほどに態度が変わっていく。
「待て。――それを
俺に
言って、何になる?」「んー?俺の話、聞く気あるん?それとも、ないん――」
「ある。話してくれ。――なぜ俺に言ったのかも含めてな。」
なんと、途中から神上司が覚醒していったではないか。
――お 前 な ?
天道はキレそうだったが、
「お前は
その時、天道の表情が変わった。
それを見た相馬が「地雷踏んだ!?でも、どこでやらかした!?」というような表情になる。
この一言で堪忍袋の緒が切れた。
天道は限界だった。
「おぇ相馬ぁ!!!俺を勝手にゴミくず陣営に名を連ねさせんなや、ボケ!!」
「えっ。」
天道に急に怒鳴られ、相馬は目を白黒させる。
いや、お前の元上司は阿久津で、今の上司が倉木で上手くやってるだろ。同じ穴の
よし、サンドバック決定だ。
天道はストレートに怒りをぶつけだす。
「こちとら特殊部隊で退役までずうーっと活動しときたかったんやぞ!!それを……!
アホみたいな人事
さえなければ、ゴミくず陣営に関わること無く、さほどストレスもなく楽しく暮らせとったんに!!!だぁれがこんなとこ、好き好んで来たかいな!!」「あ、ああ。そう、なのか……?」
「しっかも阿久津の時なんか散々こき使われた挙句、スケープゴートで処分待ったなしやったんやぞ!?俺の命軽すぎひん!?人権どこ行ったんや!!?ええ!?」
「あ、ああ。知ってる。……。その、大変だったようだな――」
大変なんて言葉で済ませようとすんなやボケ!!!
「その次は倉木で、阿久津のとこに
「そ、そう……だな。……うん、味方じゃなかった、のか……?」
この発言に、天道は最大の怒りを叩きこんで返答した。
「あったりまえや!!!どつきまわすぞゴラァ!!俺を敵側や言うなら、はじめに情報くらい洗っとかんかい!!!!!」
「す……すまな、かった……。」
相馬は特殊部隊上がりの本場の殺気を食らい、返答するのがやっとだった。
相馬にとって、天道の本心は想定外だったのだろう。顔が引きつっている。
「刑事たたき上げなんやろ、お前!もっと勘働かせぇや!!ドアホ!……鈍っとんちゃうか?ええ?」
「いや、だって倉木――」
「あ゛あ?」
「……申し訳ございませんでした。」
相馬は平謝りした。ずっと頭を下げている。
天道は舌打ちし、大きくため息を吐く。
室内にとても言い表せない、微妙な空気が流れた。
最初に切り出したのは天道だった。
「んで?乗るん?乗らんの?」
「――乗る。詳しく話してくれ。」
おー。口調変わったな。
よっぽど
欲しかった
んやなぁ、倉木への攻撃と接近手段。「わかりやすく言うと、俺の異動やな。あと、13日の
「異動ですか。……ん?
相馬は不思議な表情を浮かべた。
「へ?……
「え!?……いや、何も。何があったんですか!?」
どうやら本当に知らないらしい。
嘘やろ?
嘘と言ってくれへん???
「……俺の不在時に1課2係7班に乗り込んで、班を乗っ取ろうとした話や。あれ?総務に通報済なはずなんやけど?厳重注意食らったはずなんやけど??注意喚起メール、各班に回って来とらへんの??」
「――は!?そんな連絡なかったぞ!?うちの班員も何も――」
「チッ。――アイツ、揉み消しおったな。」
……やっぱり、やりやがっとったんか。
おーおー。
周知させろや。害悪やろ。
「待て。上司の席が4ヶ月くらい空くと言ったよな……まさか。」
「次の候補筆頭らしいどす。……ちなみに班員からは、えっらい嫌われてはりますぅー。」
「…………そうか……。」
引きつった顔で、相馬はそう答えるので精一杯だった。
「だから、その4ヶ月に
興味
あらへんか?ってお話し。……わかるぅ?最初かなりぼーっとしとったけど。」「聞いても良いか?――天道さんは何を企んでる?」
「そっちの陣営に手を貸すなら、自ずとわかるやろ。」
「……聞き方を変える。欲しいものは何だ。――何があれば4ヶ月班をくれる?」
「まともな上司。」
「え。」
場が一時停止した。
相馬はわけがわからないと顔に書いてあるようだ。
鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情で固まっている。
「……だから、
まともな上司
や。……俺の周囲……倉木の派閥には存在してないやろ。同じ理由で俺の周囲舐めんなよ。
まともなんが
「……っそうだな。居ないな。……うん。」
相馬は鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情で賛同した。
拘束は溶けたが、思考回路が追いついていない様子だ。……大丈夫か。
「……続けるで?――2つめはリーダーを
「ん?替える必要なくないか??阿久津の時から不思議に思っていたが、本当に何があったんだ?」
班の外の人間は、班の中を知らない。
情報統制を行うためだ。――スカウトをコントロールするために。
スカウト制度は班員には良いが、上司としては悩みの種でもある。
場合によっては目を離した隙に、班内に敵対派閥のスパイが誕生してしまう事になるのだ。
特に公安系では致命的だ。
よって、公安系はその他の部署より気を使うし、かなりの策を講じている。
表で協力者の獲得競争をし、特捜で小規模な協力者――スカウトの獲得競争をする。
息つく暇もないが、上手くやればかなりの戦力になる。
実力者が欲しければ、己の実力でぶん殴る――
だからこそ、班の上司は力量が試されるし、そういった状況を見越して上手く班員を扱わなければならない。
俺はどうやら関係構築に失敗しとったみたいやけど。
関係性も良くしておかないと、マジで詰む。
だが、今後は班の運営を少しだけ相馬周辺に任せることになる。
最後に勝つために、天道はあえて班の内情の一部を公開することにした。――主に、班員を見てたら
すぐに気付ける程度の情報
を。「班を自由に操りたいと思う人間は、いつも
「えっ。」
「霧島はマネージャー……管理者側なんや。俺らと同じや。……将来的に警察とかに転職して、班を持ってほしいくらいに。ただ、リーダーとしてはあと1つ足りない。実力とリーダーシップはずば抜けとるけど。」
「……なるほどな。」
「
からい
事実、3課1係4班は何かあれば、いつも全面協力してくれる。
それに、裏作戦の時も1課2係7班と――
「あー……うちの班も懐いていたな。目立たな過ぎてそこまで気にしていなかったが……そういうことか。」
話すのはここまで。
これ以上は言う必要はない。
「――3つめは倉木の班への攻撃や侵略を防ぐこと。できるだけ関わらせないでほしい。アイツはヤバい。……既に知っている部分はあるかもしれへんけど、それ以上にヤバいんや。」
「それは――どういう。」
「自分で探せ。そこまで面倒見切れるか。とにかく班員に関わらせるな。……この3つが条件や。上司が倉木に探り入れ行くんは好きに動けばええ。思いっきり邪魔してやれ。」
天道はそう言い、悪い顔で笑った。
だが、相馬は困惑していた。
裏があるのではないかと思うくらいに、好条件すぎたのだ。
「……なぁ、何を企んでいる?条件が良すぎないか??簡単すぎるんだが??」
「俺にとっては無理難題やぞ。居らんもん。まともな奴。」
「一時的に正式に倉木の部下になるから、好きなだけ倉木に突撃して良いってことだろう?」
「ああ。人事に関しては俺の新上司が上手くやるらしいで。思いっきり、思う存分、邪魔してやれ。ついでに
「本当なのか?できるのか??」
「――上司の候補を複数貰えて、こっちで決めていいなら、な。」
「もちろん、それでいい。」
「へ?」
今度は天道が驚く番だった。
一旦持ち帰らんの!?普通、上司に相談しに行かへん!?
即答かます奴はじめて見たわ!!
「ん!?何かおかしかったか!?」
「…ええんか?敵に塩送って。…あの班を好きに操れるチャンスやで?」
真意を探りたかったので、わざと質問をぶつけてみる。
「魅力的な班だが、部下は私物ではない。
「マジかー。相馬さん、ほんまに
神上司
なんやな…。俺どんだけ上司ガチャ失敗した地獄に居ったんねん……。恩に着ますわ。ほな、こちらに連絡くださいな。」天道はスマホを出す。
相馬もスマホを出して、天道と連絡先を交換した。
「あ、ああ…。本当に大変だったんだな……。今度はホワイトな上司のもとに、異動で行けるといいな…うん??――待て。ちゃんと次はホワイトな上司の下に行けるんだよな??」
多分、次の上司もブラックやで……。
ちなみに
……阿久津や倉木よりかは遥かにホワイトに見える上司やろうけど。
「……あー。まぁ、本人曰く、阿久津と倉木ほどひん曲がってはないらしいで。詳しくは知らん。俺、今日まで入院しとったし。」
「そ、そうなのか。……お大事に――」
「――新上司のせいでな。囮に使われて拷問されて、入院しとりましたわ。まぁ、その甲斐はあったらしいんやけど。」
「は――?」
相馬は一時停止したかのように、固まった。
想定外だったらしい。
なぁ、コイツ、今まで人事運めっちゃ良かったんやない??
そこまで捻くれた屑共に当たってないとか、上司ガチャ良すぎたんちゃうん?
何やそのシステム。排出率、交換してくれへん??俺が引いたら事故るんやろうけど。
「……。今週中には……候補絞って連絡する。気を強く持ってくれ……。」
人間に戻った相馬が視線を彷徨わせ、しどろもどろになりながら応援メッセージを寄こして来やがった。
今週中に連絡するという事だけ聞いておこう。他はいらん。
「あ、そうや。
「あー。目に浮かぶな……。わかった。約束する。こっちとしても最悪だからな。」
「おおきに。――では。」
室内からロックを解除し、天道は会議室の外へ出る。
あー。人生、上手くいきませんなぁ。
天道は言いたい言葉を飲み込んで、足早にその場を去った。